第2話 獣ナラザル獣ノ壁
ウィリーの持つ壁。それは、獣としては本来持つべきではなかった壁だった。
~ウィリー視点~
全く、どういう事なんだか。目の前には私の体の核がある。なら自分は何になっているのやら・・・
『目が覚めましたか』
「…この声、グレウスね」
どこからか聞こえてきた声に反応する。
『皆は無事です。ご安心を』
「それはどうも。でも、ただで会わせてくれるわけじゃないんでしょ?」
『ええ。今からあなたは、自らを鍛える必要があります・・・』
ああ、そうか。気を失う直前に、そんなことを言われていた気がするわね。
「なるほどね。で、その方法は?」
『その前に、まず自分の姿を確認してください』
「え?」
自分の姿?と言われて、ふと気づく。私は、何故今喋れているのだろう?
その答えは、急に出てきた鏡の中の自分に、確かにあった。
ストレートショートでオレンジ色の髪とぱっちりしたオレンジの眼、凹凸の少ない体つき。黄土色の耳はハムスターのように丸く、頭の上に乗っており、またちょっとだけ出ている丸い尻尾がある、などといった点は、元のファイアラットの肉体のイメージ故か。獣人のようだ。ただし裸である。
それらは、炎ゆえか色の違いがなかった、かつてのゴーレム時の姿と、まるでそっくりだった。色がついている分、より獣人に近い見た目になっていた。
「・・・・・・・・・わーお」
『よろしいですか?』
「あ、うん」
鏡が消えた。
『改めて。あなたは今、壁にあたっています。この中で、あなたはアナタに勝たなくてはいけません。あなたが勝った段階で皆さんに会わせましょう。時間も調整して、皆が強くなった時に会わせてあげます』
「へぇ」
『ですが、勝つまではここから出られません。よろしいですね?』
「分かったわ…ところで」
『何でしょう?』
「私は、この獣人の姿で戦わなくちゃいけないの?」
『それが壁ですので』
ヒトの姿が?一体どういうことなのかしら。
「…まあ、分かったわ。あなたとはいつでも連絡できるのかしら?」
『はい、ご自由に。ある程度ならば質問にも答えましょう』
…それだけあれば十分かしら。
「ありがとう、それじゃ行ってくるわ」
『気を付けてくださいね』
全く、危険な目に遭わせているのはそっちだってのに…
「・・・ふふっ」
仕方ない、行きましょうか。
目の前にいる、獣の体の核は、ゆっくりと炎を纏い始めていた。それは、かつての私を思い出させるように、その身を一人の少女のものへと変える。
『・・・よろしく、私』
「・・・ええ、よろしく。ワタシ」
そして、戦いは、唐突に始まった。
「『燃えろ』」
互いに、互いの逃げ場をなくす。私はワタシの裏に、ワタシは私の裏に。逃げられないよう、炎の壁を出した。
「水よ」『火よ』
それから互いに、互いの流れを取ろうとする。私は、相手の体が炎で出来ていることから、水で。ワタシは、私の体が本物の肉体であると理解しているのか、火で。
そこで、私は気づいた。
「(…水に抵抗がない?)」
そう。ファイアラットだったころにあった、水への謎の抵抗感が消えていたの。ファイアラットだった時にも4属性をすべて扱えていたのだが、その時には種族的な理由で水をきちんと使えていなかった。
しかし、今ではそのようなことはなくなっていた。種族的にもファイアラットではなくなったのかしら…?
『考えている暇はないわよ?』
「うわっと?!」
危ない危ない、前から炎の弾がとんできたことに気づかなかったみたい。スレスレだけど、それを首を捻って避ける。
「お返しっ!」
『意識さえあればよけられるわ…って多っ?!』
かわりに水弾を飛ばす。それも、受けた量の数倍に。それらは複雑な軌道を描いて、ワタシに飛んでいく。
『…でも、ワタシには避けられる』
「…うわぁ」
しかし、ワタシはヒト型を止めて、ファイアラットとなって…宙を蹴ったっ?!
そんな道は想定していなかった…。小さくなって、当たりにくくなったワタシは宙を舞う。水の弾の間を縫って、私に接近して…
「ってうそぉ?!」
『具現、第一形態』
「くっ!!」
ワタシは急にヒト型に戻って、私に攻撃してきた!手には簡単な、炎で出来た棒が握られている。私は咄嗟のことで判断ができず、素手で対応することに…
【ドジュウゥゥ…!】
「え?・・・ぐっ?!あっ…ァ…!」
『初めて受ける[熱]。如何かしら?』
手がっ・・・!何よこれ・・・っ!動かない・・・いや、動かせないっ!!
痛みが広がっていく…収まる気がしない!
今まで溶岩とか、火がよくある場所で普通に過ごしていたせいで、[熱]を忘れていたのね・・・っ!
『でも、ワタシは敵。容赦はしない』
「拙っ・・・【ジュゥ…】ィヤアアアァァァ!!」
油断した・・・!声が抑えられないっ!痛い…!痛い!冷静になれない…っ!
『後ろ。それ以上に痛くなるわよ』
「え…?!」
くっ…!これ以上ダメージは受けられない!何とか前に…
「・・・」
『気づいたかしら?』
あ、あれ?動けない…
なんで?どうして?
『いや、自覚しただけね。まだ行くわよ』
「ッ!!」
左から攻撃?!すぐ右前に逸れる!途端、後ろに膨大な熱の流れを感じた。
「―――ッハァ!ハァ、ハァ…」
『・・・』
攻撃を避けれた今なら、多少は冷静になれる!
しかし、何で今さっき、動けなかったのかしら…?痛みによる思考能力と身体能力の低下?それとも何かの毒?いや、ワタシは私なのだから、それはあり得ないわね。
じゃあ、一体…?
『考えなさい。自らでたどり着くことが、知識人にとっての何よりの力よ』
くそっ、考えているわよ!でも、何故か辿りつけない・・・!
何でよ!どうして・・・―――――
―――――・・・どうして、思考が、止まったの?
『…自覚段階のステップアップを確認したわ。行くわよ。具現、第四形態』
それに気づいて、ふとワタシを見上げれば。
『そろそろ、壁も見えるようになるわ』
その身に火、水、土、風のマナを合わせたゴーレム姿が。
『じゃあ、行きましょ。もうあなたは、壊す直前まで来ている』
何故か、私の動きを。さっきのように止めていた。
『第四形態、魔装神形態。あなたは、ワタシに勝たなくちゃ、いけないのよ』
ありがとうございました。