第12話 ご飯と温泉と、3つの大地
改めて思う。世界観とはなんだったのかと。
モノさんの部屋は、さっきも言った通りさっぱりとしている。周りは白を基調とした、清潔感を感じる空間になっているね。壁には何も飾っていなくて、壁は綺麗だ。床には絨毯が軽く敷かれているけどね。
台所と居間が一緒になっていて、そのテーブルの上で幾つか仕事をしているみたい。残ってた仕事なのかな。でも、その割に大きめなクローゼットがある。何が入っているのやら。
まあ、一番いいのが、この窓から見える景色だね。町を見渡せる大きな窓。今は夜だけど、マナの光で照らされた町が、すごくきれいだった。
「さて、と。ご飯食べてないよね。景色に見とれているところ悪いけど、行くよ?」
夜景に見とれていると、モノさんからそういわれた。
そういえばご飯食べてないや。思い出したらおなかすいてきた…
「って、どこに?」
「寮食堂。ここはギルドの寮だからね、そりゃ寮食堂もあるさ」
「…寮ってなに?」
「んー。会社とか、学校とかにある、遠いところから来た人の為の宿舎、だね」
『宿舎…宿かしら。まあいいわ、とりあえずそれで大体理解したわ』
―――――――――――――――
寮食堂、とやらにくると、明るめの色をした広い部屋に、綺麗に並べられたテーブルと椅子があった。
ギルドの窓口とは違う、淡泊なカウンターの裏では、何人かが仕事をしているのが見れる。
今ちょうど、カウンターからご飯らしきものを受け取った人が向かった先には、何人かの人が先に似たようなご飯を食べていた。
「さてと、あっちで食事を頼もう。全体通して500アルトだから、どれを選んでもいいよ」
「わーい!」
『私はどうすればいいの?』
「んー…魔法を使うことは禁じられていないし、精密版のゴーレムを使えばいいんじゃないかな?」
『そうね…よっと』
ウィリーはファイアゴーレム(精密版)を起動した。今回は…モノさんの着ているような、スーツ?を着ているみたいだ。そこまで余裕ができるようになったのか…。
女性なのにスーツなのは気にしないことにした。
『…周りが少し驚いているようだけど?』
「あー…気にしないで。あと、これからはその姿を基本として行動して欲しいな」
『どういうこと?』
「その場でなるより、なった後の方が、見る側にとって安全なんだよ」
『ふーん…』
「感覚的な問題だけどね。危機感は薄れるよ、こっちの方が」
「これください!」
「・・・この子は本当に自由だなぁ」
『同感ね』
―――――――――――――――
「さて、そろそろ寝ようか?」
「そうだねー」
もう外は真っ暗。
「まあ、その前にお風呂行かないとね…」
『…そういえば。完全に忘れてたわ』
「着替え持ってくー」
「ふふ、楽しそうだね」
『まあ初めて来た地だし。浮かれるのも仕方ないわ』
「じゃ、行こうか」
そういうと、モノさんは急に歩き出した…って!
「ちょっと待ってー!追いつけないー!」
『・・・あー』
―――――――――――――――
「うわあ…!」
『こんなところにあるなんてね…』
「お、来た来た」
モノさんを見失なって暫く彷徨っていた俺たち。ギルド寮の係員に教えてもらい、やっと「お風呂」とだけ書いてある扉を発見。中に入ると、そこはどうやら更衣室だったらしく、男と女で別の部屋が用意されていた。もちろん「男」に入り、着替えた後に注意点を(ウィリーに)読んで(もらい)、タオルを腰に巻いて扉の中へ。
そこには、岩を基本とした温泉が広がっていた。
空を見上げると三日月。目前には秘境のような世界。綺麗だと思った。
その中に、体全体を大きめの布で隠したモノさんがいたんだ。
『少し遅れたわ、待たせたかしら?』
「問題ないよ」
「ねー、なんだか急いでいたみたいだけど、なんで急いでたの?」
「うぇっ?!えっと・・・」
あれ?何だかうろたえてる?
「あー・・・ちょっと用事があったんだよ。それよりウィリー?」
それよりって。
『…なによ?』
「炎のゴーレムで温泉に入って大丈夫なの?」
『1度試して、周りの温度の一つも変わらなかったから問題ないわ。本当によく分からないゴーレムね、これ』
「…本当にね。とりあえず、そこで軽く体を流してきたら?」
モノさんが指した先に、筒状の植物から水が出ていた。
「なにあれ?」
「確か、【ヤマト】の国で、【タケ】って言われてる植物だってさ。水は川のものを暖めて消毒したお湯らしいね」
「お湯なら大丈夫だね。適当に洗い流そうかな」
『こら。しっかり洗いなさい』
―――――――――――――――
「『はぁ~…』」
「気持ちよさそうだね…」
「力が抜けるぅー」
『いい世界ね、ここ。魔法陣があったけど、どこにつながってたの?』
「…さあ?ギルド長くらいしか知らないと思うよ」
「ギルド長しか知らないって、モノさんはここ作るのにかかわっていないの?」
「いくら副ギルド長だからって、すべての補佐をしているわけじゃないんだよ。ここはその外れたひとつだね」
そう言うモノさんは、本当にここを楽しんでいるような感じがした。
『でもいいマナが漂ってる…このマナ、水と風?』
「へえ。それなら向こうの大陸とでもつながってるんじゃないかな?」
「どういうこと?」
「この世界は、三つの大陸に分かれてるって覚えてる?」
「うん、昔聞いた」
「で、今いるグレウス火山のある地は、【太陽の地】って呼ばれてる、火と土のマナが多い大地だ。それに対して、水と風の多い大地、つまり向こう側の大地は、【月陰の地】。その二つの真ん中にある大地が、すべてを繋ぐ地。【星繋の地】だ」
『星繋の地には、すべてのマナが均等にあって、そのすべてが繋がっているってされているの。実際に繋がっているかどうかは知らないけれど、事実同ランクのどの魔法も、均等な威力に変わるらしいのよ』
「へー…って、ウィリーは何でいろいろと知っているの?」
『あんたと違って、こっちはきちんと本とかを読んで、知識を手に入れているのよ』
「そんな本あったんだ」
『村長の家にね』
―――――――――――――――
「さて、そろそろ出るね」
「はーい、俺たちはしばらくゆっくりしてるよ」
『ウィウィ、さっきので道は覚えたんでしょうね?』
「…だ、大丈夫だよ。たぶん」
…がんばれば思い出せると思うけど、今は覚えてないよ、とはいえなかった。
『…なんだか不安だわ』
まあ勿論、覚えていない道を辿ることなんてできないわけで。
暫くの間、ギルド内を彷徨っていた俺たちだった。
ありがとうございました。
ヤマトは大和。どこでも変わらんね。