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紅蓮の神の伝説  作者: 夢神 真
第4章 神と人
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第12話 現世ト常世ト魂ノ別レ

ツェルの持つ壁を壊すために、必要なことは。

かつての自分と今の自分を、分かつことだった。

 ~ツェル視点~


「ガッグアあァッガアアあァァァぁぁあああ!?」


 記憶。掠る刀。矢。


「アア嗚呼ああっぁぐおおォォああアアあァァ!!」


 掠る刀、矢、飛び散る血、金属音。


「アッグおおォォォァァァ・・・っはぁ、はぁァアガア?!」


 刀、矢、血、音、声、魂、意思、空、上、目、炎。


「ガぁッグオッぉガあ嗚呼あああぁぁぁっっ!!!!」


 赤染空見上思辺飛散刀矢雨陽僕滅降注中掠刀意取襲士殺嘗記今蘇感・・・・・・・・・ッ!!


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 ―――――――――――――――

 ~三人称視点~


『・・・死とは、本来無いもの』


 こつ、こつと歩く音がする。


『・・・生を持つ者には、本来無いもの』


 刀を腰に着けた者が、こつ、こつ、と歩く。


『・・・其は、異質なり』


 歩き、着いた先には、ツェルが倒れていた。


『人の身を保ち、現世に住みながらも』


 ツェルがワタシと言っていたそれ(・・)は。


『死の力を今一度持ち、常世に繋がりを持つ』


 腰に着けていた刀をゆっくりと引き抜いた。


『その上で現世をまた通り、常世より現世を見るとは』


 光も何もない筈なのに、それは鈍い輝きを持っている。


『然し、其は異質であり、複雑であり、故に忘れていた』


 そして、それをゆっくりと構えなおす。


『死に至るに必要な、恐怖を』


 刀はゆっくりと振りかぶられ、次の瞬間ツェルの首をはねる軌道を描いて・・・


「ッ!!」

『おっと』


 ・・・と思いきや、ツェルが飛び起きたため、結局は地面を斬ることになった。


『ふむ。それでも素質はあるようだ』

「・・・死ぬときの時間なんてものを、なぜ思い出させたんです?」

『決まっておろう。それが道のひとつだからだ』

「道のひとつ、ですか」


 姿勢を戻すそれ(・・)。刀を構えるツェル。


「勘弁してください、あれは二度と思い出したくない」

『しかし、そう言うということは思い出したのだな?』

「おかげさまで。少し壊れかけましたがね」


 互いに睨み合う。


「死ぬ直前には意識が明瞭になりすぎる。あの時に限ってすべて記憶されてましたよ、私が刺される、その瞬間の全てが」


 そう。彼は、一度(・・)死んだ(・・・)こと(・・)がある(・・・)。彼は元々この【偶像憑依(ケモノヤドシ)】を見つけ出した後、暫く戦い、その途中で討ち死にした・・・。

 その記憶が、今蘇ったのだ。


「死霊術師としての適正を持っていながら武士となり、その地で死霊となってしまうなんて。傍から聞けばいい笑い話にはなりそうですが、それが本人ともなると・・・ははは」


『・・・その記憶、おかしくはないのか?』

「・・・?」

『…いや、いい。それが思い出せたのならば、その少し先も分かるだろう』

「・・・少し先、ですか」


 ―――――――――――――――


 ~ツェル視点~


 少し先・・・つまり、死の先(・・・)ですかね。



 ”戦うことそのものを求めている?”


 ”否。相手が我であることが必要。”


 ”霊であることが関係している?”


 ”是。しかし絶対条件ではない。”


 ”私とあなたが戦う以外に、道はない?”


 ”…半分是、半分否。”

  

 ”…どういうことです?”

  

 ”戦う以外に道はある。然し戦う以外に道はない。”



「・・・ああ、成るほど。これならあなたが言っていた意味不明な言葉も理解ができますね」

『正しいことは言っていただろう』

「ええ」


 戦うことは記憶には必要なかった。何も私は戦闘狂ではないですから、戦いの中に記憶を思い出す鍵はない。ただ、ワタシ(・・・)なら、その鍵を持っているから。当時の記憶…それも、私の死んだ時の死に方を覚えている人なんて、もう生きていないでしょうし。ワタシならそれを覚えている、と。


 霊であること・・・つまり、既に死んでいる(・・・・・・・)ことは条件の一つでした。何せ、死ぬ瞬間を知っていて、なお意識があるなんて、霊ぐらいしかないですし。ぞんび?外だとそんな者がいましたか。でも、あれ現世に戻ってきたとはいえ意識ないですよね?


 私とワタシが戦う以外にだって、記憶を思い出させる方法はあったはず。つまり、[ワタシと]戦う以外に道はある、ということ。しかし、今の私に一番手っ取り早く、死ぬ瞬間を思い出させるためには、戦うのが一番良いはず。というかそもそも私が戦闘準備していた以上、[あの時には]戦う以外に道はない。そういうことだったのでしょうね。


「では、頑張りましょうか。死の先の記憶も取り戻す為に、ね」


 そういって、私はワタシに突っ込んでいった。


『…結局こうなるのか。少しは矛盾に気づけ』


 その疲れたようなワタシの声は、私には届かないまま、またガンッと闇がぶつかる音が、世界に響いた。


 ―――――――――――――――


「・・・」

『・・・』


 互いに少しずつ、疲れていく。私もワタシも幽霊なせいで、体の疲れ自体は互いに無いのは良いことです。しかし・・・


「長い、ですね」

『…ああ』


 この空間。魂が飛び交うこの世界には、色が混ざりに混ざっています。とても現世のものではない。常人が見たら発狂するでしょうね。

 その空間の中に、幾ら居たのでしょうか、私たち。3日?そのくらいは経ってそうです。


『5日だ』

「あら」


 ボケてますね私。というか頭が止まり始めているのでしょうか。おかしいな、監禁されていた時よりも短い筈なのに。


『現世とは違うからな。監獄ともまた違うから、幾ら霊だといえども狂うものは狂うだろう』

「そういうあなたもかなりやられてますよね」

『我は少し違うがな』


 そんな中でもきっちりと刀同士はぶつかり合っています。さっきから刀の乱舞の速度が上がってるような気がしますが・・・。


『しかし、思い出してはきているだろう』

「ええ。死んでからの記憶も、かなり集まってきてますね」


 そう。この空間の中、断片的とはいえ記憶が取り戻されているのです。その殆どが戦いの中で。途中互いに戦いをやめ、雑談から記憶を取り戻そうともしたのですが、だめでした。5日間もずっと戦い続けているのは、それが主な理由です。

 でも、その内死んだ直後…つまり、魂が体から抜ける瞬間というのが無くて。ワタシはそれが欲しいようなのですが・・・?


「でも、これならあと少しで死んだ直後にもたどり着けるかもしれませんね」

『ああ。だが、そろそろ一度戦闘は終えよう』

「うわっと?!・・・なぜ?」


 急に戦闘をしなくなったワタシ。刀が急に止まってびっくりしてしまいましたが…どうしたのでしょうか。


『死の記憶。今一度整理してみるべきだと思うが』

「?」

『まず、お前は死した地を覚えているか?』

「ええ勿論。大和のすぐ上、今の氷山の付近で起きた他国との戦ですよね」

『では、百年前は何をしていた?』

「何をしていたも何も、そのころは何もできてないですよ。囚われていたんですし。霊に」

『…では、そこより少しさかのぼる。150年前は?』

「えっと、勿論生きていますよね。そこで死霊術師を…あれ?ちょっと待ってください、死?監獄の話は?」


 おかしいですね?私、元々、魂を百数十年前に囚われて、そこから適当に過ごして今に至るんですよね?

 じゃあこの記憶は?死んでる?戦場で?武士になってる?どういうことです?


「あれ。私の魂ってどこ行ってたんでしたっけ?」

『…冷静になれ。今までの記憶と今手に入れた記憶と、きちんと比べてみろ』

「え?ええっと・・・」


 ちょっと待ってください、何ですかこの記憶。戦に出た武士でしたっけ、私。死霊術師として将軍様の下で働いていたんじゃなかったんでしたっけ?


「・・・だめです、混乱して思い出せない」

『…時間を置こう。暫くしてから、また我に話しかけると良い。今のお前だと無理だろう』

「はぁ・・・?」


 ワタシはそういって、こつこつと足音を立てて離れていってしまいました。

 …仕方ないです。暫く待って、冷静になった頃にまたワタシに会いに行きますか。

ありがとうございました。

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