第8話 【魂・瞳・情熱】
―――聞コエルカ、コノ魂ノ声ガ。
情熱ノ神ハ、今ココニ具現スル。
「と…とにかく。光の力そのものは、純粋なエネルギーなんだよね。炎とも違う特別な力。これ自体には生命が持つべき理由はないんだよね」
『ええ。もし持っていたら、夜に明かりは必要ないでしょう。自分たちの体から漏れ出す光で事足りますから』
まあそうだよね。
でも、これはあくまで前提の確認。
「じゃ、これは?」
そういって、俺は右手を掲げる。その手には何も見えない。
『…む?』
「あ、ツェルは気づくか」
目には見えないはずなのに、ツェルはそこを凝視する。
確実に何かが見えている。
『この光は…先ほどのものとは違いますね』
「そりゃそうだよ、俺は見えてないもん」
『えっ?』
驚くツェル。これ、俺もどのくらいの力で光を出せているのかわからないんだよね。
だって、【魂ノ声】…精神の力を出しているんだもの。
「ツェルも無意識でその視点になっちゃってるのかな。一回、マナの流れを介してじゃなくて物理的に見てみてよ」
『わかりました…おや、消えた』
「この光が、俺たちにとっては大切なものなんだと思う」
『ふむ…私が触れたらどうなると思います?』
「大丈夫じゃないかな?光としての属性の効果はないはずだもん」
『そうですか。どれ…』
ツェルが手の上の何も見えない空間に、手を伸ばす。
『…おぉ、なんだかフワフワとした感覚が』
「…成仏に近づいてないよね?」
『まさか。それとは別ですよ、人の温かい心に触れているような感覚です。言葉も何もないですが、なんだか安心できます』
「これを技として、名前をつけるなら…【魂ノ声】【照ラス】かな」
心の中に、声を響かせる。ほんのり暖かい、聖なる光のように。
俺の持つ、光に対する性質が高まっているのは明らかだ。
『これなら、光の力も使いこなせるということでいいのでしょうか?』
「だと思うよ。物理以外の力が使えるっていいね」
『心にまで語りかけられる力…これなら、闇だけでなく、それ以外の存在に対しても有効に使うことができるでしょう』
「だね。ここまで出来たら…いよいよだ」
…さて。ついにこれに触れるときがきた。
「じゃ、そろそろ本当にやりたかったことに触れようかな。この俺の目…【太陽の具現者:表の赤眼】。この力がどういうものなのか…改めて知らないといけないと思う」
これが最後だ。俺たちの力である、【太陽の具現者】。それのひとつ先に存在する、【表の赤眼】。闇ウィウィの持つ【裏の赤眼】も同じかもしれないけど、この力が何なのか。
本来なら、【太陽の具現者】の力は俺にだけ使えるはず。闇ウィウィは、俺と同じとはいえ力自体は闇のものだし、もう今じゃ肉体的にも離れてるしね。
でも、アイツは今でも闇の力を使えている。というか、俺の太陽の光部分が闇に変わっただけの力を使えてる感じがするなぁ…それってなんでだろう?
…そこは今はいいか。まずそもそも、俺の力がしっかりこっちでも使えるか確認しておかないと。
「具現者としての能力じゃない、この紅き眼を持つ者としての力。具現なんかじゃ到底表せないのかも、って思ってるんだよね」
『…表せない?どういうことですか?』
「言葉で説明してもアレだから、ちょっとやってみるね」
そういって俺は立ち上がる。ツェルから少し離れないといけないからね。
数歩離れた後、もう一度ツェルの方を向いた。
「じゃ、いくよ」
『…ええ』
―――――――――――――――
~三人称視点~
彼自身が望むことで得られる力、ではない。
神様から託された力。だからこそ、知らなくてはいけない力。
これが、情熱の赤眼が持つ力だ。
「…はぁぁぁぁああああああっ!!」
彼の叫びと共に、地面が揺れ動き始める。
『これは…っ!』
「さすがにツェルも揺れには気づくかなっ!」
思わず立ち上がったツェルを見て、ふとみんなを起こしてないかなと考えたウィウィ。
しかし、すぐ考えを振り払って力をため続ける。
「ぁぁぁぁあああああ!!」
この大地は独立した小さな島だ、言ってしまえば土の塊。溶岩なんて地面の中に流れているはずがない。
それなのに、彼の周りの地面にはピシピシとヒビが入り、中から赤い光が漏れ出している。
―――ドゴオオォォォンッ!!
その光が…マグマが一気に噴出する。
そのすべてが、大地に還ることなく彼の体に降り注ぐ。
「はぁっ!!」
纏わりついたマグマに対し、左腕を一振り。
それだけでマグマは消え去った。でも、赤い光だけは残っている。
「…不思議な現象だよね。そして、この光もまた熱なんかはないわけで」
赤い光たちは、俺が右手を掲げるとそこに吸い込まれていく。
彼自身が発光し始めるくらいに。
「…これが、俺の赤眼。【情熱】だ」
燃え盛るような、でも包み込めるような暖かさ。
人として持つべき、行動のための熱量、エネルギー。それこそがこの赤眼の力によって引き出された力だった。
「はああっ!」
右手の光は、情熱の光。それを取り込んでいく。
世界から受け渡された感情の力を、彼は制御していく。
「…燃え盛れ、湧きあがれ!情熱の炎よ!」
タンッと飛び上がり一回転。
遠くにすら見えなくなった、水平線に自身の座標を合わせる。
世界と接続した状態にある彼にとって、世界の作った本来の重力の向きは、たとえこの壊世大陸にいようとはっきりわかる。
空に浮いた上体で、天に右手を掲げた。
そこから吹き上がる光は、属性として当てはめられない色をしていた。
『…これが。炎でもない、光でもない力』
「太陽の具現者としての力でもないからねー…はっきりとした色をしてるでしょ?」
それにもしも題名をつけるとするのならば、銀朱色の情熱と、はっきり言える情景だった。
神々しさを背に乗せて、ウィウィはそこに浮かんでいた。
ありがとうございました。
属性のない力…って、属性が力になる世界だとどう扱うんだろう。
別ベクトル?




