第5話 人ノ頂点ノ先ノ壁
モノの持つ壁。それは、人の頂点であるが故に、見えなくなったものだった。
~モノ視点~
あれは、確かに僕のカラダだ。どうしてあんなところに?
いや、そもそも今の僕には身体はあるというのに、どうしてあそこにもあるんだろう?
…あそこにあるのは、ただ精神世界が作り上げただけか。
僕のカラダは、まるで磔にあったかのように両手両足を広げ、動かない。僕のお気に入りのスーツまで写されていて、少し気味が悪いな。
とにかく、なぜ写す必要があるんだろう?
「一体あれは…」
『目が覚めたか』
「ッ!」
咄嗟に聞こえた声。グロウスのものだ。
『今からお前は壁を見る。それを壊せ』
「壁?いや、いきなり壁って・・・」
そう言われて、ふと何故か。
(『タシカニアナタタチハ強カッタデス。デモ、モノ。アナタハ恵マレナカッタ。ウィリー、アナタハいりーがるダ。ウィウィ、アナタハ壁ガアル。皆、何カガ足リナイノデス』)
ウィウィたちと離れる直前に会った奴。アイズの声を思い出した。
「・・・ああ、壁か。分かったよ」
『・・・その様子なら、壁を知ってはいる、ということだな』
そりゃそうだ。僕はもう、成長する限界を知っている。僕には今のところ、成長することができる限界に達しているんだろう。
…人の壁。その先にある何かに。
『ならば、せいぜい抗え。そうでなければ、ここからも出られぬ』
「やれやれ。出る気もないよ。強くなるためには、ね」
『念のための忠告だ。・・・来るぞ』
その言葉が途切れる瞬間、それは始まった。
僕…いや、ボクのカラダが、ゆっくりと動き出す。
磔にされて死んだかのように止まったその体から、少しずつマナが溢れ出す。
そしてボクは、ゆっくりと体を動かし、僕の警戒する恰好と同じ恰好になってから。
『・・・よろしく。僕』
「・・・ああ、よろしく。ボク」
そして、僕とボクは、無言でぶつかった。
【ガギイィィィン!】
強化した身体と、力が、ぶつかる。いつも思うんだけど、この金属同士がぶつかるような音はなんなんだか。
『・・・』
「・・・(…やっぱり)」
やっぱり、力は、互いに同じだ。だから、きっと、この後の選択肢も。
「『【機関起動】』」
互いに、加速する。
「『【形態:魔壊】』」
互いに、殴り合う。
勿論、どっちの攻撃も避けられる。だから。
「【攻撃:鎌】」『【射撃:飛去来器】』
僕は、返しの腕を。ボクは、殴った勢いのまま、戻ってくる弾を放った。
『【防御:返刃】』「【攻撃:と…】クッ!【強制取消】ッ!」
・・・っと、危ない危ない。カウンター攻撃食らうところだった。見た目上特に変わりなさそうなボクは、薄くマナを纏っていた。
それは、ボクを護る、形なきボディーガード。攻撃すれば、そこから切れ味の鋭いカマイタチのようなマナが飛んでくるようになってる。ずっとは発動できないし、一撃にしか対応できないんだけどね。
「【攻撃:突】・・・仕切り直しか」
『だね』
【強制取消】の反動で後方に跳ぶ。と同時に、7時の方角に攻撃を飛ばす。すると、ボクの放った【射撃:飛去来器】とちょうどぶつかる。どうやらボクは、【強制取消】で後方へと飛ぶことも予想していたみたいだ。
まあ、僕と同じだし、ね。
「『【追加形態】【形態:波動常装】』」
仕方ない、撃ちあうか。
―――――――――――――――
『【形態:波動常装・極】』
「―――ッハァ、ハァ、【形態:壊力常装・極】ッ!」
拙い・・・いつの間にか追いつめられている!
『壁は、見えているんだよね』
「そりゃあもう・・・ハァ、ハァ、分かってるよ!」
今は、こっちが格下だ。何故か、ボクには疲れが見られない。僕は十分疲れてるってのに。
【形態:波動常装・極】を手にしたボクには、蒼いオーラが。【形態:壊力常装・極】を手にした僕には、紅いオーラが纏われた。でも、その色は、明らかに僕の方が衰えていた。
『動きすぎたのかな?【攻撃:弾・極】』
ボクは、大量の弾を飛ばしてくる。それらは確かに見える。でも、今の僕には…
「(明らかに…避けられないッ!)【防御:鎧】!」
そう判断できる位には、分厚い弾幕だった。
仕方ないと思い、被害を最小限に抑えるため、前に跳ぶ。
技の宣言と同時に、マナを纏う。
【ドガガガガガッ!】
「ぐっ…」
被弾。でも、大丈夫。身体には特にダメージはない。まだ、動ける。
『・・・』
「くそ・・・」
壁。僕にとってのそれは、今は超えられないこと。
「まだだ・・・まだダメージが足りないっ!」
『・・・』
それを超える為には、きっと瀕死レベルのダメージが必要だ。それも、マナまでなくなる位の、超極限状態。
「まだやれるよ、ボク」
『そうか。なら、容赦はしないよ』
おまけにそれが、前提条件なんだろう、なんて思うと。
「…ははっ」
なんだか、笑いが出てきちゃうよ。
「行くよ」
『いつでも』
じゃ、遠慮なく。
「【限界突破】」
『それ、使うんだ?』
「限界は、知っておかないといけないしね」
僕の、今における正真正銘の切り札だ。まだ先はあるんだろうけれど、今の僕にはこれが限界だよ…きっと。
僕の身体が、無色に包まれる。何にも染まらない、でもそれ自体が他から色を借りなくては成り立たないもの。即ち無属性のマナを、ゆっくりと纏う。自分を強化する、それだけ聞けば簡単な話だ。だけど、その仕組みは少し細かい。
纏っているマナは、元々僕が持っていたマナを、外のマナと混ぜて増幅させたものだ。これをエネルギーとして、ありとあらゆる行動に膨大な力を与える、というものなんだけど、発動前の体力とマナが継続時間につながるみたい。
発動する前から結構ダメージ食らっていたから、保つことができる時間は短い。果たして1分…いや、30秒も持つかな…?
「それじゃ…」
『うん』
「『行こうか。【加速】』」
さっき以上に速い速度で、僕はボクに突っ込む。ボクの速度もあがっているけど、僕ほどじゃない。
互いがぶつかる。ボクは【限界突破】していないから、もちろんこっちが強い。ボクは弾き飛ばされる。それに向かって僕は跳ぶ。
「【攻撃:殴・極】ッ!」
跳躍力にさえ【限界突破】はかかっている。軽くボクに追いつき、その胴に思いっきり殴りかかった。勿論ふっ飛んでいくボク。
「【攻撃:突】!【攻撃:鎌】!」
突撃。そして飛ばした勢いを組み合わせて、ちょうど首に当たるよう、ギロチンのごとく腕を引く。斬られ、血が噴出すボク。でもまだだ。
「【攻撃:殴・極】!【形態変化】、【形態:波動常装・極】ッ!【射撃:機関魔銃】ォォッ!!」
思いっきりふっ飛ばす。そこから、追撃。幾多もの、マナでできた弾がボクを撃ち抜いていく。
「ラアアアァァァァッ!!!・・・っく」
そうして、1000発ほどマナ弾を撃ったところで。
「あー・・・さすがに・・・一矢くらい・・・報いた・・・かな?」
と、ふっ飛ばしたボクを見て、僕は膝をついた。
「どうせ、ボクは【限界突破】してないんだし・・・まだ、生きてるよね?」
ありがとうございました。