第10話 闇トイウ性ヘノ抗イ
闇と光、人と神。相容れぬ存在とは、一体何か。
フェイアンは、それを解くために必要な鍵を、思考を、一つの解を見つけた。
~フェイアン視点~
「ああああぁぁぁぁ!!」
互いに、殴りあう。
『おおおおぉぉぉぉ!!』
互いに、吠えあう。
―――…ァン!カン!カァン!ガァン!!
拳と爪が響く音は、より強く。
より激しく、鼓動を響かせる。
・・・暗い。然し、明るい。
「ぬおおおぉぉぉっ!!」
『どりゃああぁぁぁっ!!』
嗚呼、確かに此処は暗い。光も何もないからのう。
然し、妾から見れば明るい。光を超えた、何かが見えるのじゃ。
「何だか吹っ切れた気分じゃ!」
『ほう?』
…妾は闇じゃ。闇の者。闇に生きる者。自らを暗き世に隠し、自らを他と混じり合わせることが望み。じゃから暗い地を本能が好むのは事実。
じゃが。
「妾が光を求めるか…!」
『どうした、気でも狂ったか?』
「なあに、気づいただけよ!」
妾は、闇である以前に妾じゃ。生き物としての、な。
生きし者は、闇を嫌い、光を求める。何故なら、それが自らをはっきりとさせる力を持っているからじゃ。
妾はそれに、無意識で反していたようじゃな。黑暗という、自らへの鎖によって。
「恐ろしいものじゃ。今までが盲目であったように感じてしまうほど、光を求めておる」
今。妾は、闇へと抗うために、こやつと戦っておる。
それが、はっきりと分かったのじゃ。
「やっと意味を成してきたぞ?妾映す者よ!」
『…これなら、そろそろ終わりじゃな』
今一度、互いにぶつかり合う。
「ぜあぁっ!!」
『ふんっ!』
龍の形を取り戦えば、互いを見抜き、そして互いが攻撃を受け合う。龍としての長所なぞ、相手が龍であるせいでほぼ意味などありはせぬ。
『はあっ!』
「甘いっ!」
人の形を取り戦えば、すばやく繰り出せるとはいえ龍に比べれば弱かった。受ける側は受ける部位を龍と化せば、先ほどまでなら無傷でいられておったのじゃ。
「そこじゃっ!」
『ぐっ?!』
しかし、今は違う。妾にははっきりとした意志がある。光のような、本来持つべきではない輝きが。それが妾を映す者を穿ち、壊す力を持っていた。
そのおかげか、次第に妾がやつをゆっくりと上回っていったのじゃ。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
『があっ?!』
もう、この空間には色々なものが入り始めている。まるで元の世界に戻るように、生きるために必要な空気達に始まり、妾らが力とするマナさえ戻ってきた。
妾はそれを利用し、より強い力をぶつけだしたのに対し、相手は何もしてこない。
・・・いや、してこれないのじゃな。
「やはり」
『ぐっ・・・。どうした?』
「世界に、縛られておったのじゃな。妾も、お主も」
奴は、答えない。
「世界そのものが、どのようなことを指すのか。それに妾らは引っ張られておった、というわけか」
『…妾とて、神ではない。あくまでもお主を具現した、現身にすぎぬ』
「されど妾を導いた。それは世界の…いや、[この世界の意志]じゃろう?」
『これを作り上げた者が望むことを、妾は成し遂げただけじゃ。妾は、ただお主の影にすぎぬ』
「よく言う」
妾…闇という存在に、影などないというのに。
「妾を前に、影を申すか」
『それはそれで面白かろう』
「光がなくては、影なぞ居らん」
光持たぬ妾に、影なぞ宿らんわ・・・
『いや、お主には光がある』
「・・・なに?」
『それが、今宿ったのじゃ』
「・・・」
光・・・
「それは、許されることなのか?」
『何も、闇と光が相容れぬことを、世界が望んだわけではあるまい』
「・・・そうか」
改めて自覚する。光を望んだことを。
「それが、世界の望んだことなのかどうかは、知らぬ」
『・・・』
改めて、思考する。自らに芽生えた考えを。
「じゃが、それなら―――」
言葉は、頭の中に浮かんでいる。
・・・詠唱しようかのう。
「・・・【照亮所有的光。除了阴影导致美国】」
妾が求めた、光という道しるべを呼び出す詞を。
「【除了黑暗、超出边界】」
闇に縛られた妾を、貫くための光を。
「【对我来说、显示一个新的世界】」
妾に見せよ、その輝かしさを。
「【赖光】」
――――――瞬間。
―――・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「・・・やれやれ。この世界は出来損ないじゃな」
『・・・そうかの?』
崩れ始める、黒い壁。世界の壁じゃな、あれは。
『まあ、確かにあれも人ではあるからのう。神の意志を継ぐとはいえ、思考に限界は有り得る』
「それもそうじゃな。・・・神、か」
光…いや、あれは世界の狭間か。色の付けようがない。混ざっておる。
あんなものを見れるとは、生きてて損はないのう。
「あちらに戻ったら、また縛られる必要が出てくるのか?」
『いや、どうじゃろうか。分からんのう・・・』
ゆっくりとこちらに近づいてきておるな、あの狭間。
『じゃが、たった一つだけ言えることはある』
「・・・?」
…狭間が近づいてくるって、何じゃその表記は。訳が分からぬわ。
『神は、神でありながら、神にあらず。今度からは、この解を求めることを自らへの題とするがよい』
「・・・はははっ。それはまた、難問じゃのう」
…いつか、それを。世界を、妾が創りだすことになるのだろうか。
「既に一つ、思考をしているというのに。さらに問いを出すか…」
『悪いか?』
妾が神であるということに、少し疑問を持ち始めた事実。
それは、今の一瞬で出来上がったものじゃ。
「やれやれ。それと同じことを、ヒトの習い処における教師として出してみろ。大半の生徒が泣くわ」
『それならそれでよい。お主は、それを喜ぶ側じゃろう?』
・・・考えてみるかのう。永く生き過ぎたが故に、考えることを少し忘れておったわ。
「・・・くははは…。そうじゃな。なにせ、それ以外にすることがないのじゃから。喜んで解くじゃろう」
『なら、これが宿題じゃ。とっておけ』
そう言って、彼女は妾に近づき。
『・・・ありがとう』
そう聞こえるか否かというところで、光が妾らを包み。
すべては、成されたのじゃった。
ありがとうございました。
時間感覚掴めにい…。




