第7話 最強ハ地獄ヲ逝く
自分に気づくとは、一体どれほどの罪なのだろうか。
モノは、自らの暴走と、己の代償を表す地獄への道に、一つの解を見つけた。
~モノ視点~
『【機関起動】・・・あれ?』
「・・・」
ボクは、僕が動かないことに疑問を持っているみたいだ。
『えっと・・・なんで【機関起動】したのに動かないんだい?』
「・・・」
それを言われても、僕は動かない。
『何かしているのかな・・・?』
「・・・」
返答もなし。こうも止まっているんだから、殴ってくればいいのに。律儀に止まっているようだ。
とはいっても、正直安心したよ。
今、動けないし。
「・・・」
それもそのはず。今僕が行っているのは・・・
「(5,.g@=thiy9d\gtyed@)4thiy9d\2@=rs:exyted{27.2735p57.8417x 602...}vz94ukfbbjw@tu?)」
思考の短縮化、なんだから。
言葉にならない言葉。それは、人間以外も持つことができる力のひとつ。僕たちが人として考えるために必要なものは言葉だ。でもそれじゃあ、ほかの動物たちはどう動く?どう動かなければいけない?
そう。生きるためには、考えなくちゃ始まらない。本能でさえ、わずかな思考で考えに考え、それが紡がれて形となったものなんだから。
じゃあ、そのときに使った言葉は何だ?って。そう考えて。
その結果、今。コレが、思い浮かんだんだ。
「(3ewskg)lfnq\d@2@ykatomnq\3sfsf@rq@:...)[[start]]」
頭の中でそのシグナルが組まれたその時、僕は加速する。
『っ?!』
「2@=rsgs@4jub=s@ted@)mhv)4dwe...ハァッ!!」
『ぐっ?!』
ブーストをかけたことにより威力の上がったパンチ。その暗号のような言葉に惑わされたのか、防御があまりきちんとできていなかったボクの胴にジャストミート。
「:exyc@Zb4\」
『くっ、その言葉・・・』
「x@v)4dwe{(159,175)}」
『がぁっ!』
言葉を紡ぐ。そのたびにボクへと拳が当たる。
「{(59,107)(146,194)}」
『がっ…まさか、それって…!』
「{(95,196)(130,142)(150,213)}」
右肩、左脇腹、右腰、心臓付近、左太腿。言葉を紡ぐたび、加速していく僕の拳。
「{118160231184115968826117433037146...}」
胴左手首動脈付近右膝左爪先右腕関節・・・。
もはやボクは声も出せない。僕も、ただ暗号をつぶやくのみ。
いうなれば、今の僕は機械だ。
目から入る情報と、今までの知識というデータから、最高の一撃を連続で繰り出すだけの、機械。
寸分の狂いなんてない。狂いなんて、僕の体が許さない。
『・・・!!』
「{1054011430103381024210732104291083110232113321133211332113321133211332...}」
いつしか、その攻撃は全て、計算が導き出した結果の最大効率、脳へのダメージ・・・つまり、ボクのコアへの攻撃となっていた。
少しのずれも許さない。1本の指の違いだろうが僕には許せない。
でも安心はできる。だってミスなんてないんだから。
「{1133211332113321133211332113321133211332113321133211332113321133211332...}」
何度も繰りかえす。何度も繰り返せる。何度でも繰り返そう。
今の僕にはそれが最良なんだから。
「{1133211332113321133211332113321133211332113321133211332113321133211332...}」
何度も攻撃を繰り返すうちに上がる速度。でも処理能力が追いつかないわけがない。
だってそれが僕だから。
「{1133211332113321133211332113321133211332113321133211332113321133211332...}」
・・・なんだか地獄を歩いている気分だ。
何度も同じことを繰り返して。
「{1133211332113321133211332113321133211332113321133211332113321133211332...}」
永遠に許されない大罪を負った罪人が、地獄の釜と針の山、それに血の池を往く。
全部渡りきったら、門番にまた最初に戻されて。
「{1133211332113321133211332113321133211332113321133211332113321133211332...}」
自分の罪の重さにいつしか慣れて。
釜に焼かれ、針に切られ、血が染みる痛みにさえ慣れて。
「{1133211332113321133211332113321133211332113321133211332113321133211332...}」
魂そのものまで傷ついて、もう輪廻転生にさえ戻れなくて。
ただただそこで痛みを受け続ける機械のようになって。
・・・本当に、それが最良なのか?
「{1133211332113321133211332113321133211332113321133211332113321133211331...}ッ?!」
心に生じたわずかなブレ。それは拳にさえブレを及ぼす。
僅かに攻撃が左にずれた結果、その衝撃でボクが気絶から起きてしまった。
『っ!!』
当てられた痛みの変化を感じたボクは、すぐさま飛び起き、距離をとろうとしている。
逃がさない。
「jw!:exyxegs@4...ゥグ?!」
何だ!?計算に異常が出ている?!
『ッはぁ、はぁ、はぁ・・・なんなんだ、急に』
「ガ・・・ヴグ・・・」
気づけば、腕が片方イっていた。もう片方もじきに終わる位、脆くなってしまっている。
胴は…ありゃ、ぼろぼろ。特に攻撃をくらったわけではないだろうけど、皮膚同士が擦れあって落ちてる。血まででてるし。
あぁ・・・疲れてるのかな。なんだか吐き気がしてくる。さすがに吐くわけにはいかないけど、どういうことなのか。
『どうしたの、急に。殴るリズムが一瞬狂ったじゃないか』
「・・・」
・・・あー、そっか。戦いのあまり、大切なことを忘れていた。
そういえば、僕は人間だったよ。
「...db4te\kh=.q@4y00ted\…ちょっと、頼みたいことがある」
『何?』
「思考を、手伝ってくれ」
『題を』
「陸ノ路」
『了解』
ボクは二つ返事で承諾してくれた。あんなにボコボコにしてもまだ生きてるってことは、きっと体力の概念がないんだろうな。
僕には、足りないことがある。そして、今回の戦いでそれに気づけた。
「『【機関起動】』」
僕は、僕自身をまだ理解していない。
「壱に天は極楽を持つ。されどそれに救い無く、滅び行く様に抗うことかなわず」
僕自身を扱う為に必要な力がどれだけのものか、僕自身がどれだけ動くことができるのか、とかは。
粗方わかってるつもりだった。
『弐に修羅は破壊を持つ。上がることかなわず、されど返る心に偽りなし』
でも、足りなかった。そのくらいで計算できるほど、ボクたちヒトの身体はうまくできてなかった。
力だけが、人じゃなかったんだ。
「参に畜生は鎖を持つ。畜養の意を以て、輪廻の罪を使役されよ」
感情。それは人にとって大切なもの。人を忘れ、ヒトに堕ちるとき、これは消えているんだ。
ボクは、それを僕に教えてくれた。
『肆に餓鬼は餓えを持つ。燃える水に焼かれ、炎となる飯に苦渋を知れ』
時として、感情を無くした方が楽な時だってある。作業をするときとか、特に。
でもそれじゃボクたちにはだめだ。
「伍に地獄は罪を持つ。輪廻を以てかつてを知り、痛みを以て己を歪ませよ」
人は、人でしかない。超えられないんだ、どうしても。
たとえそれが僕のように、人を知り尽くした存在だとしても。
『陸に人間は苦楽を持つ。他が持つ魂と繋がり、善悪を以て仏に至れ』
だから、「僕」は。
「『これぞ六道、我等が今尚逝く道』」
変えてやろう。「ボク」を。
「『それを知り、それを離れよ』」
世界が、白く染まり始める。
―――終わりだな。
「『思考、開放。【最後ノ、零】』」
―――c;d@#3ebZt。ね、僕?
ありがとうございました。




