第15話 ゴー・ストレート
そろそろこの場を離れたいなぁ、と思い始める。
「よし、これでいいじゃろう」
『何したの?』
『【接続】の魔法です。契約魔法の一種で、一応程度の上下関係を持った、主従以上友達未満、といった上下のバランスの契約ですね』
「妾らの方では、【接通】という名前で通っておる。じゃが、意味が同じだと同じ魔法陣になるようじゃな。文違えど、成立したようじゃ」
時刻は…彼らが単位を分かっていないため言えないが、満月は真上よりも西に少し傾いている、といったところである。俗にいう丑三つ時。幽霊が出る、と噂される時間だが、ウィウィたちの前に既にいる、というかフェイアンと契約を結んだ幽霊がいるため、噂も何もないところであった。
「・・・どういう状況よ」
「簡単な話じゃ。契約をしたのじゃ。妾が上で、ツェルが下のな。ただし、妾は強制力を持たぬ。まあ、ツェルの承諾を得た上で、ツェルを操作することはできるのじゃがな」
『私は私で、その時に限りフェイアンさんの力を少しだけ使うことができます。承諾前提なのは変わりませんが』
「あとは・・・なんじゃったか」
『一方の承諾なしに、契約破棄ができる、ですよ』
「おお、そうじゃった」
魔法の説明をしてくれる二人だった。闇属性魔法の頂点であるフェイアンと、闇(という属性こそ知られてはいないが、死霊術は闇属性なのじゃ―――byフェイアン)に特化した宮廷魔導士クラスのツェル。その手の魔法はお手のものである。
「ふーん・・・」
「フィフィ、お主も闇魔法を使ってみぬか?」
「えっ」
唐突に話をふられた。
「いや、え?そのよくわからない言葉・・・【龍語】を発せるようになれと?」
「ツェルは普通の言葉じゃったろうが。妾でもそちらで術を唱えることはできるが、使い慣れた言葉を使っているだけだからの」
「あ、そう・・・って、ちょっと待って。なんで闇魔法が使える、と思ったのよ?」
「なに?それはもちろん、あの時に取り込んでおったからのう。本来、お主にはない闇じゃが、取り込んだ今ならできるはずじゃ」
「・・・まあ、今はやめておくわ。正直ちょっと怖いし」
「かっかっか。まあ、それも当然かの。濃い一日じゃったが、それでも一日に変わりなし。まだ完全な信用には至らなかったか!」
『・・・・・・そういえばまだ一日経ってないのね。満月は真上を過ぎたし、一応過ぎたには過ぎたけど。会ってから、を計算するならそうなるのねぇ…』
「早いねー」
『そうね』
―――――――――――――――
改めて。
「よし、出発だ!」
「うむ!」
ウィウィが合図を出し、フェイアンが返す。最近は、元気のいいウィウィとフェイアン、落ち着いたフィフィとウィリー、の組み合わせが基本になってきた。
「・・・とは言っても、どこに向かうんじゃ?」
「前」
『・・・ああうん、やっぱりウィウィか』
もちろんウィウィは、考え事の一つもしていなかった。
「まぁ、いい。この道の跡をたどれば、きっと何処かにつくのじゃろう?だったら向かうぞ!」
「はいはい、全員ウィリーに乗ってー」
『あ、もう準備しとくべき?【第三形態】、【炎魔車形態】・・・最近これしか使ってないわね』
そういいながら魔車となったウィリーに、ツェルは興味を示したようだ。
『おお…そういえば、先ほど聞きそびれたのですが。何ですかこれは?』
「魔車、と呼ばれる乗り物を、ゴーレムで再現したものよ。昔のヤマトには無かったのかしら?」
『ゴーレムですか…ええ、基本人力車や牛車などといった、何か生き物が引く乗り物くらいしかなかったもので』
「今ならあるかもしれんのう」
そういいつつ全員乗る。
「さて、どこへと向かうべきなのじゃ?」
『さあね。ツェルも、特に行こうと思ってる場所は無いんでしょ?』
『ええ。いっそのこと、これから太陽の地にでも行きますか?行ったことがないので』
「帰るの?」
「そうなるわね。ティティもいい?」
「ニャー」
一人追加し、魔車はまた、闇を走る。
―――――――――――――――
『ツェル、先ほど話していた死霊術について、もう一度教えてくれる?あと、魔法陣見せてほしいわ』
『教えてほしい…ですか?』
しばらく走って、ウィウィとフィフィは寝てしまった。こんな、強いの一言で収まらないような彼らも、未だ子供なのだ。体はいまだ成長しているし、それを無理して動かす必要もない。二人と共に眠りについたティティを確認してから、ウィリーはそうツェルに話しかけた。
「ふむ。妾も気になるからの。こちらとあちらの違いを見ておきたい」
『二人とも知識人なのですね…わかりました、まずは、これです』
そういいながら袖をまくり、腕を見せるツェル。靄でできたその白い腕には、幾何学的な模様が黒く刻まれている。
『魔法陣は、基本術者自身に刻んでから発動します。こうするとより安全に霊を操れるんですよ』
「む、円型の魔法陣は殆どないのかの?」
『昔はそれも使われていましたが、暴走の危険性が高かったので、今・・・ああそうか、記録としては10~20年前でしたね。私が現世をもう一度見ていたときには、既に体に刻んで使っていました』
「100年経っても変わらなかったのね」
『そのようです。もしかしたら見ていないところで使っているかもしれませんが』
『それはそうと、私たちはヤマトの死霊術を知らないのだけれど』
『ああ、大和の国の死霊術、その方向性の説明がまだでしたね』
袖を戻し、改めて説明するツェル。
『大和の国の死霊術は、どちらかというと魂や霊、またはそれに類するものを自らの代わりに動かす、という方面に特化しています。術者に憑依させ、強くすることは苦手なのです』
「妾らのものとは違うのう。その霊、というものが、先ほどの幽魂なんじゃな…マナの塊のようにも見えたが」
『マナの塊のように見えるのは仕方ないです。我々の使っている霊とは、モンスターとはまた違う…そうですね、ゴーレムに近いものかと』
霊を操る方面が違う二人は、相違点を探していく。ウィリーはそれをただ聞いていただけだ。
「先ほど使っていた霊…その中にある意志はどうなっておる?死人の魂が、そっくりそのまま入っているのか?」
『いえ、少し違います。扱っているのは基本、魂そのものではなく、その場に残った意志の残痕です』
「ほう。ならば、その者が死した地でのみ呼び出せる、召喚術の扱いなのじゃな」
『そうなります。勿論魂に干渉したり、憑依系の能力を使ったりなどの死霊術もありますが、性能はそれほどでもないかと。ただ、魔法などの記憶系は、その者の魂に染みついたものならば、扱わせることができます』
「ほう。興味深いのう」
そう話し合いながら、月陰の地を走る魔車。霊と龍と魔獣、相容れぬはずの三種の会話が、夜の闇を駆けていった。
ありがとうございました。