第10話 コールド・ロード
村を出た4人と一匹。さて、どうしたものか。
今回は長いですよー。
『…ほんと、どこまで続くのよこれ』
ほとんど永遠と続いている平原を進むウィウィたち。
ウィリーがかなりかっ飛ばしているため、風がかなり吹いている。日は落ちており、もう周りは元々寒い。加えて月陰の地自体が水と風のマナを多く持っているせいで…
「寒いぃ・・・」
ウィウィはかなり堪えていた。
「ふむ、循環には制限があるのか」
「そうね。今ウィウィが苦労してるのも、制限を越えないようにって循環を封じているからなの」
フェイアンとフィフィは、この寒さには慣れているようだ。それでも時折体が震えているのは、まあウィリーが全速力で走っているからだろう。そんな中、ウィリーは何かを考えていたようだ。
『・・・』
「どうしたのじゃウィリー」
『うーん…ここまで同じ景色が続くとなると、おかしいわね』
「ぶるぶる・・・え?何が?」
『えっと、フィフィ?この辺りに幻惑系の魔物とかっている?』
「幻惑系の魔物?うーん…」
「ふむ。とりあえず止まってみよ。話はそれからじゃ」
『そうね・・・』
ということで、ブレーキをかけたウィリー。
しかし。
『・・・あ、あら?』
「・・・どうしたのよ」
『ブレーキ・・・かかんない』
―――――――――――――――
『わあああぁぁぁぁ?!』
「おおおおぉぉぉぉ?!」
「ちょ?!二人とも落ち着いて!!」
「ふむ!速いな!」
「フェイアンはもう少し危機感持ってよ!!」
暫くの間、ブレーキをかけようとしていたウィリーだが、何故か余計に速くなってしまい、ウィウィも手伝ったが不可能であったため、現在ウィウィでさえ走って追いつけなくなるほどのスピードとなってしまった。
…車のスピードの比較対象がウィウィというのも、おかしい気がするが。
もう今の時間は夜だ。周りは闇に閉ざされている。それによる恐怖も合わさってか、ウィリーは完全に混乱していた。
『どうなってるの?マナの直接操作でさえ効かなくなってるなんて!』
「さすがにこれは速いって!落ちたら追いつけない!」
「待って。そもそも車から落ちたら普通追いつけないからね?」
「妾も追いつけぬかもな!かっかっか!」
「フェイアンも笑ってないでよ!ああもう!ここまで来ると、絶対に魔法が入ってるわよ!どこかに術者がいるはず…」
冷静なのはフェイアンとフィフィ。危機感を持っているのはウィウィとウィリーとフィフィ。一番状況を把握しようとしているのはフィフィだろう。その彼女が周りを見渡していると…
「・・・?」
何かが見つかった。
黒い、半透明の浮遊体。それだけだったら時間も時間の為に、霊の類だと思われるが、何故か別の、マナの塊のような気がした。ついでにこっち見てる…ような感じがする。
「…ねえ、フェイアン」
「なんじゃ?」
「あの向こうに、何かいない?」
「ん?んー…そうじゃな。何か居る」
「何だと思う?あれ」
「ふむ…これはあれじゃな…って、なんじゃこれは?解析できぬ…」
「フェイアン?」
「ああ、気にするでない。こやつはおそらく【幽魂】の亜種じゃろう。・・・そうじゃよな?」
「【幽魂】?」
「死んだ者が現世に戻ったもののことじゃ」
「・・・ああ、レイスのことね」
レイスとは、死んだ者がマナの力を使って現世に戻ってきた姿、だとされている。
「しかし、こやつは本当に幽魂の亜種なのかのう・・・?」
「・・・さあ?」
謎が頭から離れない、二人。ふわふわ浮いている、レイス(推測)。どうやらこの車と並走しているようにも見えるが、どうやって移動しているのやら。
「どうも、あれが術の中心のようじゃな。核が見える」
「じゃああれをなんとかすれば良さそう?」
「そうじゃな…だが、これはまやかしなのか?それとも循環なのか?それによって討ち方が変わるのじゃが…」
フェイアンは、この術が幻惑系のものかループ系のものか、ということについて考えていた。というのも、もしこれ自体が幻惑系によって引き起こされたものだとするのならば、先に自らの眼を覚まして、現実にいる術者を倒す必要がある。覚ます方法にはいろいろあるが、夢において、それを夢であると自覚する為には取っ掛かりが必要なように、それが術であるということを証明できる取っ掛かりを見つけることで脱出できるだろう。
だが、ループ系だった場合、倒すと同時にスピードを下げさせる必要があるのだ。ループ系においては、実際に中にいる者たちは加速している。そのループが急に外れ、外に飛び出すことになった際、スピードが速すぎて事故になる可能性があるからだ。
おまけに、今回は加速要因がその魔法にあるらしい。つまり、幻惑系ならば取っ掛かりを見つけるため、レイスをそのままにする必要があるが、ループ系ならばレイスを倒さなくてはスピードが落ちない、という現状だった。
もし幻惑系の中でレイスを倒してしまったら、取っ掛かりが消え、永遠にここに取り残される可能性がある。またループ系でずっとレイスを放置し、取っ掛かりを探していた場合、探し続けて永遠にこの場を出られない可能性があるだけでなく、何かの拍子で外に出た時、超加速をくらっていることになり、危ないのだ。
「分からないわね」
「分からないのう」
そんなこんなで、先に進めぬ状況となった。
―――――――――――――――
「おーい」
「あら?ウィウィ?」
暫く立ち往生していると、ウィウィが話しかけてきた。
「どうしたのよ、さっきまでかなりうろたえてたじゃない」
「落ち着いたんだよ。とりあえず、気絶した後どれだけマナがもつかどうかは分からないけど、ウィリーなら大丈夫だよ」
「ウィリー…」
かわいそうなウィリーであった。
「で、なにかいるの?」
「あっちにレイスらしきやつがいるの」
指さす方向を見れば、確かに黒い半透明のものがふわふわと浮いている。
「あれだね?」
「ええ。でもこの状況であっちに攻撃する手段なんてないし…」
「仮にあるとしても、そもそも、あれがどのような術によって此方を惑わしているのか、それが分からなくての」
「え?どういうこと?」
「今私たちは、あいつに魔法をかけられているの。それが、ループ系の魔法か、幻惑系の魔法か、分からないから困ってるのよ」
そういいながら、困った様子を見せる二人。しかし、ウィウィは…
「え?そこに見えてるじゃん、繋ぎ目が」
と言った。
「・・・え?」
「これループ系の魔法だよ。魔法でできたつなぎ目が見えるでしょ?」
「…いや、無理なのじゃが」
「あー…フィフィ、循環してみて?」
「え?わかったわよ…」
しかし。
「…だめね、見えない」
「えー…」
無理だったようだ。
「妾にも無理なのじゃが。どういう目をしておるのじゃ?」
「知らないわよ・・・。とにかく、この魔法がループ系だってわかった以上、まずはこれを強制的に止める準備をしてから、あいつを倒すことにするわ」
「はーい」
―――――――――――――――
「さて、と。これでいいかな」
またしばらくして。準備が整ったらしく、フィフィが声を発した。ちなみに現在、魔車のスピードはかなりのものとなっている。どうやら先ほどから何かの力が常に働き続けているようで、加速する一方であった。もう比較対象がない。
・・・が、何故か風は最初のときから威力が変わっていなかった。ループ系の魔法となっているからなのだろうか?
「よし、ウィウィ。あいつを倒して」
「任せて!はあああぁぁぁぁっ!!【飛バス】!」
勢いよく、拳に溜めたマナを飛ばすウィウィ。高速で移動する物体から物を飛ばすと、もちろん飛ばした方向にも力は働くが、それに加えて移動している勢いも追加される。おかげで、ウィウィの飛ばしたマナは、同速度で飛んでいるレイスに、吸われるように近づいていった。
現在、ウィリーを止めるために、そちらに意識を割いているフィフィ。龍にならないとブレスの一つも発射できない上、闇魔法の【黑暗矛】などは相手が闇系統だろうと予測した結果放つことが出来ないフェイアン。攻撃手段が無かった彼女らは攻撃できなかったが、ウィウィは可能だった。
ウィウィの狙った通りの軌道を描いてマナは飛ぶ。ちょうどレイス(?)に当たったところで、爆発。レイスは散った。
「よしっ!」
「おお、なかなかやるのう」
「さて、それじゃこの魔車を止めないとね・・・って、あら?」
魔車を止めようとしたフィフィは、まだ魔法が残っていることに、マナの流れで気づく。
「どうしたのじゃ・・・うわぁ」
何を疑問に思ったのかと、フェイアンがフィフィを見ると、その後ろには大量のレイス(?)がいた。
「・・・ん?」
その二人に眼もくれず、またループの繋ぎ目を見つけたウィウィだった。
果たして、彼らはここをいつ抜けられるのだろうか・・・。
ありがとうございました。
追記※フェイアンが攻撃できない理由を追記しました