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紅蓮の神の伝説  作者: 夢神 真
第4章 神と人
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第13話 混ザリナガラモ流レ行ク魂

記憶。それはヒトが人であり続ける為に必要なもの。

ツェルは、その記憶の力と、輪廻によって絶えるそれに、一つの解を見つけた。

 ~ツェル視点~


「・・・」


 悩む。とにかく悩む。


「・・・むぅ」


 ただ記憶を取り戻すだけならさっきので終わったはずなのに…。


「・・・むむむ」


 何だか、記憶の食い違いが発生しているみたいです。




 私は、2度。死んだ記憶を(・・・・・・)持っている(・・・・・)




「一つ目は今私が霊となったタイミング、つまり囚われた時・・・」


 これは今の私が最初から理解していたことですね。100年の時は長かった…ですが、この記憶については今の私も十分理解していること。気にする必要はありません。


「・・・問題は、二つ目か」


 そう。武士として、討ち死にしたタイミング。他国との戦において私は誰かに斬られている。これもまた記憶の一つ。ほかの場所で勝手に捏造された記憶なんかじゃない。


「でも、それだと・・・」


 私の記憶において死亡した時が2つある、ということになってしまいます。


 それだけだったら、死す前の記憶を持って蘇ったという線もあります。偶然記憶そのままに転生、とか。考えられないわけじゃないです。が・・・


「・・・【偶像憑依(ケモノヤドシ)】」


 私の声に反応して、渦を巻く闇。少しすれば私の力は、獣そのものとなった。


「これを使ったタイミングは、私の記憶が蘇る前、だったはずですね」


 そう。これ自体は私が見つけ出したもの。これを見つけ出すのには、ある程度の死霊術への適性と知識、それに戦闘技術が合わさっていなければなりません。

 今の私ならすべてそろっていますが、武士だった私が死霊術への知識を持っているかと言われれば、まずあり得ないでしょう。なのになぜその時の私はこれを…?


 じゃあ、武士だった私が今霊になっていて、死霊術師だった私が過去の者だったのか?と言われると…実はそれには否定できる要素があります。


「・・・【指定再認】」


 気になることがありましたし、時間を遡って確認しましょう。この魔法は、生きており、かつ時間の指定ができる間のみという制限はありますが、かつて自分の起こした経験を蘇らせる効果があるのです。


 それじゃあ、思い出してみましょうか。死霊術師としての私の、とある風景を・・・。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


「【探索】…なんだか、この辺りに何かありますね」


 癒或(ゆある)氷山。外ではジュアルと呼ばれているその山の麓を、私は歩いていました。

 目的は一つ。かつての戦の中でも大きなものの一つ、■■の戦いの痕跡を見つけるためです。


 もともとこの辺りは探索されては居たのですが、その中に幾らか死霊術関連の反応…つまり、死の雰囲気がまだ残っているとのことで。除霊のついでに、私もいろいろ探しにきたのです。


「…お、この本は」


 反応があったあたりの地面を掘ってみると、そこには[戦手帳]と表紙に書かれた本がありました。著者の名がない辺り、恐らく武将に就いていた記録係か何かの手帳でしょう。


「[□月○日、●●将軍様ノ命ニヨリ、氷山ノ麓ニテ▲▲家ト開戦]・・・これ、あの■■の戦いの記述ですか?!」


 土の中から見つけたそれには、■■の戦いで戦った二家の名前も、その場所も、加えてそれらの理由など、ほぼ全てが過去の調査と一致する記述が為されていました。

 それだけじゃない、その際に動員した武士の人数、土地から導いた戦術、他にもいろいろな、当時出なければ知りえないことが事細かに書かれていたのです。


「マナを纏っているのが少し気になりますが、これはかなり調査の手助けになるかも・・・」


 そう思った私は、土にまみれたその本を風呂敷に包み、除霊の為の魔法を構築し始めました…。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ・・・ここで出てきたこの文献。この中に書かれていた地形や将軍様の名前などは、ほとんど私がかつて戦っていたあの戦い、あの状況と同じなのです。

 つまり、武士としての私が死んだタイミングは、完全に過去の戦いであると言い切れます。というかそもそも私がこの魔法を使い、記憶を蘇らせることができているので、今の私と死霊術師だった私の間の時間に、武士としての私が入る余地がないですね。


 ・・・さて。武士としての私が死んだ後、今の私がいるのなら。


 【偶像憑依(ケモノヤドシ)】見つけた

 →討ち死に

 →転生、死霊術師に

 →【偶像憑依(ケモノヤドシ)】再度見つけた

 →霊によって死亡

 →100年監禁

 →今


 となります。これだと武士の私が死霊術への知識を持っていないことへの謎が残りますが…


「時間上の矛盾はしてない…ように見える」


 そう考えはしました。が、ここでもう一つ。


「過去の私は、影縫(カゲヌイ)を持っていたのか?」


 武士としての私の記憶。それを思い出すと・・・




 その手にあったカタナは、数打ち物(量産品)でした。




「…たかが量産品で、あの【偶像憑依(ケモノヤドシ)】に耐えられるのでしょうか?」




 【偶像憑依(ケモノヤドシ)】はケモノという力を宿す。それでいながら人間としての技を扱うことができる力。それ相応に力と技に耐えられる刀でないと、すぐさま折れてしまうでしょう。


 ・・・正直、耐えられる気がしない。


 私の結論は、それでした。


「…謎がさらに増えてしまいました」


 どうしましょう。


 ―――――――――――――――


『混乱は収まって・・・いないな。これは』

「おかげさまで。むしろ前より混乱してるかもしれません」


 時間が長かったのか、ワタシが戻ってきてしまいました。


「あー・・・あっ」

『どうした?』


 どうせですし、質問をしていきながら整理してみましょうか。まずは前提から。


「あなた…いや、ワタシは、私が答えを出すまでここにいるんですか?」

『是。我はこの地にてお前の答えを待つのみ』

「では、あなたはどうやって私の答えを判断するんですか?判断基準がないわけじゃないでしょう?」

『それを教えては意味がないだろう?』

「基準があるかないかくらい教えてもらってもいいじゃないですか…」

『・・・ある。だがその基準は基準といっていいのかは謎だ』

「どういうことで・・・いや、いいでしょう。あとはもう幾つか。良いですか?」

『いいだろう』


 じゃあ、本題に入りますか。


「まずは一つ。私の魂は一つだけですよね?」

『是。輪廻に従い、其の魂は常に回る』

「次に、記憶は基本肉体にのみ宿りますよね?」

『是。記憶とは肉体の記述。精神にあらず』

「では私はどうなのでしょう?」

『…記憶に対する構造が違うのかもしれぬ』

「ちょっ」

『ジョークだ』

「えぇー…」


『真剣に応えるとだな』

「はい」

『其の魂は輪廻から微かに外れている』

「・・・はい?」

『記憶の構造云々は誰でも同じだが、その性質が魂によって左右されるのは知っているか?』

「魂によって…?」


 なんだか聞きたいことが聞けそうな予感がします。


『知らぬようだな。ともかくそのようなものだと理解すれば良い』

「はぁ・・・」

『話を戻すぞ。其の魂の性質には、輪廻転生の分かれ目にさえ記憶を残す、異様な性質があるのだ』

「記憶を残す…?」

『具体的には、時間軸の繋ぎを強引に引き戻す力、といったところか』

「何ですかそれは…」


 超人的ってものじゃないですよね、それ。


『其は思い出そうとすれば、過去数周の生き様さえ思い出すことができるだろう』

「思い出したところで発狂するのがおちですよね」

『うむ』


 ・・・。なんだか凄いことを聞いた気がします。


「・・・っと、衝撃に聞きそびれるところでした。最後に一つ」

『いいだろう』





「私の持つ【偶像憑依(ケモノヤドシ)】は、何を力の源としているのでしょう?」





『源…か』



 少し考えた様子をした後、ワタシは。



『時間、だろう』



 そう答えました。



「・・・」



 時間。


 確かに、ワタシはそう答えました。



「・・・あぁ、やっと掴めた」

『聞くことは以上か?』

「ええ。それじゃあ最後に一つ」

『・・・解、か』


 ええ。


「ワタシ・・・いや、あなた(・・・)は私だ。でも、私はあなたじゃない。あなたは、私の過去であり、未来であり、私とは時間軸が違う」

『・・・』



「これからも力を借り続けますよ?ケモノ(・・・)さん」



 その言葉が私の口から放たれた途端、辺りにあった死の気配は消え去った。


 辺りに白き光が差し込みだす。



『…解は、成された』



 同時に、ワタシ…いや、ケモノは。声を発し、動きを止めた。


 私を模していた見た目と構えは、ゆっくりと崩れていく。


 人の形さえ。



『また・・・見る日まデ・・・オォォ』



 あの時カタナがなぜ耐えたのか。そもそもケモノを宿すとは何だったのか。


 その解が、自分の中にすっぽりと納まった気がした。

ありがとうございました。

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