第3話 フィフィ・リベルクロス
ジュアル氷山は元火山です。今は死んでるけど。
「ああうん、具現者云々はおいといて。とりあえず、今私ができることを歩きながら説明するわ」
「お願い。パーティーの力は知っときたいしね」
『こっちも後々見せるわ、このマナの中行動できるかどうかも知りたいしね』
「そっか、ウィウィもウィリーも炎だったわね」
『私は一応全属性使えるけどね。あとウィウィは炎と土に適正がずば抜けてあるわ』
「ふーん」
『あんた自身のことでしょうが!』
とりあえず依頼主の話を聞こう、という話になり、今はその道中である。
「私が使えるのは水と風。主に水ね。範囲の広い魔法を連発するのが得意…というのは表上の話。実際は、空気中のマナに干渉して、マナの力を水や風に直接変更する…ってのが私の力よ」
「俺は炎と土を使うよ。主に炎。範囲は狭いけれど、一撃一撃に力をこめた拳闘術が得意だよ。炎自体は威力のブーストに使ったりしてるくらい。直感で炎を使えるのが俺の力だね…土の力はあまり使ってないや」
『とかいって、割と地面からのエネルギーを拳に伝えるために、無意識だとはいえ使ってるじゃない』
「無意識はノーカンだよ!」
『あんたがそれ言ったら全部ノーカンの力になるじゃない!!』
「それもそうか!」
「ウィリー、相当疲れてるのね…」
『…ありがとう、フィフィ』
そうこうしているうちに着いたようだ。
「こちらです」
『ありがとう』
「村長!早く来てください!」
「おやおや…老いぼれをあまりせかすでないぞ?」
そんなしわがれ声が、最初は確かに前から聞こえたのに、「老いぼれを」のあたりからなぜか後ろから聞こえてきた。振り向くと、腰を曲げた老婆が立っていた。
『・・・えっ?』
「旅のお方、ようこそ。こんな何もないところではありますがの、依頼の関わらない今はゆっくりしていてくだされ」
「あれ?さっき前に?」
「村長はたまによくわからない動きができるのよ。私もわからないの」
「何、ちょっとした移動方法じゃ。瞬間移動くらいは、な?」
『いやおかしいでしょ』
「ふぇっふぇっふぇ。多少気は楽にできましたかの?」
『え?あ、うん。そうね。なんとなく固くなってたわ、私』
「それなら結構でございます…して、依頼の件ですが」
「受けるよ。どこに行けばいいの?」
一息つく村長。
『あれ、なんだかいやな予感が…』
「あの山の上ですじゃ」
と、ジュアル氷山の方を指差した。
ウィリーはラットの姿のまま膝をついた。
器用なものであった。
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「ほえー、この山かあ」
しばらく準備を整えたウィウィ一行は、ジュアル氷山登山口にやってきた。
『ああ、行きにあんなことを考えてたからだ…!あれはフラグだったのよ…!!』
「フラグ?」
『気にしないで…こっちの問題だから…』
「んー、よくわからないけど行きましょ。ティティ?」
そうフィフィが言うと、どこからともなく黒猫が現れた。
「猫?」
「そ。この子はティティ。魔獣の一種みたいで、小さいころからついてきてくれるの。魔法もある程度使えるけど、ウィリーのように喋れるわけじゃないみたいね」
『…そうぽんぽん喋れる魔獣が湧いたらおかしいわよ!』
「ウィリー、それでいいんだ…」
そんな会話を続けていると。
「ニャー…」
ティティが鳴いてきた。
『…ん?何?』
「ニャニャ。ニャー?」
『…ああ、大丈夫。そんなに疲れてはいないわ』
「どうしたの?」
何か会話をしているようだが…
『フィフィ。この子、喋れるのね』
「そうなの?言葉は理解しているみたいだったけれど、喋れるって?」
『まだ私のように、マナを震わせて、「喋っているように見せる」ことができないってだけ。産まれてすぐこれができる、ってわけじゃないし、暫く経ったところで言葉を完全に理解しているってわけでもないしね』
「へぇ…」
「ニャー」
『…あら、知りたいのね。なら頃合いを見て教えるわ』
「喋れるようになるの?」
『この子が知る気ならね。大丈夫、すぐ覚えてくれるわ』
「ありがとう、ウィリー」
「…で、この山の上なの?」
「そうよ。この上に闇嵐龍がいる。あいつを倒しにいくの」
『…雪かあ。本とか、魔法とかで作ったやつなら見たことあるんだけど…』
「本物は初めて?」
『そうね。こっちは火山だし』
「なら歩きながら遊ぶ?」
『触れたら私が凍え死ぬわ…』
「…そ、そう」
そうして登り始める一行だった。
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『…た、高いわねえ。第三形態使っちゃだめ?』
現在、ジュアル氷山中腹。日もゆっくりと上がり、そろそろ昼になりそうな時であった。ウィウィの肩に乗っていたウィリーは、身震いをしながらフィフィに問いかけた。
「第三形態?」
『ああ、伝えてなかったわね。自分を魔車にするんだけど…』
「ウィリー、それは誤解を生む言葉だって。魔車の形にゴーレムを作るんだよ。ウィリーの周りに紋章があるでしょ?それらから魔法を起こすんだよ」
「…あ、それ種族としての紋章じゃないんだ」
『…で、使っていい?』
「だめよ。地面とこすれる音で、闇嵐龍が起きちゃうし」
『むぅ…』
楽をするのはダメなようであった。
「…ん?マナが増えてきてる?」
『どうしたの?』
「いや、なんだか水のマナが増えてきている気がしてさ」
「へぇ、よく気がついたのね」
『あ、合ってるんだ』
「…グレウス火山もこの高さくらいから火のマナが増えてた。ってことは、何かあるんでしょ?」
「え?特にないわよ?」
『…え?』
ウィウィとウィリー、無駄な推測であった。
ありがとうございました。
(追記※時間描写と、現在の登山状況を追記しました)