第4話 改めて理解する異端
改めて見直したら小説短かったッ…!
今回から量が増えて、暫くは日常回になります。
ウィウィが産まれて何日か過ぎた。神から贈られた(とされている)子供を見に来る炎溶人は少なくなった。きっと一種のイベントとして捉えられたのだろう、これからはまた日常に戻るはずだ。
彼の母親となったミル。義母さんなんじゃないかと言われそうだが、基本炎溶人が自らに子を宿そうとすることはない。生噴火で事足りるからだ。だから炎溶人にとって生噴火により贈られた子は自らの子なのだ。
とにかく、彼女は慣れていない育児を必死に勉強し、普通の炎溶人の育児はできるようになった。
そう、普通の育児ならば。
忘れてはいけない。彼女の子であるウィウィは、幾らか通常の赤ん坊を逸脱しているのだ。主にマナで。
------------------
「えーっと、より自然のマナに馴染ませるために、既に馴染んだ大人のマナを赤ちゃんに送り込むこと…か」
彼女は炎溶人の育児について書かれた本を手に、産まれて1週間経ってから毎日行う行動についての確認をし、実践をしようとしていた。
「子供によってマナ適正に差があり、それによって使用するマナ量も変わる?へー」
それを確認したミルは、マナを纏わせた指でウィウィを少しつつく。本によれば、マナを少しずつ送り込むことによって身体をより自然に近づけ、自然に存在するマナと身体に存在するマナの流れによっておこる反発、自壊を防ぐ、らしい。指から吸わせるのが一番マナ譲渡に適しているそうだ。
疑問符を顔に浮かべるウィウィの前に指を出す。マナを纏わせているのには気づくはずだろう、と思い、暫く待つ。出されている指を見て、つんつんとつついたり、回ってみてみたり。ウィウィの行動を見ていると、なんだか和めたミルであった。
暫くして彼女が指を出す意図に気づいたウィウィは、相変わらず疑問符を浮かべてはいたが、はむ、とミルの指を咥える。そしてゆっくりとマナを吸い始めた。吸い方は本能でわかっているらしいが、どうも遠慮しているように吸っている、とミルは感じた。
「ほら、もっと吸っていいんだよ?」
ミルはそう彼に言ってみる。すると、ウィウィはそれを直観で理解したのか、言葉で理解したのか分からないが、急に笑顔を見せた。そして…
ミルは気絶した。
起きたミルは最初何が起こったのかわからなかった。しかし、近くでやけに心配している様子の村長と、泣きそうな顔の、というかもう泣いた後らしいウィウィ、外の少し暗くなった空を見て、自らが何かしたのだと理解した。が、何をしたのか分からない、ということで村長に聞いた。
「マナ切れじゃな」
「えっ?」
「大方ウィウィに吸い取らせたんじゃろう?無理をするでないわい。」
どうも村長はその原因を知っているらしい。
「無理って…どういうことですか?」
「ウィウィのマナ許容量を忘れたかの?彼は通常以上のマナを持っておる、それも他なんぞ一蹴できるほどのものなんじゃよ?」
村長は、はあ、とため息をつく。
「それを全部自然型のマナに置き換えようとは無謀じゃな、というだけじゃ。」
「あっ」
簡単な話だった。ウィウィにマナを与える為に、生きるのに必要なマナまで削ってしまったのだ。そもそもミルはあまりマナがある方ではない。しかし、本来ならそれでも余裕をもって与えられる量のマナだった。
だが相手が相手である。200人ほどを一人に纏めたような赤ん坊である。容量に自重はない。自制力にも自重はない。気絶するまで吸い取られるのは当たり前だったのだ。
その後、マナ不足で暫く病人のように過ごしてから、彼女はウィウィの自重を受けつつ、マナを吸わせるのだった。
--------------------
別の日。
「彼ってどこまでマナを持てるのでしょうか…?」
「今更の話じゃな」
また今日もマナを吸わせたミルは、吸い取られすぎてマナ不足の身でふと疑問に思い、村長に尋ねた。村長はため息を吐きながら答える。
「もともと彼を作り上げたマナ自体が大体200人もの炎溶人の子供を産めるだけの量じゃった。が、彼のマナはどうも一風変わっておるらしくての」
「どういう点でですか?」
「流れ、じゃ」
「流れ?」
「あれはどうも滑らかすぎる。まるで得てしてその形を持つべく作られたかのようなマナじゃった。簡単にいえば、普通の子供のマナが油なら、彼のマナは水、とでもいえばいいかの?」
「わかりません」
その流れは、幾多もの人や、人ならざる者を見てきた村長にとっても、異端と言えるものだった。本来、大人になるにつれて滑らかになるはずのマナ。体の中におけるエネルギーであるマナは、子供の時は非常に動きにくい。球を転がすとき、がたがたとした地面を転がすときと、滑らかな地面を転がすとき、どちらが速いかをイメージすればいいだろう。
「そして彼はいまだそのマナを強化しておる、無意識のうちにじゃ。しかも元の量が量じゃ、相乗効果の一つや二つはあるじゃろう、気を付けるがいいわい」
「うーん?」
彼女は話を聞き、家に帰っていた。帰りながら、それじゃどうやってマナを渡せばいいのだろうと考えていた。渡さないという選択肢はないらしい。
「回復量がもう少しあればいいんだけどね」
マナは一日で回復する。が、その量は少ない。自分のマナを使い切ってから回復するまでが一日で固定であるため、マナの絶対量が少ない彼女の回復量など微々たるものであった。
「あ、溜めれば…いや、無理か」
また、マナは専用の容器に溜められる。一種の魔導具であり、珍しいものであるのは事実だが、それに入れるためにはそもそものマナがなければいけない。やはりここでもミルの持つマナの絶対量の問題があった。
「で、いい方法ない?」
そんな彼女は何故かウィウィに問いかけた。首を傾げたウィウィから返答があるはずもない。
「うあー?」
と思ったがちょっとした言葉はもらえた。
「うーん、やっぱり無理だよね…」
あれからしばらく考えはしたが思いつかず。お外も真っ暗な闇となってしまったので、久しぶりにウィウィを連れて一階の自分のベッドで寝ることにした。
その日、ミルはやけに早く意識を飛ばした。
外のまぶしい太陽の明るさに、彼女は眼を覚ました。ウィウィは彼女の指を握って、いや吸付いていた。吸われた人差し指だけふやけていた。
彼女は窓から外を見る。今日もまた、村の皆は元気に生活していた。大半は、村の真ん中ほどにある食堂に向かって歩いているらしい。…食堂?
そこで彼女はふと気づいた。果たして今は朝なんだろうか?と。空を見上げる。
「ああうん、そうだよね…」
太陽は真上にあった。
------------------
「で、ここに来たのじゃな…」
「仕事もないですし」
なんとなく理由に察しがついている彼女は村長に確認を取りにいった。具体的には体内のマナを見てもらうためである。おそらく少なくなっているだろう。
「ふむ、足りないのう」
「ウィウィのせいですかね?」
「まあそうじゃろうな」
理由は既にわかっていた。寝ている間にウィウィが吸い取ったのだ。ついでに言うと、それは無意識のようだった。
「本来指にマナルートを通していない状態では、赤ん坊の意識では吸い取れないはずなんじゃがな…」
マナルートとはマナを通す管のようなものである。ミルがマナを纏わせたのは、単純にこのマナルートを指に繋げる為にはマナを使うのが一番だったからだ。
「どこまで規格外なんじゃ、この子は」
そういって彼は、ミルの背中に張り付いていたウィウィをみて、ため息をつく。彼女は、また背中に彼が張り付いていたことには気づいていなかった。
ありがとうございました。
(7月13日修正しました)