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紅蓮の神の伝説  作者: 夢神 真
第4章 神と人
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第14話 獣外レヌ獣ノ遠キ壁

ティティの持つ壁。それは、ティティが持つ、猫としての想いだった。

 ~ティティ視点~


「…ニャー」


 わたしのまえに、ワタシがいる。

 でも、ワタシは、なんとなくわたしとちがう。


 ふんいきとか。


「ミー…」

『・・・』


 ちょっとこわい。


 近くにいく。


「・・・」

『・・・』


 やっぱりこわい。


 なんだか、おこられているみたい。目がいちばんこわいな。


『…どうしたの』

「ミャッ?!」


 きゅうにこえがきこえた。わたしはびっくりしてうしろに下がっちゃった。


『…ああ、声のせい。悪かった』

「・・・?」


 こえの元…ワタシはしゃべる。わたしはきく。


『ワタシはあなた。でも時間が違う』

「・・・」


 ワタシは、わたしとすがたは同じ。でも、ワタシとわたしは何かがちがう。


『これは、未来のあなた。ワタシはあなたが映した夢。そして、そう遠くない現実』

「・・・」


 そうとおくない・・・ゲンジツ?


「ミー?(げんじゅつ?)」

『…違うよ』


 いつか、しゃべれるようになるのかな。わたし。


 ―――――――――――――――


 ~三人称視点~


「ニャッ」

『そう、そうやって』


 言葉を話せぬ猫、ティティ。話せないといっても言葉を持っていないわけではない。何より、思いを伝えるべき相手は同族。この二匹が話し言葉を使わずして会話することは、容易だった。


「・・・ニ゛ャァァ…?」

『口を動かすのは必要ない、何度も言った…』


 しかし扱おうとするのは別の種族である人の言葉。人にとって適した道具である言葉は、猫である彼女にとっては全くと言っていいほど適していなかった。


「…ミー(つかれた)」

『…わかった。少し休憩』


 暫く濁った鳴き声を出した後、ぱたりと倒れるティティ。それに合わせて座る、ティティに似た猫。両者共に、少し動きが鈍くなっていた。慣れぬことをするのは、だれだって疲れるものだ。


「…ムー?(なにかないの?)」

『ここには何もない…』


 ごろごろしたあと、ふと気づいて質問するティティ。返ってきた答えは、謎だった。


「…ミッ!(ひまっ!)」

『そう言われても何もない…』

「ミャア?(なにもないって?)」

『文字通り何もない。ご飯も、水も。遊び道具も』

「…ムー(けちー)」

『それは世界に言って…』


 そう言いながら、不満そうな顔をする猫。彼女も暇なのは変わらないらしい。


『…でも、時間だけはある』

「・・・?」

『グレウスが言っていたこと。あなたの記憶にはあるはず』

「・・・ミー(かんがえるのやだ)」

『・・・』


 だいぶ思考が止まってきているようだ。


『…時間は止められている』

「・・・」

『空間はワタシにとっては自由自在なもの』

「・・・」

『休憩は終わり。声出し、始めて』


 猫はそういって、ティティを猫パンチでたたき起こした。


 ―――――――――――――――


 ~ティティ視点~


 れんしゅうのじかんは、ながい。


「ミャアァァ――『――ぁぁあああ』」

『そう、その調子』


 ずっと、声を出し続けてる。


「『あああぁぁ――』――ァァアアア・・・ミャ?(あれ?)」

『マナが切れてたみたい』


 ずっと、ずっと。


 もう、一日もおわったんじゃないかな。


『もう一回。このペースだと、あと10日はかかる』

「ミー(えー)」


 うん。おわってたみたい。


 このことばに近いことばをワタシからきいたときには、『あと12日はかかる』っていってたし。




 ・・・でも、まえにはすすめてるんだ。よかった。


「ミャアアァァ――『――ぁぁあああ』」

『・・・声の出し方は分かったと思う。そろそろ次に移る』


 わたしは、これをくりかえす。


 ずっと、ずっと。


 いしきが、とおくなるまで。


 ―――――――――――――――


 ~三人称視点~


「スゥ…スゥ…」

『疲れちゃったみたい』


 果たして、彼女はこの空間で何時間…いや、何日過ごしているのだろう。

 この世界には何もない。強いて言うならば周りに歪んだ色をもつ空があるだけだ。

 空腹などの概念も、精神体となった彼女らには存在しない。

 常に、彼女たちだけが存在するという時間と空間だけがそこにあった。


 いうなれば、この中で彼女たちは最強なのだろう―――




 ―――そこにいること、それ自体が苦痛でなければ。


「・・・・・・」

『慣れないことをした、かな』


 少し、その猫の口調が崩れる。


『分からないこと、か』


 現世に魂置く、黒猫(ティティ)。その写し身とでも言うべき黒猫は、寝てしまったティティの隣で、空を仰ぎ見た。

 歪んだ色をした空。赤、青、緑、黄色、白、黒。全てあるのにもかかわらず、混ざり合うことがないように感じる空。矛盾を孕んだその空間を見て、なんとなくため息をつく。


『たぶん、まだなにも分からないんだと思う』


 返事の鳴き声はない。


『ティティは、まだ獣であり続けようとしている』


 空には、まだ謎の変化をしている色達がいる。


『それを超えられなければ、ずっとここから出られず』


 空と同じ色なのに、あることを確信できる不思議な床の上で、




『彼女は、きっと壊れる』




 ぽつりと、黒猫はつぶやいた。


 ―――――――――――――――


 ~ティティ視点~


「・・・ゥ」

『あ、起きた』


 ・・・あれ。


 ここ、どこだっけ。


『まだ精神世界。立てる?』

「・・・ミャ(うん)」


 そっか、たしかこえをだすれんしゅうを・・・


『・・・』

「・・・ミャ?(どうしたの?)」


 なんだか、ワタシの目がかなしそうに見える。


『…なんでもない。いける?』

「ミッ!(もちろん!)」

『…そう、わかった。やってみて』

「ムー…ニャアァ――『――ぁぁああ、あ?』」


 あれ。こえが。


『・・・』

「『あーあー?』」

『…声が安定して出せるのはいいんだけど。せめてその証拠に別の母音を出してよ…』

「『あーあー・・・ぃあ?』」

『…いいや。その調子、ティティ』


 やった!こえがだせたんだ!


「『あーあー…』…ぃあぅ!ぅえあ!」

『それじゃあ分からない…』


 しばらく、わたしはよろこんでいた。このコエ(・・)をもっとがんばれば、きっとフィフィやほかのみんなともおしゃべりできるから。




 ・・・あれ?からだが。


『…ティティ。忘れないで』


 なんだか、うごかない。なんで?


『ティティはまだ猫。超えられていない』


 ねえ、せっかくこえがだせたんだよ?どうしてうごかないの?


 ・・・って、言おうとしたのに。


「・・・ぁお?・・・ぃお?」


 でてくるこえは、まだしっかりしていないことば。わたしの元のこえ(・・)とも、人のコエ(・・)ともちがうこえ。


『超えるためには、まだ足りないことがある』


 これじゃ、とどかないよ・・・


『・・・』


 どうすれば・・・


どうすればいいのか(・・・・・・・・・)って?』


 ・・・


『教えてあげる。少しでも。ほんの少しでもいいから』


 ―――




『ティティの、[(ケモノ)]を、忘れて』

ありがとうございました。

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