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紅蓮の神の伝説  作者: 夢神 真
第4章 神と人
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第9話 龍ハ今一度己ヲカエリミル

フェイアンの持つ壁を壊すために、必要なことは。

一度自らを、無くすことだった。

 力は、予想通り互角じゃった。そして、戦いが続いていくにつれて互いに手詰まりになっておった。


「ぬおりゃあっ!」

『甘い!』


 龍の形を取り戦えば、互いを見抜き、そして互いが攻撃を受け合う。龍としての長所は、相手が龍であるせいでほぼ意味がなかったのじゃ。


『はあっ!』

「効かぬっ!」


 人の形を取り戦えば、攻撃側はすばやく繰り出せるとはいえ龍に比べれば弱い。受ける側は受ける部位を龍と化せば、容易く無傷でいられておった。


「せやっ!」

『まだまだっ!』


 かといって魔法に手を出したところで、我等は龍である以前に闇の者。互いが互いの力を吸うことができるせいで、碌に使えない。


 ・・・まあ、相手を出し抜いてぶち当てることができれば、かなりの傷を負わせられるじゃろうが、な。それは妾とて同じこと。警戒はしておる。そしてそれは相手も同じ・・・。


「加えてこの空間。どうなっておるのじゃ、マナの一つもないとは」

『それでも己が内に残るマナは使えるであろう』

「そういう問題ではない。この中にいる妾らは、意思の塊なのか?」

『そうともいえよう』


 変な回答じゃな。互いに距離を取り、話をする体制になる。


「もう少し詳しく言ってもらえぬか?」

『ここにあるのは、本来あるべき姿の【(フェイアン)】、お主の姿。そしてその現身である妾のみじゃ。今のお主は、もし神がお主を神の贋作と決めなかったら、といったときの、本来の姿と言っても変わらぬ』

「・・・ほう?」


 やっと回答らしい言葉が聴けた。つまり、妾がもつ魂の姿か。それならば納得ができる。そして、この空間に妾を放り投げた理由も。


「妾は、妾として戦え、か。面白い」

『ああ、言い忘れておったが。その魂、マナについては生きる限界量しか入っておらんぞ?』

「・・・」

『感覚がいつものと変わらんでおったじゃろうが、その点は要注意じゃな』


 今、攻撃手段が一つ消えたのじゃ。もう少し早く言ってくれい・・・。


「っと、そういえば」

『ん?』

「なぜここに来る前、妾の同胞らに会わせたのじゃ?まるで意味が感じられんのじゃが・・・」

『ああ、それか。気にするでない、波長を合わせるのに適したものを集め、一度その共通点を介してからフェイアンに繋げようとした結果、偶然にも六神龍が集まっただけじゃ』

「・・・あやつらは、全く」


 運が悪かっただけ、と言ったところかのう。「道連れ」と土のが言っておったが、ちょいと違ったの。道連れでもなんでもなく、偶然か。


「元の地には戻したのか?」

『既に終わっておる。気にする必要はない』


 なら良い。


『一応謝っておいてくれるかの?していることをそのままに来させてしまったからな』

「あー…光のには、特にな」


 花の水遣りの途中だったか。後でやっておくかのう。


「・・・ま、この場を抜けられたら、じゃがな」

『そう簡単には抜けさせぬぞ?せりゃあっ!』

「ちゃっちゃと抜けさせてもらう!はあっ!」


 ―――――――――――――――


「・・・はっ!」

『む?』


 先ほどからいくら時が進んだことだろうか。暗闇の所為で全く時間間隔が掴めぬ。1日経っただろうか?経ってないだろうか?経ったな。多分。


「妾らは、これ以降もこの暗闇の下で戦うのか?」

『そうじゃろう。気が狂うかもしれぬか、まあ頑張れ』

「死ぬぞ?」

『魂だから死なぬじゃろう』


 多少気合い入れが必要かもしれぬな。これは。


「【骗自己(ピアン・ジィ)】…やれやれ、これを使うことになろうとは」

『…その大切なマナを、自分を騙すため(・・・・・・・)に使うのか?』

「意味があると思うからの。自らを強くするために、自らを破滅に近づけるのは良い。じゃが、行き過ぎて滅ぼしたら元も子もないからのう」

『ふむ。確かそれを、ちきんれえす、とか言ったかの?』

「あちらの言葉ではな。それと、それで使い方があってるのかは知らぬ」


 【骗自己(ピアン・ジィ)】。自分を騙す。ただ、それだけじゃ。しかし、元々分かっていることを騙すことは、非常に難しい。闇の力には、そういうものを助ける術もいくらかある。これもそのひとつじゃな。

 闇は、すべてを隠すことができる。すべてを飲み込むことができるからじゃ。




 自らの、《光に対する(本来生きるために)無意識下で(必要なはずの)持っている意思(生物としての意思)》でさえ。




「なぜ自らを騙したか、じゃと?この空間上で、生きる意志なぞほとんど意味を成さんじゃろうが」

『まあ、そうじゃな』

「やれやれ。いやな感じはしておったのじゃがな」




 ・・・じゃが、そのおかげで自らを見直せた気がしたのう。




「礼を言うぞ、神よ。妾は創られたとはいえ、忘れていた」

『誰に言っておるのじゃ』

「お主ではない…別の者じゃな」

『・・・そうか』


 まあいい。やり直すとしようかの!


「そもそも妾がこの地で一日耐えていられるのも、此岸の者にとっては可笑しな事じゃな、と思うての」

『そうじゃが、どうしたのじゃ。急に』

「妾は、この闇の中に活路を見出した」

『・・・そうか。ならば、越えてみせよ。己・・・いや、己が魂の器(・・・・・)を!』

「この壁・・・越えてみせよう!行くぞ!」


 ―――――――――――――――

 ~三人称視点~


 暗闇以上に何もない世界。そこには光も、空気もマナも、地面も重力も。何もない。


 生命だって、魂だってない・・・はずのその世界で。


「どりゃあっ!」

『女性が出していい声ではないだろうそれはっ!』

「いまさら気にすることもあるまいっ!」


 二匹の龍が、時に二人の龍人となり、時に片方龍となり、人となり。


『はあっ!』

「やはりそちらも動きが良くなっとるのう!」

『お主に言われとうないっ!!なぜ動ける?!』


 時に互いの鍵爪を、時に互いの豪腕をぶつけ。


「甘いわぁっ!!」

『うおぉっと?!』

「ちぃ!避けたか!」

『人の身を保ちながら龍の腕をぶつけようとするな馬鹿者ォ!!』

「馬鹿などと言ってはいかぬぞ?」

『お主に言われとうないっ!』


 時に龍の鱗を纏った分厚い尻尾と、細いが内部に強力なマナの流れを感じる腕がぶつかりあう―――――




 ―――――フェイアンと、その現身の戦いが、今もまだ続いていた。


「せああぁぁっ!」

『らああぁぁっ!』


 本来ならば空気が無いせいで出せないはずの、言葉と言葉さえぶつかり波動を発す。


「はははっ!世界にさえ鼓動が通り始めておるぞ!!」

『何じゃと?!そこまで戻った(・・・)のかっ!!』

「少しずつマナを感じるようになっておる!どういうわけかは知らぬがな!」


 彼女らが戦い続けた波動は、いつしかこの何も無い空間をゆっくりと変えることにさえ成功していた。


『・・・えぇい!もうどうにでもなれ!壁はあと少しで壊れる!ならばそれでいい!』

「どういうことじゃ?」

『フェイアン!この世界が今一度構築しなおされる前に、()を壊せ!それまでは全力で戦っても支障は出まい』

「ほう!期間はいかほどじゃ?」

『それがじゃな。大体1ヶ月・・・』

「十分あるではないか!今まで何日たっておるのじゃ?」

『大体10日ほどじゃな。かなり白熱しておったが、この程度じゃったか』


 少しほっとした様子の、フェイアンの現身。


「ならある程度はゆっくりしていていいのではなかろうか?」

『いや、それはできぬ。今までは時間制限が無かったが故、多少気楽ではあったが。今回1ヶ月とはいえ、時間が出来てしまったからのう』

「ほう・・・ならば行こうか!壁のその向こうへ!」

『やれやれ・・・』


 楽しそうなフェイアンと、少し疲れた表情をしているフェイアンの現身。


「参るっ!!はああぁぁぁっ!!」

『うおおぉぉぉっ!!』


 今一度向き合い、彼女らは滅びの前の戦いへと踏み出した。

ありがとうございました。

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