第12話 マジック・バトル
・・・あれ?戦う予定はなかったんだけどなぁ。
~まだフィフィ視点~
「まずは常人だ、と言っておきましょうか!【発動】!!」
その一言で、私の中に作られていた魔法が発動する。一つは風の壁になって私を護り、一つは水となって私とツェルを囲む線を引く。二つ以上の魔法は、普通8歳なんかじゃ同時詠唱できない。でも、私には力があるからできる。というか、私にとってはこの程度、容易いことだ。
『…っ!【発動】!』
「あら、気づいた?でも…」
そうしているうちに、ツェルもその魔法の役割を理解したみたい。私を護る風はあまり気にせず、私たちを取り囲もうとする線を止めようと、簡単な土魔法を線の途中に置いた。でも、彼は気づいていなかったみたいだ。
「それ、複合魔法よ?」
『…こんなに簡単に、複合魔法を取り出してくる人は初めて見ましたよ…』
そう。これは、水と風の複合だ。水を中心に置き、その周りを、ばれない程度に風で覆う。水にとって苦手な属性である、土属性へ対抗するために編み出した魔法。難しいものだけれど、作ってしまえば十分強い。ツェルの土魔法は、簡単に風で崩されてしまったみたいね。
『怖いですねぇ。本当にあなた8歳ですか?』
「事実よ。むしろあなたの年齢を聞いておきたいくらいだわ。死んでからの年齢をね」
『あー…どうでしたか。忘れました。いつ霊になったかも覚えてませんし』
全体を水で囲み切った時点で、水は内側へと軽く浸食する。宙に浮く水が近づいてくるっていうのは、ちょっと怖いけど仕方ない。水は円状に囲ったそれに、人が歩く程度のスピードで、魔法文字を書いていく。
「あら。それはホラーね」
『まあ、100数年は意識がありますねっ!【発動】!』
「っ!」
相手の杖からも、魔法が出てくる。闇のマナを感じる魔法だ。それは、まず私に向かって飛ばされてきて・・・って、ちょっと待って?【発動】の魔法分け?そんなことってあるの?
本来ならば、【発動】の魔法は、セットしたものを一度にすべて発動する、ってもののはず。それを、ツェルは分けて発動して見せた。最初の【発動】後に、すぐ詠唱して、既にセットしていた、って考えるのが普通なのかもしれないけれど、マナの流れは見えなかった。詠唱していたら、確実に見えるのに…
仕方ない、とりあえず今は防ごう。
魔法自体は簡単に見えた。だから守るのは容易い。風の力で、黒い靄のようなものを受け流すように、壁の形と流れを変える。靄は、想定通り、受け流され、空に向かっていった。
「…ふぅ。さっすが100数年の長寿。魔法も変わったものね」
『それを言うなら、そちらも。私にとっては変わったもの、ですよ』
「あなたに言われると嫌味のように感じるわ…【結合[ウォーターライン]】【有利化結界[水]】」
『本当にあなたが8歳なのか、信じられませんよ…【召喚[レイス・カスタム]】【召喚[マナ・ゴースト]】【召喚[クビナシ]】』
わーお。三重の魔法なんて、使う人初めて見た。
魔法は、ひとつ意識するだけでも苦労するものなのにね。同時詠唱なんて、人の口からはできるわけがない。でも私たちができるのは、無言で詠唱できるから、そして別の事柄を同時に考えられるから。私だと、せいぜい五重くらいしか…いや、今ならもっといけるかな?
召喚された霊は数十体に及んでいた。真ん中に首がない以外は人らしき形をとった霊が、その両脇には…レイス?それに近いものが。さっき[レイス・カスタム]って言ってたし、それかも。後は、後ろに大量の…
「あっ」
『気づきました?あなたたちをループに閉じ込めているのはこの子たちなんです』
ああ、そういうことか。レイス・カスタムに術を任せて、マナ・ゴーストはマナタンクの代わり、と。
「でも今もループしているってことは、別のレイスがいるのかしら?」
『ええ。さすがにその子を倒すのは控えてもらいたいですが・・・』
「いいわよ。ただ、そろそろ車を止めてもらいたいのだけれど…」
『…ごめんなさい。それ、そこの魔獣さんにしかできないことでして。たぶん、無意識でマナ・ゴーストを吸っちゃっていたんでしょう。今、暴走してますよ』
・・・。
「それじゃあ早く決着つけないとね…」
『はぁ。どうせまだ隠しだまの一つや二つを持っているのでしょう?』
「隠し事を持っておくのは、女の魅力のひとつになるのよ?」
『それを実行するのはまだ早いと思います・・・よっ!!【無弾】【増幅】【増加】!【指示[クビナシ]】【狩れ】!』
「【水弾】【増幅】【増加】…あら?ヤマト読みじゃない詠唱もできたのね」
『苦手ですし、あまりやりませんよ』
ツェルからは無属性の弾が、私からは水属性の弾が飛び出す。それらは空中でぶつかりあい、散っていく。外れたものはいくらかお互いに届くけど、私に届くものは風に消され、ツェルに届くものはレイス・カスタムにぶつかり、消える。
と思ったら、ツェルのほうから、先ほど真ん中にいた、首のない幽霊がこちらに近づいてきた。手?らしき場所には、いつ作ったのか、鎌が装備されていた。死神の鎌のようだ。風の壁でさえぎられている様子もなし。きっと私に届くんだろう…
けど、甘い。
「体内マナ循環…はあっ!【強化】【増幅】っ!」
重ねて、自らを強化する。そして…
[ガキィンッ!!]
向かってくる鎌の刃を、掴む。
『…なぁっ?!』
「あら、思ったより切れ味ないわね。重ねた意味なかったかしら」
ふふ、驚いてる。でも当たり前かな。確かにツェルは、私の首を狩るように、クビナシ?を仕掛けてきていた。普通の人の首どころか、鉄さえ引き切れそうな力で。ただ、それが私にとって弱かっただけ。
『…再度聞きます。本当にあなた8歳ですか?』
「しつこい男は嫌われるわよ?・・・ええそうね。私は8歳。そういえば、こっちが名乗り忘れていたなぁ、私…」
『・・・もしや』
そう、「私にとって」弱かっただけなのだ。私は、人なんかで収まらない力がある。その為に、どうしてもすべてを考える必要があった。まるで、普通の人より、ほんの少しだけ上の力を持っている、そう思わせる為に。
強い力を持っている者は、それを過信する者と、それを恐れる者の二通りになることが多い。私は、後者だった。
皆と違う力。皆よりも高すぎる力。大人たちは私を怖がるか、私を欲しがっていた。子供たちは、総じて怖がっていたのだろう、私に近づくことはなかった。
そんな中で、私は皆に近づくために。自らを封じ、自らを護った。自らに、力を使わないという制限をかけ続けて。自らに、知識という膨大な武器を与えて。
そうして、近づくことができた。
・・・だから。
どうしても、自分を大人のように見せる必要があった。
どうしても、特別な【具現者】として扱われたくなかった。
…でもまあ、今なら名乗ってもいいわよね?
「私の名前はフィフィ・リベルクロス。【水の具現者】の名を持つ者。その名を知って、尚かかってくるというのなら―――――」
この人なら、私を知っても、続けてくれるだろうし!
「―――――遠慮なんて、しないわよ」
ありがとうございました。