第6話 壁当レド尚遠ク在ル謎
モノの持つ壁を壊すために、必要なことは。
自らの理解、そして運命だった。
膝をついた僕のところに、ボクが来る。
『でもって、強い』
「・・・」
パタリと倒れる僕。コツ、コツと足音を立てて歩いてくるボク。
『でも、足りないって知ってるんでしょ?』
「・・・」
『自分をよく知ってるね、ほんと』
「・・・」
そっと、でも乱暴に髪を掴まれ、引っ張られる。痛い…けど、動く気も起きないや。
『今は、お休み。次、また戦おうよ。繰り返せば、きっと僕にも分かると思うし』
「・・・あはは、それはありがとう、だね」
『うん。それじゃ―――
―――またね。【最後ノ零】』
その言葉を最後に、僕の意識は刈り取られた。
―――――――――――――――
「・・・またよろしく、ボク」
『・・・ああ、よろしく。僕』
僕は起きた。そして隣にいたボクと、またぶつかる。
「【機関起動】【形態:壊力常装・極】っ!」
『【機関起動】【形態:避動常装】』
さっきとは違い、こっちはほぼ全力で。あっちは避けを主体とする、【形態:避動常装】で。今度はぶつかることなく、互いに距離をとった。
しかし、懐かしい型だな、【形態:避動常装】。久しぶりに見た。自らのスピードを上げることに特化した型で、よく動ける代わりに力が弱くなる。スピードに乗せて一撃、とかだったら結構重い攻撃もできるんだけど。
あと、それに目が追いつくよう、集中力も上がる。おかげで避けるのにはかなり適した型なんだ。強すぎる相手とかには使ってたけど、最近はそんなのもいなかったせいで少し忘れてた。しっかし…
「なんで避けを選んだんだい?」
『訓練だから。ずっとやっておきたいと思ってさ』
「どんな考え方なんだ・・・」
互いに弱点はある。【形態:壊力常装】をすると、機動力と火力が上がる代わりに遠距離ができなくなる。【形態:避動常装】をすると、機動力と集中力があがる代わりに火力が下がる。【極】にしている僕なら、なおさらその長所短所が大きくなる。
でも今回の場合、遠距離やったところでどうせ避けられるだけだし。逆にボクのほうが不利な気がするんだ。一撃が軽いせいで、あたっても意味がなくなる。【極】ともなると、碌にダメージ入らないと思うんだけど。
「本当に継続のためだけ?」
『そうだよ』
「・・・」
・・・面倒だな。
―――――――――――――――
「・・・またよろしく、ボク」
『・・・うん、よろしく。僕』
この前はスタミナが足りなかったみたいで、途中で倒れてしまった。今度は何とかしないと。
「【機関起動】」
『【機関起動】・・・あれ?ひとつで終わらせるんだ』
「地力で行くのが一番だと思ってさ」
『へぇ』
そうして、最初のころと同じように戦った。
「【攻撃:殴】」
『【攻撃:殴】』
今度は相手の方が少し早い。それを見て、きっちりと避けていく。勿論、殴りながらね。
『【攻撃:突】』
「【射撃:飛去来器】」
避けたのを見たのか、その避けた方向に飛ばされるマナの槍。しゃがんでかわし、ブーメランを飛ばす。
『【防御:返刃】』
ボクは、それが返ってくることは分かっているから、勿論対策をとる。纏われたマナは、飛び道具だろうが全て切り裂く防御のためのもの。
でも、それだってきちんと弱点はある。
「そこだ!【形態:魔壊】【攻撃:突】っ!」
それは、【形態:魔壊】などの、マナ壊しを食らうと、カウンターも出来ずに壊されてしまうこと。
加えて、それから暫くマナを扱えなくなる。反動が結構あるんだよね、これ。
『ぐっ!』
「【攻撃:殴】ッ!戻って来い!【射撃:飛去来器】!」
『おわあっ?!』
・・・これで当分大丈夫だと思う。僕の行動は、マナがあってこそだから。それはきっと相手も同じなはず。
ドサッと音を立てて倒れたボク。少ししても、起き上がる気はしない。
「・・・」
でも油断はできない。さっきからいやな予感がするし。
『・・・』
互いに互いを待っているかのような時間。空白とも言えない、にらみ合い。
…のはずなんだけど、なんだかボクが溶けていってるような…?
「…いや、溶けてるよね。あれ」
どうなってるんだ…。ボクの体はまるでゼリーか何かにでもなったかのように、ゆっくりと形を崩していった。あれはボクの体を模写したものなんだよね?その前提が違ったのかな?それとも僕にもできることなのかな・・・。
『考えている暇はないよ。一回冷静になってみて』
「?!いつの間に後ろに・・・」
『ま、【最後ノ零】ー。』
「しまっ・・・」
いつの間にか後ろにいたボクに気づかなかった僕は、そうしてまた倒されてしまった。
―――――――――――――――
あれから何回も倒されて、起き上がって、また戦って、倒されて。
「・・・」
『・・・』
…何回死んだんだろう、僕。
『10回は超えてる。それだけはわかるよ』
「・・・」
多いな。そのほぼすべてで、最後【限界突破】しているんだから、体持たないよね・・・。
『ねぇ。もう見えてるんだよね?』
「・・・」
見えてるって何がさ。
『壁だよ、壁』
「・・・」
・・・いや。まだだ。
『ホントに?』
「・・・」
まだ、何か決定的な何かがない。
『…本当にそうなのかな?』
「・・・」
・・・?
『…うん。気づいているよねこれ。無意識とはいえ、さ』
「…どうだか」
無意識・・・か。確かにそれならそうなのかもしれない。
『この12回の戦いで、気づけたはずだよ。理由に』
12回だったのか。というか数えているんじゃないか、やっぱり。
『どうして力をキチンと使えてないのか。その訳を、さ』
「・・・無意識に、か。言葉にできない理解ってことかな?」
『そうだね。さ、次は13回目だ。何かが起こると、ボクは信じてるよ』
「そんなこと信用されても困るんだけどな…。仕方ない。がんばるか」
13。それは不吉な刻。何かを数えるときに、13回目に終わったらそれには呪いがかかるといわれている。本来ならば迷信だと考えるところだけど、あいにくと僕は迷信だとは思えない。何せ僕は…
『はじめるよ?』
「あ、うん」
…考えても仕方ないか。願わくば、この壁が呪いを持つ地獄の門であらぬことを。
「ふぅー…。【機関起動】。逝こう、かな。壁の向こうへ」
ま、この回で超えるのが、きっと僕にとっては最悪で最高なんだろうけどね。
ありがとうございました。