第13話 バトル・イン・ナイト
…おかしいな、戦いってこんなに長く続くっけ?
3000字(大体一話)で抑えられぬ。
『…いやはや、まさか具現者なんて、天上の存在に会うなんて。思いもしませんでしたよ』
「あら?やめるのかしら?」
『いえいえ。こんな光栄なこと、ありませんって。自然そのものである精霊に、最も近いヒトの実力。それを見させてもらいましょうか、この目でっ!【指示[レイス・カスタム][クビナシ]】【自由に合わせろ】!』
何よその漠然とした指示。聞いたことないわ。
でも、レイスとクビナシはその指示を聞き、レイスはその場に止まり、クビナシはこちらに向かってきた。指示の内容を理解しているらしい。もはや、あれは指示というよりも願望に近いけど。
クビナシは、鎌を振ってくる。今回はもう、牽制の為に、とでもいうのか、先ほどとは違い威力がない。でも常人からすれば異常な力ね。それを、時に避け、時に受け流す。風の壁も使い、自らを守る。
『…【影】』
「ん?」
何か言ったのかしら?影…?影、か。そんな魔法あった?とりあえずクビナシの攻撃をよけながら考えてみる。
・・・うん、思い当たる節がない。
「まあいいわ…【水よ、我を体現せよ】【自己複製】」
念のため、身代わりを用意する。んー、しっかし、影?詠唱があれば、そこから連想できるんだけど…
あ、そういえば。詠唱って、実は必要ないのよね。あくまでも、自分のイメージをより強く残すためにあるから、使う人もいるし、使わない人もいる。使わない人も、集中する時には使っていたりするし。
で、困ったことに、詠唱には確実な形がない。いや、詠唱する側からすれば便利なんだけれど、魔法を受ける側からすれば不定形で内容が掴めないものなのよね。だから、直接聞いて、対策を立てる必要がある。
これらって、何故か一般の人達には伝わってない情報なんだけどね。
・・・って、誰に話しているのよ、私。
「はぁ、戦いに集中しなきゃ・・・って?!」
気づいたら、目の前に何かがいた。闇に溶け込んでいたのか、マナの流れも分からなかった…いや、一応感じられる。少し、気を抜きすぎていたかしら。
「複製物、守れ!」
その合図と共に、私の複製物が前に飛び出る。目の前にいた、その何かを水で消しながら、複製物は消えていった。
『前方不注意。夜の道は危ないですよ?』
「くっ…もう子供じゃないのよ私は!・・・あ、まだ8歳だった」
『はぁ。小さいころには言われなかったのでしょうし、今私が教えてあげますよ!』
そういって、ツェルは改めて魔法詠唱を・・・
・・・しないっ!?
「まさかっ!」
目を凝らす。よく見ると、既に目の前には、マナの流れが見えた。空気とも違う、召喚物とも違う。
・・・これ、魔法陣だ。
『これを受けて、あなたとその後ろの人々は大丈夫なのでしょうね?!』
「拙いっ!?【海へk・・・」
「その必要はないよ、フィフィ」
「え?」
『へ?』
私たちの疑問が口から洩れたと同時に、
[ドッガアアアァァァン!!]
ツェルの魔法は、暴発した。
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~三人称視点~
「【守レ】…これで良いんだよね?みんな」
ツェルは、強いて言うならば怨霊の一体だった。その中でも優しきものではあったが、彼自身の意志とは少し離れて、凶暴な感情も存在していた。今回は、それが暴走したが故、魔法陣は制御域を超えて、暴発したのだった。
『・・・へっ?』
然し、その凶暴な感情は、表へと完全に出されることはなかった。本来ならば後方に届き、破壊の嵐を創りだしただろうその衝撃は、フィフィとは違う、もう一人の強者によって、いともたやすく防がれた。
「・・・ああ、あなたか。なら納得いくわね」
「ふぁぁぁ・・・守るのは苦手なんだけどね。マナも足りてたし、ちょっとだけ使った」
車全体を包むようにされた、透明な膜。それは爆風をものともせず、フィフィまで包み、それらを護っていた。
「…ちょっとであれか。詠唱どころか、マナを変化させずにそのまま使うっておかしくないの?」
「?」
『…なんですかこの力は。そこのあなたは一体誰なんです?』
「俺?俺はウィウィ。ウィウィ・リベルクロスだ。【炎の具現者】だよ」
『具現者二人目ですか…恐ろしいですね、この人たち』
そう、ウィウィだ。ウィウィは、後ろから様子を軽く見ていたが、なんだか聞いていやな予感がしたというので、守る体制に少し前から入っていたというのだ。無詠唱で、車まで包めるほどのマナをつくり出し、またそれを「ちょっとだけ」と言うのは、ウィウィ以外にはいないだろう。
「とりあえず、さすがに後ろにいた俺たちに当てるのは拙いことだと思うよ。マナの流れが一瞬変わったから、多分暴走したんだろうけどね」
『…ああ、暴走していたのですか。それはすみません』
「攻撃から車とかを護ることはできたから、多分これからもできると思うよ。安心して。フィフィも、ツェルも、自分の思う通りに動いたらどう?」
『ほう、それはありがたい』
「待って、私の足場がないのだけれど」
「…あっ」
どうやら、戦うことは決まっても、平等に、とはいかないようだ。
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『【無弾】【召喚[マナ・ゴースト]】【指示[レイス・カスタム]】【攻撃魔法】っ!』
「【水壁】【三重化】」
再開する魔術戦。ツェルの攻め、フィフィの守りの流れが中心となっていたのは、おそらくツェルが、具現者と戦いたいと思っていたことをフィフィが叶えてあげているのだろう。
・・・フィフィには足場がないというのも理由の一つなのだろうが。
『【指示[レイス・カスタム][クビナシ]】【攻撃魔法[風]】【|風弾《ウィンドバレット】!』
「あら、風・・・【嵐壁】【三重化】。属性云々なんて効かないわよ?」
『…恐ろしいですね、具現者は』
「あー…ウィウィと私は方向性が違うから、一緒にしないでね?」
『・・・』
しかし、無属性で当てれば水で防がれ、風で当てれば風で返される。
『【指示[レイス・カスタム][クビナシ]】【攻撃魔法[土]】【炎弾】・・・!』
「【嵐壁】【三重…】いや、【五重化】
火でも土でも、力技で、とでも言うのか水と風の混合によって創られた嵐、それに遮られフィフィに届くことはない。
『駄目元で…!【指示[レイス・カスタム][クビナシ]】【攻撃魔法[水]】【水弾】っ!』
「【嵐か…】あら、水ね。なら、どうせだし。【流れよ、我が意志を聞き、その流れを返せ】【反射[水]】」
駄目元で発した水は、フィフィの力によって跳ね返された。
レイス達と合わせて攻撃しても、その壁は破れることはなく。
『・・・参りました』
「ふぅ、やっと分かってくれたわね」
遂に、ツェルは敗北を認めたのだった。
ありがとうございました。