第8話 神ノ贋作ノ至リシ壁
フェイアンの持つ壁。それは、自らが神の贋作であることだった。
~フェイアン視点~
「・・・その言葉、真か・・・?」
「そうよ・・・だから、待ちなさい」
妾は、ただ妾の同胞に、ここの場所と妾の行うべき事を聞いただけなのじゃが…。
「なぜ、[この場で待て]としか言われないのじゃ…?」
「お前だからじゃないか?」
むむむ…。一体全体…。
「なぜこうなったのじゃ…?」
とはいっても、理由なぞ少し前にしかないのじゃがな…。
―――――――――――――――
~フェイアンがここに来た直後~
「なあ、そこな同胞達よ」
「む?」
「何だ?」
「何よ?」
「何?」
「…?」
上から順に、妾、光、火、水、風、土の、六属性の神龍。妾の同胞…なのじゃが、この場所に集められている意味が分からぬ。確か、妾らを鍛えるとか何とか、グロウスとやらが言っておったのじゃが。
因みに、同胞らの見た目は妾の龍姿の色を変えた程度のものじゃ。妾も今は龍姿。喋っているのは龍語じゃな。
「想定しているものと違うぞ…?」
「何の話だ?」
「ああいや、光の。妾は確か、グロウスとやらに鍛えてもらおうとしたのじゃが、いつの間にかこちらに飛ばされてきていたのじゃ」
光の。つまり光神龍の名前はグアン。趣味で園芸をやっているらしいが、龍の体型では難しい、とのことじゃ。その為にヒト型になるのを勉強しており、今では6人の中で一番ヒトに近い形をとれるじゃろう。
「ふむ。我は何の脈絡もなく、だったからな。闇のは理由を知っているようだ。しかし、精神体のようで助かった」
「時が流れぬから、か?」
「うむ。花にやるべき水をそのままにしてしまったからな」
ふむ。光のは何も分からず、か。
「あ、俺なら一応聞いてるぜ?」
「炎のか。どうしたのじゃ?」
炎の。炎神龍の名はフォイエン。少し元気すぎるやつで、風のをいつも困らせている。生命が持つ活発さは、こやつから始まっておる。
「いや、グロウスだろ?あいつだったら、今日ここに来る直前位に、なんか俺たちを飛ばすー、とか言ってたぜ。理由は詳しく教えてくれなかったけどな」
ほう。炎のはグロウスを知っていたか。炎つながりで何かがあるのじゃろう。じゃが理由は知らぬ、と。
「まったく、それでいいのですかあなたは」
「水の?どうしたのじゃ」
水の。水神龍の名はシュイ。炎のを抑えるストッパーの役割を持っておる。少しきっちりとした意識もつ彼女は、我らの中でもリーダーのような存在じゃ。話し合いは彼女を中心に展開されることが多いの。
「私も特にはなにも。ただ、少しだけ何かを忘れているような…」
時間がかかれば思い出せるかもしれぬ。まあそっとしておこう。
「・・・」
「お、土の。どうしたのじゃ?」
土の。ロンジョンの名を持つ土神龍の彼女は、言葉がほとんど口から出ない。というより、口数がないに等しい。何故か水のが苦手としておるのじゃが、そんな彼女がここに言を言いにくるとは、珍しいこともあるものじゃ。
「・・・神様・・・試練・・・闇宛て」
「ふむ」
「・・・強くする・・・六神龍・・・道連れ」
「…何?」
これはひどいことを聞いたものじゃ。妾はどうも、皆を巻き添えにした試練をされるようじゃな…。
「困ったものね。何があってそんなことを…」
「うむ、風の。すまない。どうも妾の身勝手が故のようじゃ」
風の。風神龍フォンは、その場に合わせた言葉を使う。気を使う達人じゃ…が、何故か土のとは合わせられない。というより、合わせる前に土のが逃げる。妾らが集まるときには普通の口調となって、妾らをそこそこ仕切ってくれる、いいやつじゃ。
「それはそうとしても、なんで?詳しいことを私たちは聞いていないのよ」
「あー、それはじゃな。妾が壊世大陸を離れてからの話になるのじゃが…」
とりあえず、皆に妾の今の状況を話すことにした。
その結果…
「あー、うん。大体わかったぜ」
「闇のがよく行っていることではないか」
「まあ、フェイアンならよくやってますから、仕方ないです」
「・・・理解」
「旅ねぇ。行ってたのは知ってたけど、その途中でいつものようになるとは思わなかったわ」
「いつもの、とは酷いのう…」
割と散々な評価をもらったのじゃった・・・が、そうやって話が終わった時に。
「まあ、そう気を落とさずに…ん?」
「どうした、水の」
「いや、今だれかから連絡が…」
どうやって連絡を受け取っておるのじゃ、こいつは。
とにかく、どうも水のが何者かからの伝言を受け取ったようで、説明してくれた。
「おそらく、先ほど話に出ていたグロウスという男からの伝言です―――――
―――――[フェイアンよ、そこで待て。さすれば道は開ける]・・・以上です」
・・・・・・む・・・?
「…そ、それだけか?」
「はい」
・・・どういうことじゃ。
「風の、水のが話す意味…というより、グロウスの伝えたい意味は理解できたか?」
風のは、言葉の中にある意味をとらえるのが得意じゃ。じゃから、もしかしたら何かが含まれているかもしれない、と思ったその言葉の意味を聞いたのじゃが…
「・・・あー、これには深い意味とかは無さそうね」
「・・・」
・・・何・・・じゃと・・・。
「・・・その言葉、真か・・・?」
そうして冒頭に戻る、というわけじゃ。
―――――――――――――――
「待つのも暇じゃのう」
「だな。なにかやるか?」
「今は何も持っていないじゃろうが…」
仕方なく、妾らは待っておった。深い意味が特にない、という風の言葉を信じるならば、ただここで待つしかない。時間が過ぎるのはよく感じることなのじゃが、意味のない待ちほど面倒なことはない。
待つこと暫くして。それは突然訪れた。
「ふぁああ・・・暇じゃn」
――ブチッ
「・・・ん?」
目を閉じ、欠伸をしていた妾の耳に、何かが切れる音がした。何の音じゃ?
仕方なく目を開けると…
「…成程、突然の変化、じゃな」
妾の目には何も映らず、妾の同胞はすべて消えていた。そこには何もない世界が、広がっておった。闇も、光も。物も、人も。マナでさえ、何もなかった。
「いやはや、精神世界とは恐ろしいものじゃな・・・ん?待て。何もない、じゃと?」
おかしいのう。妾は意志とマナの力でこそ動ける者。そのマナさえないというのに、何故動ける?
『…接続に時間がかかったのう』
「ん?」
声のする方へ振り返る。
『仮にも神、か』
「むー、どちら様じゃ。名を名乗れ!」
そこには妾に似た龍が佇んでいた。目に見えずとも、感じることはできている。色こそ分からぬが、どうも波長は妾と同じなようじゃ…。
ま、十中八九妾の現身じゃろうな。
『何を。わかっておろうに』
「ははーん…それが試練、かのう?」
『いかにも、じゃな』
「接続云々とは?」
『妾をつくりだすための力よ』
その龍から感じる波動が強くなる。
『この世界で、お主の力は世界に直結せぬ。妾は、神の力により強引な突破をしてきたお主を、今改めて元持つ性質に目覚めさせる必要があるのじゃ』
「難しいのう。ゴリ押しでも問題ないではないか」
『それではこの後、壁にぶつかるぞ?』
「その時に考える、で良いではないか…」
はあ、仕方ない。妾の力を強くする。そう決めて彼奴に頼んだのじゃから、多少は我慢するかのう・・・
「六神龍が一つ、【闇】。我が裏よ、いざ参る!」
ありがとうございました。