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紅蓮の神の伝説  作者: 夢神 真
第2章 冒険と、限界と
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第14話 知る限界と、知る二つ名の秘密

モノの趣味が男装と決まったのは、完全に先行き未定だったから。

反省はしている。後悔はしていない。

「そらっ!」

「っとぉ!」


 モノさんが女性だと知ってから何日かたって。その件も含めてかなり仲良くなれたモノさんと、今日は外で特訓しようということになった。


「せいっ!」

「よっと」


 聞いた話によれば、モノさんが女だということは割と知られていることらしい。でも、実力云々はトップクラスだということ自体は変わらないということで、今は他の国にもナメられていることはないようだ。


「くっ!」

「甘いっ!」


 でもほかの冒険者さん達に聞きたい。いくら強いって思っていたり、いくら綺麗な男性に似た女性だからってさ。


「うわぁぁぁ?!」

「…ふう、終わった終わった」




【生物泣かせ】の二つ名は、ひどいんじゃないかなぁ…


 ―――――――――――――――


「ねえ…ウィウィって本当は魔獣なんじゃないの?」

「どうしてそうなった…」

「だって、攻撃の始めの飛びかかりとか、殴りの直前に見えたマナの形とか、まさにそれだよ。おまけにマナの量も段違い。魔獣…いや、精霊にかなり近いのかな?」

「さあ?俺は知らないよ。というか精霊ってなに?」

「マナの力で生きる生き物…に似たなにかだね。体全体がマナで構成されていて、魔法の力は最強だそうだ。ただ、そのせいで、魔法を使うってことは命を削るってことになるから、魔法を使うのは控えるのが普通らしいね」

「へー。でもマナを使っていても息苦しくなったりしないよ?」

「それだから困るんだよ…」


 モノさんは、精霊と遊んだ(戦った)こともあるらしい。でも、精霊は強すぎて、互角に持っていくのが精いっぱいだったそうだ。


『でも、互角に持っていく時点でかなり強いわよね。精霊様とまともに戦える人族ってそうそういないって、この前とある魔獣から聞いたわ』

「今なら勝てるかもね」

『…少しは自重しときなさいよ』

「というか、その時戦った精霊の力を、ウィウィは遥かに上回っているんだよ」

『…ウィウィも少しは自重しなさいよ』

「その力は自重できないよ…」

「でもね。使い方が甘いから、【ヒト型の壁】を超えることができないんだ」

「【ヒト型の壁】?」


 なんだそれ?


「二足歩行、前足を基本の道具として戦うことを、【ヒト型】を使うっていうんだ。これに対し、四足歩行、手足より顔や胴を基本として戦うことを、【ケモノ型】という。ウィウィは…ヒト型ベースかな」

「へー」

「でも、実はこれには限界がある」

『限界?』

「そう、限界だ。さっきの僕の動き、見てた?」

「んーと…」


 手足の挙動は見えた。でも・・・


「胴体がまるで無いような動きだったな」

「そう。でも胴体は付いていなきゃいけない。胴があるのにない動きをする。ほかにも、あり得ないバランスを保ち続ける。ヒトができる動き、その限界を壊すこと。それが、【ヒト型の壁】を超えること、すなわち【限界突破】だ」


 ほえー…


「モノさんは限界突破したの?」

「もちろん。それでいてやっと、ヒト型ベースに精霊型を加えた、あの精霊に互角に挑めたんだ」

『…精霊型ってなによ』

「精霊に形がないことは知っているかな?」

「知らない」

「精霊には、決まった形がない。まるで、世界に直接干渉しているみたいにね」

『ふーん…世界に干渉…ねえ』


 ウィリー、なんでこっち見てるんだ。


「でも、形がないと全ては成り立たない。だからこそ、成り立たせるために、何かの型をとる。精霊型っていうのは、常変の型なんだ」

「決まった形がないってことか」

「そう。何かをベースに、その型を強引に組み替える。腕を増やしたり、尻尾を出したり、ね」

『で、モノさんは常識を壊せたから、それに立ち向かえた、と』

「常識を壊せたとは心外だね…。でも、あながち間違いじゃない。[常にそれは不変だ]っていう思いは捨て去らなきゃ、ああいうものには勝てないよ」

『…で、一つ聞きたいのだけれど』

「なに?」




『ウィウィに、壁は壊せると思う?』




「もちろん」




『ありがとう。それだけ聞ければ十分ね』


 ―――――――――――――――


「ところでさ。モノさんっていつから【生物泣かせ】なんて物騒な名前つけられていたの?」

『あ、それ気になるわね』


 ふと、そう思って聞いてみた。ウィウィも興味があるみたいだ。しかし…


「…それ聞いちゃうかあ」

「あっ!聞かれたくなかったら聞かないから!」

「いいよ、いつか話すことだとは思ってたし」


 モノさん、なんだか若干遠い眼をしている気が…


「あれは、そうだね。SSSに上がって暫くたったころだったか…」


 ―――――――――――――――

 ~モノの回想~


「ギルド長、依頼終了しました」

「うむ、ご苦労。して、かの地・・・【フロンティア】はどうじゃった?」

「魔獣が200~300ほどいましたが、滅してきたので問題ないです」

「…お主は本当に、魔獣泣かせじゃのう」


 思えばこの時、ギルド長がこんなことを、あいつ…SSSランクのアウィルの前で言わなければよかったんだろうね。


「おいおい長、こいつの場合、魔獣に限らず泣かせるじゃろうが」

「む?アウィルか。それはどういうことじゃ?」

「こやつを男が見れば、自らよりも強く逞しい者が、女だっていう事実に心折られ、泣くじゃろう」

「ちょっと待って?!」

「女が見れば、自らよりも美しく、自らが惚れそうになるほど男らしい対象が女だって知って、泣くじゃろうに」

「…?!」

「こやつの前では人も魔獣も、即ち生物すべてが泣く、そういうもんじゃろう」


 正直驚いたよ。そんな言葉をアウィルから聞くなんてね。おまけに…


「そうだそうだー!」

「この生物泣かせがー!」


 とか、後ろからヤジが楽しそうに飛んでくるし。


「ふむ、この際じゃから、お主の二つ名を決めておくことにしようかの。そこの冒険者ら、こやつの二つ名を【生物泣かせ】にすることに異論はないかの?」


 こんなことをギルド長が言って、


「「「異議ナーシ!」」」

「ちょっ」

「よし決まった。この1年間でここまで成長したという驚異的な実力を持っておったのに、二つ名がなかったのは参っておったのじゃよ」

「・・・」


 って言われたんじゃ、返しようもなかったよ…


 ―――――――――――――――

 ~回想終了~


「うう、思い出したら泣けてきた…ぐすん」

『ああうん、元気出してね?』

ありがとうございました。

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