第13話 五感持つ精密なカラダ
なんだか5歳が長く続きそう。
『うがあああぁぁぁ…!!』
「むむむ…?」
夜。相変わらず悶えているウィリーを尻目に、ウィウィはマナで描き上げた魔法陣を解析していた。もちろん、今ウィリーが悶えている原因の、創炎魔法の魔法陣である。
「何が理由なんだろう?」
今回彼が謎に思っている理由は、非常に単純だ。
高出力が出ない。
魔法であり、攻撃にも使える、というか攻撃重視の魔法である以上、より効率的に高火力を出す必要があるのは事実だ。だが、どうもウィウィからすれば構造が不十分らしい。今のところは、訓練場の地面の4分の1を焼く力しかないらしい。…十分ではないのか、と思いたくもなるが、本人は不満のようだ。
「むむむ…」
そうして唸りに唸って、月が地面の真横から真上に来るくらいかかって。
『ふぅ、落ち着いた』
「あ、戻ってきた」
先生が復活したようだ。
「せんせー、改めてこの魔法陣教えてー」
『なんで作った人が作ってない人に問いかけてるのかしら…まあいいわ』
きちんとした先生になるためか、小さいファイアゴーレムを作って乗り、ウィリーは話し出した。少し人に近づいた形になっているのは、一種の進歩だろう。まあ裸のようだが。
『簡単にいえば、水や土、風や火の素。このすべてになにかとこじつけて、火の素に変えちゃってるの』
「こじつけてる?」
『詳しく言っちゃえば、火は一種のエネルギー。光だろうが熱だろうが音だろうが何だろうが、エネルギー体であるならそれは火の素と置き換えられる。これで相手の力さえ自分の力にできるの。』
「へー」
『水は火に打ち勝つ力。つまり逆に、その水が打ち負ける要素を認識すればそれは火となる。どうなってるのか分からないけど、これで火の素に置き換えられちゃうのよ。』
「んー…?」
『まあ魔法の属性の相性のことね』
この世界では、火→風→土→水→火、という具合に相性が決まっている。矢印の左が右に強い。今回言っているのは、水→火のことだろう。
『土は、さっきも言ったように、「土の素は世界の創造のときに熱から始まった。」つまり、熱にあたる火から始まったという風にも解釈できるの。つまり、土の素を火の素に置き換えるのは、原点回帰の現象ね』
「ふむふむ」
『風は、まあたぶんエネルギーのようなものね。空気の持っているものとはいえ、力は力。すなわちエネルギーよ。あとは火と同じね』
「うーん、俺の魔法陣にはそんな意味があったのか」
『うぅ…!なんで製作者が理解してないのよぉ!直感なの?!天才肌なの?!』
「あ、発作起こした」
『魔法陣の内容自体若干世界に干渉しすぎてるから取られるマナも多いはずなのにこの子だからマナとか気にしてないしもうやだぁ…!!』
器用にゴーレムの眼に涙らしきものを流しながら泣き崩れるウィリー。
「あ、それで聞きたいことがあるんだけど」
『今度はなによぉ…!』
「あの魔法陣もう少し強くできない?」
『もうやだあああぁぁぁぁ!!』
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『うぇっく…ひっく…!』
「よしよし…」
暫くして、落ち着いたとはいえいまだ泣いているウィリーを慰めることにしたウィウィ。ウィリーはゴーレムの中にいるが、小さめとはいえ未だ彼女の全身を埋めているゴーレムは、炎なのに奥が見えず、触れることができて、何故か触られる感覚が直接術者に送られる機能があるらしい。
本来だったら要らないところだが、今は撫でて落ち着かせることができるため、この機能に感謝することにしたウィウィだった。
「落ち着いた?」
『ぐすっ…うん…』
「もう寝ようか?」
『うん、そうする…』
幼児退行しているウィリーを抱えて、ベッドに向かうウィウィ。とりあえず無意識レベルでファイアゴーレムを起動していることについてツッコんでくれる人はいなかったらしい。
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次の日の朝。
「おー」
「あれ?いつの間にこんなになってたの?」
『わからないわよ、ウィウィと一緒に訓練してたらいつの間にか無意識で起動して動かせるほど精密になったの。五感も何故かあるし…』
ミルの前で、昨日の夜、急に成長したファイアゴーレムを見せるウィリー。見た目上は、まるで少女である。
炎ゆえか色の違いはないが、ストレートショートの髪とぱっちりした眼、凹凸の少ない体は、ゴーレムとは思えないほど精密に動いている。
耳は何故かハムスターのように丸く、頭の上に乗っており、またちょっとだけ出ている尻尾がある、などといった点は、元のファイアラットの肉体のイメージ故か。獣人のようだ。ただし裸である。
「本当に精密ね…」
『私も驚いてるわよ…ひゃうっ?!なにしてるの!?』
「いや、気になったからつい」
『なんで尻尾触るのよ…!』
実際五感を持ったゴーレムをつくる魔法陣自体は、割と簡単に作れる。だが、そういったものは基本的に人間には使われない。普通この魔法陣で作ったゴーレムはどうしても脆くなり、戦闘には使えないからだ。一部の色物は使っていたりするらしいが。
しかし、今回ウィリーが作ったものは、ウィウィと訓練した際に精密化した魔法陣作成技術を、無意識であるとはいえ利用したものだ。その精密さと異端さゆえ…
『まあ、朝起きて、体全体に紋章が刻まれていた時はびっくりしたけどね』
「あ…そうなの…」
「昨日とは別人みたいだったよー」
ということだ。どうやら無意識に体を焼いていたらしい。ファイアラットだから燃えない、というわけではない。きちんと燃えない限界の温度というものはある。それを超えれば燃やせるのだ。というか焦がして跡をつけることはできる。
『まあいいわ。そろそろ仕事じゃない?』
「あ、そうだった。いってきまーす」
「いってらっしゃーい!」
『さあ、私たちも二階行くわよ』
「え?」
『昨日のことよ。魔法のことについて聞くんじゃなかったの?』
「あ、そっか。おねがいしまーす!」
『うん、元気でよろしい!』
こうして、今日も一日が始まった。
『ねえ…』
「なに?」
『とりあえず、昨日の私こと…忘れて?』
「…」
流石に昨日の幼児退行は恥ずかしかったようだ。
ありがとうございました。
追記※後述の話の為に、水の変換方法を修正しました