第2話 リベルクロス・ソウル
もう一人の具現者、現る。
まあ、今回は旅が中心だけどね。
『…はあ、ウィウィってば、いったいどうしてきちんと話を聞かないのかしら』
「ごめんって。とりあえず…こっちであっているんだよね?」
『知らないわよ…』
今ウィウィ達は、月陰の地に向かう船に乗っている…はず。
依頼を受けてからウィウィは村に戻り、依頼書をウィリーとミルに見せつつ、外出の旨を説明した。
怒りながら、仕方ないと承諾したミルの元、準備を整えたウィウィたちは、一日待ってからエルスの町に改めて降りた。そこから出ていた魔車に乗る…こともせず、ウィリーの炎魔車形態を使って魔車を追いかけ、着いたところにあった[月陰の地行き]らしき船の切符をすぐ買い、飛び乗ったところであった。改めて聞くと、明らかに無計画すぎるものであった。
「とりあえず、その月陰の地ってどんなところなの?」
『太陽の地が炎を司るなら、月陰の地は水を司る。ついでに、太陽の地が地を司るなら、月陰の地は風を司る。そういったところね。月陰の地は比較的雨が多いから、ウィウィにはきつい所なんじゃないかしら』
「…本当に?」
『うそを言う必要がどこにあるのよ…、私もあまり月陰の地では行動できないかもしれないわね。一応ファイアラットだし』
「本当に一応だよね、それ」
しばらくすると、ゆっくりと陸地が見えてきた。
「お、あれかな?」
『うわー…見るからに寒そうな山がある…』
陸の大きさは、太陽の地とさほど変わらない。というのも、3つの大陸は鏡のようになっているのだ。ウィリーが、寒そうな山、と称した山の名前は[ジュアル氷山]。今回向かうべき場所は、その山のふもとにある村であるが、もし闇嵐龍が山に登ってしまった場合、ウィウィ達も登らなくてはいけなくなる…そう考えたウィリーは、身震いした。
しかし、もちろんそういったことまで頭が働いていないウィウィは…
「おー、なんだあれ?高いなあ」
と、感想を残すのみであった。
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一応、船の内容は正しかったらしく、無事月陰の地に着くことに成功したウィウィ達。急いで港を抜け、広い草原についてから。
「…で、どこに行けばいいの?」
『さあ?』
考えがまったくなかった自分たちを後悔するのだった。
『とりあえず、もし村がエルスの町のように、ふもとにあるのだとすれば…』
しばらく考えて、ウィリーはまた魔車になった。
『こっちね。いくわよ』
「はーい」
日は、まだ昇り始めたばかりだ。
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『…たぶんこの村ね』
「入る?」
『そうしないと始まらないでしょうに…』
魔車でジュアル氷山のふもとに向かったウィウィ達は、そこに小さな村があるのを確認した。ウィリーを元のファイアラットにし、手に依頼書の写しを持って、とりあえず入ることに。
門に入ると、門番らしき人が出迎えてくれた。
「ようこそ、旅のお方。この村にはなにもないですが、よかったら休息を…って、その依頼書は?」
「たぶんここで書いてくれたものだと思うよ。依頼主はどこに?」
「あなたが受けてくれるのですか?ありがとうございます、依頼主はこちらです。同行者の件は聞いていますか?」
「うん」
『うそつき、あんたのことだから眠ってたでしょうに』
「聞いていたのは事実だよ…」
「…まあいいです。呼んできますね。おーい、フィフィー?」
『名前似てるわね、ウィウィに』
「?」
しばらくして、ウィウィより少し身長が高い女子が来た。
「ああ、来ましたか」
その子供は、小さいながらもしっかりとした目をしており。
『…へえ、確かにかなりのマナね』
その淡い青色の髪と瞳は、まるで水を具現したようであり。
「・・・?!」
それは、ウィウィにとっては、何か一つの刺激を与えたようだった。
「あなたたちね?例の依頼を手伝ってくれる人は」
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「さて、自己紹介だけしておくわ。フィフィよ。この村で産まれた、SSSランク冒険者…と、ここで止めておくのが普通の人なんだけれど」
『普通の人?』
「ウィウィといったかしら。あなたにはもうひとつ情報をあげるわね―――――
―――――私の本名は水の具現者。あなたと同じ、具現者よ」
「あー…やっぱり、そうだったんだ」
「やっぱり?」
「うん。見たときに、何かが違うって。普通じゃないって、そう思ったから」
『普通じゃないのはあんたも同じだけどね、ウィウィ。でもまあ、確かにマナの流れは似てるわね』
「そうなの?」
「そうよ。少なくとも、私とあなたは同じだって【視える】もの」
「そうなのか…」
そういうウィウィからは、何故かあまり力が見られない。
『どうしたのウィウィ?いつもの調子とは違うじゃない』
「ああうん、なんだかいくつか違和感があって」
「それなら、大陸が原因ね」
「大陸が原因?」
「あなたの力は、太陽の地で使うべきもの…というより、太陽の地を護るためにあるものよ。護る以外に使ったら、弱くなるのは必然なの」
「へー」
「…えっと、ウィリーといったかしら。そこのネズミさん?」
『なによ?』
「どうか、そこの子に具現者のことについて詳しく教えてあげて…」
『無理よ…。数年やってあきらめたわ』
「あ、そう…」
「?」
ありがとうございました。
(追記※日の昇り具合…というより、時間設定を追記しました。)