第3話 具現者の使命
文の丁度いい長さが分かりません。
「おーい、いるかのー?」
頭を抱えて苦悩するミルの元に、一人のしわがれた男性の声が届く。玄関で待っているようだ。即座に体制を立て直すミル。
「あ、はい!今行きます!」
彼女が玄関を開けると、そこには白いひげを伸ばした老人が立っていた。
「あの子は元気かの?」
「はい、見た目以外は炎溶人だといえますね。普通に過ごせそうです。」
「それはよかった。少しあの子を見せてもらっていいかの?」
この老人、実はこのグレウス火山内の村の村長なのだ。名前は何故か隠されているが、あったとしても皆にはどうせ村長としか呼ばれないだろう。
「ああ、いいですよ。どうぞ家の中へ…あれ?」
「どうしたのじゃ?」
部屋に目を戻すと、何故かウィウィがいなかった。
「消えちゃった…」
「…いや、背中にいるじゃろ」
重みに気づかなかったらしい。
「ふむ、いい調子じゃの。」
「へ?」
「マナが多すぎるというのに、その流れがはっきりしておる。もしかしたら、と思ったが、杞憂じゃったわ」
「はあ…」
「懐かしい流れじゃな」
「懐かしい?」
「おっと、口が滑ったわい」
ウィウィ・リベルクロス。
大層な名前を持つ彼には、本来なら200人もの炎溶人を生み出せるだけのマナがある。それだけに、暴走だってしてしまうのかもしれない。そう思った村長だったが、どうも無意味な警戒だったらしい。大河とも呼べるマナの流れは、ウィウィの中でゆっくりと、安定していた。
「ところで、一ついいかの?」
「はい、なんでしょう?」
「”具現者”を、詳しく知っておるかね?」
「ッ!」
具現者。ウィウィの名前。強いて言うなら名字。名字まである炎溶人は少ない。その中でもさらに異質な名前。ミルはつい反応してしまったが、この場においてはきっとただの”具現者”のことだろう、とすぐに気を落ち着かせる。
「…いえ、詳しいことは分かりません。ただ一つ、それがまるで精霊の様な存在である、ということだけ知っています。」
「ふむ、いいじゃろう。なら問おう。」
一拍おいて、彼は問うた。
「その具現者には、二つ目の使命があるのを知っているかの?」
「二つ目の使命?」
「左様。この地、即ちサレイン王国。大きく分けて三つとなるこの地には、それぞれの地に合わせた具現者がいるのじゃ。具現者達には使命がある。その力を、神に変わりお護りすることじゃ。じゃが…」
時として、違う使命を持つこともある。
村長は、そう言ってウィウィの頭を撫でる。
「あの子が自分で動けるようになったら、旅に出させるのじゃ。あの子が、世界における1人の具現者だとするのならの。」
「…分かっていましたか。」
「儂に分からんはずがないわい。幾ら何でもマナの安定具合がおかしすぎるのじゃ。儂は長生きしておる、具現者の一人や二人は見てきたわい。」
「…そうですか。」
数奇な運命の元にいるんだなあ、と、ミルはいつの間にか頭の上に掴まっているウィウィを撫でる。ついでに剥がす。
「さて、そろそろ飯にでもするかの。それでは、また。」
「あ、ありがとうございましたー」
玄関から村長が退出したのを見て、ため息を出すミル。
「具現者、かあ…」
「何か違う」
ミルの家から退出した村長は、そう感じた。
「あの子は確かに具現者じゃろう。おそらく炎の具現者じゃ。しかし…」
いつも元気なはずの村長の思案顔は、暗かった。それもそうだろう。
「普通ではない、何かがあるのぉ…」
具現者とは基本生物だ。だが、あの子は、確実に生き物にしてはマナの量がおかしい。あれでは精霊と言っても問題がないではないか、と。
「まあいい。その時になったら考えるかの。成長が楽しみじゃ」
思考を放棄し、普通に戻ることにした村長だった。
ありがとうございました。
(7月13日修正しました)