第2話 母の苦悩
しばらくは説明タイムなのですよ。
異様なまでに多くのマナを持って生まれた子が、選ばれし母の元に来たというニュース。その情報は瞬く間にグレウス火山内の村を駆け巡っていった。
その渦中の女性、ミル。彼女は自分の家の中で…
「どうするのよこの子…」
非常に困惑していた。
理由は二つ。一つは単純に育児に対する知識がない。これは本でも見ればいいのだろう。炎溶人の育て方なんてどこに書いてあるのかは知らないが。
だが、もう一つは割り切ろうにも割り切れなかった。神童だの魔女の子だの騒がれている腕の中のこの子。ちょうど先ほど生噴火で生まれてきたこの子は、いろいろな点で普通の炎溶人と違っていた。
まず髪の色。炎溶人なら土のように濁った茶色を持つはずの髪は、この子の中でどんな変化を起こしたのかはわからないが、うす汚いイメージを軽く吹っ飛ばす、明るい赤と黄土色が、光の加減によって、コロコロと髪の色を変えていた。
次に体色。火山の麓の町の人達の真っ白い肌を少し焦がした位の肌をもつ炎溶人よりも、より焦げて、少し黄土色じみた肌が体中を覆っていた。こんがりとしていて、なんとなくパンを思い出させてくれる。
ほかにもいろいろな違い(マナの量など)があったが、何よりも。本来ならば茶色に近い、というかこげ茶色になるはずのその瞳は。
”焔を蓄えたかのように紅かった”。
完ッ全に異常じゃない!と叫びたい気持ちを強引に抑え込み、改めて冷静に考える。
炎溶人は、生まれ方が特殊なために、はっきりとした親というものがいない。いや、そのテの器官はあるが、そもそもそうやって産む必要性を祖先が感じていなかったのか、少なくとも今この村に居る人々には、血の繋がっている親を持つものなどいなかったはずだ。外に出ていった炎溶人は知らない。
血の繋がりを持つ者が極端に少なくなる炎溶人の子はそれが所以なのかは知らないが、テレパシーか何か(マナの影響かもしれない)によって、神から名を授かり、それを親にテレパシーで送る。これが普通。
しかし、この子は違った。
産まれる直前にはもう名前が分かっていながら、その子が腕の中に収まった直後には、何も感じなかった。あるべきテレパシーがなかったのである。
もしや、炎溶人ではないのでは?とも考えた。が、それはそれでおかしい。炎から生まれ、炎と共に生きる。それが炎溶人を炎溶人たらしめている行動であり、この子は異端ながらも、集溶岩と呼ばれる「炎(の塊)から生まれ」、また炎に近づけても逃げるどころか自分から手に取りにいく、というか火種持っちゃってはいたが熱くは感じていなかったようで、「炎と共に生きる」力も持っている、となるとこの子を炎溶人とするしかない。
それにだ。この子に感じた名前は一風変わっていた。
「ウィウィ・リベルクロス…」
ミルは、この言葉の意味を知っている。”ウィウィ”は、炎帝、炎妃という、グレウス火山に平和をもたらしたとされる二人の名字。転じて焔の強大な力のことを指す。”リベルクロス”とは、具現者。過去において、精霊と同次元にあるとされていた存在、を意味する。
つまり。この子は大層なことに、「焔の具現者」などという物騒な名前を持っていることになる。
「完ッ全に異常じゃない!!」
我慢できなかった。頭を抱えるミル。その背中には、いつの間に移動したのか、非常に眠そうにしながらしがみついている、焔の具現者様が、首をかしげていた。
今のところは朝七時投稿の予定。
(7月13日修正しました)