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紅蓮の神の伝説  作者: 夢神 真
第4章 神と人
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第11話 常世ヲ見シ者ノ作ル壁

ツェルの持つ壁。それは、世界を一度跨いだが故に起きた、一つのダメージだった。

 ~ツェル視点~


 私の前で集まり始めた魂。それは、ゆっくりと形を確かなものにさせていきました。


「…あれは」


 幾つもの魂、幾つもの意志の複合体。無念の結晶。


『・・・フォォォ』


 不確定な塊となったそれは、炎のようにも、獣のようにも見えていて。




 でも、それから感じる波長は。


「・・・・・・・・・私?」


 何だか、酷く私に馴染みました。まるで、私自身(・・・)でもあるかのように。


 ―――――――――――――――


『…ゴオオォォ』

「・・・」


 魂の集合体は、確かに私の前に佇んでいます。しかし、動く気配がありません。時折聞こえる魂の流れる音が、まるで言葉のようにも感じてしまいます。


『…ゴオォ…ゴオオォォ…』

「・・・ん?」


 ・・・いや、そう感じるのではなく、実際にそうなのでしょう。何となく、その音から意志を感じます。


『ゴオオォォ…ゴオォ…』

「・・・負の感情がほとんどですね」


 聞こえる音から感じられるのは、怒り、悲しみ、苦しみ。楽しさなどの正の感情は、薄すぎて既に塗りつぶされていました。

 一体、これは何なのだろう…。


『…ゴオオォォ』

「・・・[お前が悪い]?…」


 感情は、ゆっくりと声に変わっていく。その集合体から聞こえる音を、ゆっくりと解釈します。


『ゴオォ…ゴオオォォ』

「・・・[壊れる]…[すでに]?何が既に壊れているというのですか?」

『…ゴオオォォ』

「・・・[お前]…私が?」

『…ゴオォ』

「・・・[知れ]?」


 微かな流れ、微かな意志。それを見て、会話するように話しかける。死霊術の中でも、基本中の基本。魂から聞こえる声、漏れ出す感情を聞く技術。ほぼすべての生き物、ほぼすべての魂に通じる、万能な技ですが。何とかコレ(・・)にも通じたようですね。




 ・・・なんて、呑気に考えていたのが悪いんでしょう。


『ゴッ』

「え」


 ヒュワリ、と。


 気づいたときにはそれ(・・)は後ろに回っていて。


「・・・ああ、そういえばこんな具合でしたね。霊って」


 霊体となっていたはずの私の腕を、切り裂き(・・・・)。左手を霧散させてしまいました。


『・・・』

「いつの間にやら結構な得物をお持ちの様で…困りますよ、不意打ちは」


 霊の手には、腕の長さと同じほどの、脇差。いつの間にヒト型となり、持っていたのやら。


「その刀と姿勢、やはり…」

『…イカニモ』


 その刀の名は、影縫(カゲヌイ)。死した霊であろうと生きた者の影であろうと、その実体のない存在を現世に縫い付け、動かさない。そういわれるほど闇に適性を持った刀。死霊術を扱う者にとって眉唾物の脇差であり・・・生きていた頃の、私の愛刀。

 見覚えのある残心の姿勢で、ただそこにいる魂の集合体・・・いや、ワタシ(・・・)は。


『ワれハ…そなタを…映す者』

「ドッペルゲンガー、なんて言葉を此方の世界で聞いたことがありますが。まさにそれですねぇ…」


 ゆっくりと振り向き、言葉をゆっくりと人のモノへと変え、改めて刀を構えました。


 仕方ないでしょう。霧散された左腕を治し、私もまた、ゆっくりと刀を闇を固めて作り、構えます。


『「元将軍家属【死霊術師】、津江瑠。我映す者よ、いざ参る」』


 ―――――――――――――――


「…目的は」


 ―――ガキィンッ!と鳴る、刀と刀。本来ならば多少欠けても可笑しくない勢いでぶつかるそれらは、そのどちらも無形のモノより成り立つが故、損傷の一つもないままに、ぶつかり合いを成立させていました。


『…強くさせること』


 まるで、暴走。大和の大名にまで、異質(・・)と称された私の型。本来憑依系にはさほど特化していないかの地にて、私は自らに()を宿すことが可能でした。


「これを・・・【偶像憑依(ケモノヤドシ)】を、ですか?」


 それは、意志の残痕を扱う、一風変わった大和の死霊術が生み出した型。死霊となった今、宿す方法も、その力の加減も直感で分かるおかげで、強くなれました。


 …まあ、死んだ直後に多少振ったぐらいで、暫く刀を振ってませんでしたが。体が覚えていてくれたようで、何とか今は動けています。良かったです。


『…否』

「え?」

『昇華させるは技にあらず』


 そういうや否や、頭をかっさらうかのような形で振られる影縫(カゲヌイ)。それらを見る限り、やはり相手…ワタシ(・・・)も、【偶像憑依(ケモノヤドシ)】を扱っているのでしょう。首を振り、かわしながら話を聞いていきます。


『我が求めるは其が身と心なり』

「…どうやって強くするのです?」


 同じ力、同じ型でぶつかるならば、残る勝敗の要素は技量と運。後者は信用できない以上、どこまで私とワタシの差があるかがポイントになりますね・・・。


 それに、私はワタシから言葉を聞きださなくてはいけない。この状況が分からない以上、はっきり言って私が戦う意味はないはず。戦う意味を見出せなくては、正直言って本気を出すに値しない。そういう点では私の方が少し不利です・・・。


 ガキンとまた音を出して、刀と刀がぶつかり合う。と同時に私は話を始めました。


「強くするために。それだけならば私と戦う必要はないはず。何故戦うのですか?」

『分からぬのか』

「え?」


 少し動揺。狙いが逸れ、ワタシの頭に向かった刀をワタシは回避する。


『この地に立つまでの道筋を捉えよ。それこそ回答よ』

「・・・戦いながら考えろと?」

『ふむ。それもまた是、我も目的を終えられる』

「・・・」


 反撃とばかりに胴へ振り抜かれる刀を、闇を固めて防ぐ。動かなくなる刀。


『考えるは勝手。然し我は攻撃を止めぬ』


 そういうと、ワタシの刀は霧散。ワタシの手に戻り、体制を戻した私の刀とまたぶつかりました。


「その問いについて、こちらから質問すれば答えは帰ってくるのでしょうか?」

『ものによる。答えに直接繋がるのならば控える』


 暫く睨みあう私たち。刀を互いに弾き、元の位置へ。


「戦うことそのものを求めている?」

『否。相手が我であることが必要』

「霊であることが関係している?」

『是。しかし絶対条件ではない』

「私とあなたが戦う以外に、道はない?」

『…半分是、半分否』

「…どういうことです?」


 刀で模した牙をいなされると同時に、ワタシの模した返しの爪がくる。それを蹴り、また刀で噛みつく。【偶像憑依(ケモノヤドシ)】を利用した戦いは、獣とケモノが食らいあう様を見るかのごとく、続いていきます。


『戦う以外に道はある。然し戦う以外に道はない』

「主語をください主語を。矛盾しているじゃないですか」

『それを探すことこそ答え。よって答えられぬ』

「はあ、困りました・・・っとぉ!!」


 ひゅおん、と耳元でなる風音。見れば刀が耳のすぐ真横を通っていました。危ないこともあるものです。止まらなかったら死んでいた…




 ・・・あれ。何処かでそう感じた覚えがあるような。


『…半ば偶然とはいえ、目的は、一つ達された』


 そのワタシの言葉は、私には届きませんでした。


「・・・・・・あ」


 耳元を掠る、刀。


「・・・・・・」


 私が霊であるという、事実。


「・・・」


 戦いが条件の一つにあるという・・・




 いや、その時に使われる、武器(カタナ)という、存在。



 私の中でそれは偶然すべて重なり、組みあい、混ざり合って・・・



「ッガア゛ア゛ア゛アアァァァァァぁぁあああ!!!!」



 脳内で、過去の記憶が蘇った(フラッシュバックした)



『自らの死の原因(トラウマ)を超えろ。我が戦った理由はそれだけだ』

ありがとうございました。

こんな作品を見てくれている人がいることがありがたいです…!

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