第15話 始まりの壊世
やっとできた…
ウィウィは六歳となった。
今日は、母であるミルに連れて行ってもらい、村の真ん中にある火口にいた。
「よーし、村長はたぶんきちんとやってくれてるだろうし、行くよー?」
「…え、どこに?」
「この火口の中。そろそろ道ができるだろうから、見ててね」
火口の中では、相変わらず溶岩がぼこぼこと紅く燃えている。
『…どこも変わる様子ないじゃない』
と、ウィリーが口にしたその途端、溶岩が急に光りだした。
「『えっ』」
「お、きたきた」
ミルたちが立っている地点から、真ん中に向かって。光の線が引かれたとたん、その線から溶岩が割れ始めた。隙間はどんどんと広がっていき、遂には二人と一匹が余裕をもって入れるだけの幅となってしまった。
その奥、火口の底に、まるでそれが当たり前であるかのように、階段が存在していた。
「…この中?」
「だね。今日はこの奥を見に行くよ?」
『何があるのかしらね…』
二人と一匹は、ゆっくりと階段を下りて行った。
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「具現者…か」
ミルたちが火口の中に向かっている間、村長は先ほど起動させた、”溶岩制御装置”の前に立っていた。
「昔、一度だけ彼らを見たが…はたして彼はそれに追いつけるのじゃろうか…」
ただただ、思う。
「この地は確かに、今も火の素、火のマナで覆われておる」
今いる村の、違和感について。
「じゃが…どうも今は別の要素があるみたいじゃのう」
かつて出会い、この地に消えた、
「この嫌な要素のためにも、」
炎帝と炎妃を思い出しつつ。
「彼らに追いつけるといいのじゃがなあ…」
具現者の名を手にした、あの子に。
「どうか、この地を護ってくれ…ウィウィ・リベルクロスよ…!」
一つの願いを、送ることにした。
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「ん?」
「どうしたの?」
「なんか聞こえた」
『…気のせいじゃない?』
「んー…なんだか強くなれって聞こえた気がする」
「これ以上強くなってどうするんだろう…」
一方、ミルたちは、火口の中を歩いていた。途中ウィウィが電波らしき何かを受信した以外は、特に何も起こることなく奥地についた。
「さて、これがあなたたちに見せたかったもの」
そこには、伸びに伸びて、腰ほどにまで伸びた髪を持った、武闘家風の女性と、
『…わーお』
勇ましい力を持っているかのような、豪快そうな男性の銅像があった。
「この人たち、ウィウィの祖先よ?」
「・・・え?」
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「どういうこと?祖先って」
「なんとなく考えて、もしかしてと思って来ただけだったんだけど、あたってたか」
『…どういうこと?この像はだれを基に作ったの?』
「そうだね、教えよっか」
何をだ、とウィリーが突っ込む前に、ミルは前に出る。銅像のすぐ足元まで来ると、立ち止まり、
「ウィウィ御夫妻。選ばれし者をお連れしました」
『「?!」』
そう宣言した。
「え?なに?どういうこと?」
『えーっと…いや、ちょっと待って。ここ火山内でしょ?そこに崇められているほどの存在で、ウィウィ?まさか…』
「さすがにウィリーは頭の回転が速いなあ…」
その途端、急に銅像の周りが光りだし…その光は銅像の正面に集まって、ゲートのようになった。
「行こう、この奥のはずだよ。ウィウィ御夫妻がいるのは」
「…えっと」
『固まってないで、行くわよウィウィ。あんたのよくわからない力の一端でも見れるんじゃないかしら?』
「…そうだね、いこう」
彼らはゲートの中に入る。初めにミル、続いてウィウィ、その頭にウィリー。彼らは光に消えていった。
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『よくぞ来た。此方へ参るがよい』
「失礼します」
「し、しつれいします」
『失礼します』
ゲートの中にいたのは、先ほどの銅像の、勇ましい力を持っているような男と、髪の長い、優しそうな女だった。椅子に座っていたのは男のほうで、女はそのそばに立っている。ミルたちはその近くの席に案内された。
『さて、ここに来たということは、あの書物と、記されていた具現者の誕生を確認したのだな?』
「そうです、この隣にいる子が選ばれたのです」
『ふむ…む?具現者としての力は確かに持っているようだな…だが』
「何ですか?」
『いや、よくもまあこの状態で維持できたな、と思ったのだ』
「…?」
あの書物、というのは、最近確認できた謎の巻物である。ミルの家の中に何故かおいてあり、気づかなかった方がおかしかったのだが、本当に何故か置いてあったのだ。そこに記されている内容の解読をしたところ…
【これは、この世に波乱の基調が見られたときに透明化を解くものである。四つの属性の具現者が世に改めて就く時、この書は改めて透明となるだろう。この地における具現者を、過去の元へ向かわせるのだ。具現者の試練を以て世の平安を保て】
とあった。過去の元というものが、おそらく先代の具現者のことだろうと考えたミルは、書物を持ち、村長のもとへ。許可を得て、火口の中の、先代の具現者の像にと、ウィウィを連れて向かったのだった。
「この状態、とは?」
『わからぬか?不安定なのだ。確かに膨大なマナはある。そしてそれを平穏にしている、ということもある。だが、平穏すぎるのだ。如何なるものも、動かぬままに姿勢は保てぬ。人も、二本足で立ってはいるが、その実前に後ろに、重心を動かしているだろう?』
「・・・」
『まあいい。気にするな。今はお主らと会話をしたいだけだからな。深く考えなくてもよい』
『・・・えぇー…』
気にするわよ、と突っ込みたいウィリーであった。
ありがとうございました。