第4話 マウンテン・ジュアル
寒いのは嫌いでござる。
「『さむ~いっ!!』」
「そりゃ火山の住人からしたらねえ…」
「ニャー…」
現在、ジュアル氷山八合目ほど。グレウス火山だったらこのあたりから溶岩が見え始め、暑くなり始めるところだが、ここはジュアル氷山。流れるものは溶岩ではなく流氷。あたりの空気は冷たくなるばかり。そんな中にきているのだった。
『想像以上だわ、これは』
「それほど?」
『ええ。肌を刺す冷たさってのは、このことを言うのね…さむっ!』
「…えっと、何処かほかにも寒いところとかってなかったの?」
『えっと…太陽の地自体が割と暖かい場所だし、そこから出たことなんてないし。それに、私たちが普通生活している場所って、火山…それも溶岩のすぐ近くだしね。寒いなんて、今まで感じたことなかったわ』
「…考えてみれば、溶岩のすぐ近くで過ごすって、何よそれは」
カルチャーショック?のようなものを受けた二人だった。
「しっかし、それだとこれがはじめての[寒さ]ってことになるのかしら?」
『…そうなるわね。せいぜいこの道中で感じた、寒いというよりも涼しい程度のものくらいだし』
初めてで感じる寒さが氷山というのは、かなりきつい気がする。
『…でも、炎は使ったらだめだったのよね?』
「そうね。雪崩が起きやすくなるの」
「あばばばば…」
『…ちょっとあの子がかわいそうね』
「ああ、うん…」
しばらくして、見かねたフィフィが、ウィウィに体内マナ循環という、自らのマナを循環させることについて教えたところ、やっとウィウィの体制が戻ったようだ。
「よし、これでいいや」
「あの一言でここまでいけるのね…」
『ウィウィには、驚いちゃいけないの。もう、私はいろいろあきらめたわ…』
「…苦労してるわね」
『ありがと…』
「というか、環境云々への干渉能力とか、そういったものも何一つ身に着けてないのね。ウィウィって」
「干渉?なにそれ?」
「具現者としての力よ。その地を護るため、その地と一体化するとか。そういった目的で身に着けることが多いわね」
『…なによそれ、まるで神様じゃない』
初めて聞く具現者の化け物具合に、驚くウィリーだった。
「本来は、その神様から力の使い方を学ぶらしいけれど、私にはいなかったから。私の前の代…というか、あの村長が教えてくれたのよ」
『…瞬間移動とかも?』
「そうよ…ってそうじゃない!ああいうのは純粋に村長自身の力なの!あれはおかしいの!!」
『・・・』
「なにそれ怖い…でも」
「『でも?』」
「あれの真似なら、今できるかもしれない…」
「・・・えっ」
「ちょっとやってみる…よっ」
そう一声発した次の瞬間、ウィウィは消えた。と同時にものすごい風が起こった。
「うわあっ?!」
「ニ゛ャァーッ!!」
『ぎゃー!寒い寒いっ!!』
風に驚くフィフィ、飛ばされかけるティティ、飛ばされたウィリー。体の大きさによって反応が違った。
そんな中、ウィリーがゴーレムとなって体制を整えると。
「ってあれ?ウィウィは?」
『凍るかと思った…あら?いないわね…』
ウィウィを見失っていた。少しあたりを見渡す二人。すると…
『おっ、いたわ』
「どっち?」
『こっちね。ウィウィ、なんで登るのを選択したのかしら…』
ウィウィは山の上のほうにいた。手を振っている。
『こっち来て、かしらね』
「はあ、なんだかしばらく振り回されそうな気がするわ…」
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「はあ、風を抑えられなかったよ。まだまだだね」
『うん、風以前に運動を抑えてほしいわ』
「というかどうやって足音もなしにここまできたのよ…」
「飛んだ」
「えっ」
「飛んだんだ。空中を」
『えっと、ジャンプじゃなくて、フライの方の?』
「うん」
「もう…わけがわからないわ…」
ウィウィが飛んでくれたおかげかは知らないが、だいぶ短縮された道のりであった。
「うーん、体内マナ循環だっけ?それってどんな効果があるの?」
「今ウィウィがやっているからわかると思うけど、まず体が自分の適正体温くらいには温まるわ」
『へぇ。こんな寒い中でも?』
「そうね。次に、身体能力がマナの量に比例して格段に上昇する。さっき、空気を蹴れたでしょう?」
「そうだね。昔は無理だったんだけど…」
『…いったいどこまで行くのよ、この子』
「私は無理ね。魔術特化だし」
やっぱりウィウィは規格外だった。
「・・・まあ、いいわ。そのくらいには強くなれるの。で、最後にだけど、自分の属性が強くなるわ」
「自分の属性?」
『ああ、ウィウィだと火と土、ってことね』
「そう。ただし、デメリットもあるの」
「デメリット…疲れやすくなる?」
「そうね。体に必要以上の力を要求しているんだし。あとはマナ消費が酷く有ること。具体的には…」
フィフィはその場で止まり、考えた。
「大体半日でマナが全部消費されるくらい、かしら」
『…フィフィでさえ、なの?』
「そ。というより、さっき身体能力がなんとか、って言ってたでしょ?」
「うん」
「そのときに上昇する分、マナを消費するの。だから、誰が使ってもマナ消費は個人のマナの量で決まるのよ」
「ほえー…」
どんなものも、利点と欠点がある。これもその一つだった。
「消費量は操作できないの?」
「ある程度なら可能だけれど、まず無理よ…。私もやったけど、せいぜい消費を半分にして、一日続けるのが限界だったわ」
『それは私にもできることなのかしら?』
「たぶんできるわね。むしろ、ウィリーは魔獣だし。それも特別な。マナの扱いにはきっと長けているはずよ」
そう言うフィフィの隣で、循環をさせているウィウィが少し考え事をしている。
「んー…」
『どうしたのよウィウィ』
「いや、消費が抑えられないなら、マナを吸っちゃえばいいのかなって。やってみたけど、出来ないわけじゃなかったよ」
「成程…やり方は分からないけど、供給を行えば持続ができる可能性がある、ねぇ。今度やってみましょうか」
そのウィウィの案を聞いたフィフィの顔は、面白そうなことを見つけた、というようにきらきらとしていた。が、すぐ真剣な顔になる。
「っと、そろそろ頂上よ。気を引き締めていくわ」
「おぅ?」
『やっとボスのお出まし、かしらね』
日は少し落ちかけている。雪も解けぬ地で、彼らは何を見るのだろうか。
はたして、頂上にいる、闇嵐龍とは一体?
ありがとうございました。