第2話 【ループ・魂・記憶】
―――見エルカ、記憶ノ果テガ。
タドリ着ケルカ、創造ノ果テニ。
「実は、あの神様のいたところから帰った時間…あなたと私で違ったの」
フィフィはそう話した。
あの世界から俺たちを帰らせたのは神様だ。ということは、神様がフィフィに話したかったことがあったということになる。
俺が死んでいることが重要なことなら、神様から直接話があっても良いはずなんだけど…俺にはその話がなかった。どうしてだろう。
ついでに言うと、あの闇ウィウィがそのことを知っているのにも疑問が湧くね。俺と一緒には来てなかったと思うんだけどなぁ。
フェイアンもある程度の認識をしているみたいだし。俺だけ置いてかれてる?
「この世界での、【死】。それはその体からマナを失い、世界に自らを留めなくなること。死ぬ人は、自らに宿るマナ…魂を空へと飛ばし、この世界の外に一度飛び出すの」
「ふーん」
「マナの循環は100%の効率でできるわけじゃない。長く生き過ぎるとマナが体に溜まり続ける。普通の体ではそれに耐えられないから解放するの、それが死よ」
『ふむ…妾は死せず、ただ在るのみ。そのマナの滞りが妾をこの域へとたどり着かせたのかのう?』
「あなたは…そうかもね。神龍と名が付いているとはいえ、神様がいない間の仮の管理者。過ごしてきた時間が力を生んでいるのでしょう。それに耐えられるだけの体はあるみたいだしね」
『なるほどな。この体がマナの滞りに合わせるように作られているのは、ウィウィ達の現れを待っていたのかもしれんのう』
「さて…次の内容はウィウィを何故死んだ者と称したかだな。さっきの条件に合わせるなら、魂を一度この世界から飛び出し、自らに宿るマナを失う必要がある。こいつが死んだタイミング…すなわち俺と肉体を入れ替えたタイミングは、二つある。俺との戦いのとき、それとあのヴィヴィとの戦いの時だ」
「二回も死んでたの俺?!」
「えっと、ウィウィ。ちょっと違うのよ」
「ああ。【魂のみが別の世界に向かった】という視点で見れば同じなんだが…マナが解放されたのは後者だけだな。俺との戦いのときじゃマナは解放されていなかったぜ」
「私との戦いのとき?」
「かも。あの時は…ウィウィは精神体だったわね。肉体を一時的にだとしても…捨てる行為。自身の中に飛び込むまでなら許されてたかもだけど、世界を超えた先に向かうならそれは自殺なの」
「へ、へぇ…」
口調がちょっと厳しい。叱られてるなぁ。
「…まあ、神様に教えてもらった今だからこうやって言えるけど。かなりすさまじい技よ?あなたがやっていたことは…」
「…え、技?」
「ええ。【輪環生存】。死を意図的に引き起こし、別世界へ飛んでマナをかき集め復活する、禁断の技術の一つね」
・・・え!?
「えっ…わ、技なのあれ!?」
「驚くところがそこかよ。だがありゃ技術の一つだ。精神体となっても魔法が使えるということと、別世界線が存在することが大前提だが…自らの輪廻転生の時期を早め、疑似的に不死を作り出せるトンでもない技だ」
「それをウィウィが起こしているという話を聞いたのよ。あの神様から」
フィフィはそういって、目を閉じた。
―――――――――――――――
~少し前、フィフィ視点~
神様に、新たな具現者としての責務を担う宣言をし、ウィウィは光に。私は闇に包まれた。
数秒の沈黙があったのち、目を開いた先には…
「…よーし、成功だ。ウィウィは無事あっちに戻れたな」
先ほどと同じく、神様がいた。ウィウィは居ない。
「あら?私はこっちに残ってるけど…」
「そりゃフィフィをテレポート対象から除外してたからな。話をしておきたいことがあってよ」
「・・・」
わざわざ私だけ残しておくなんて。
何を話そうとしているのかしら…
「今のウィウィに違和感を感じてるか?」
「え?いいえ、何も」
「そうか。なら相当な精度で完成させたんだな、フィフィにも分からねぇなんてよ」
「…またウィウィがやらかしたのかしら」
「ああ、相当なやらかし具合だぜ?」
困り顔をする神様。
「アイツ一回死んだし」
「・・・はい?」
「死んだんだよ、あっちの世界で。それも特殊な方法でな」
「ど…どういうこと?」
「【輪環生存】…闇に精通しているやつなら知っている技の一つなんだが、アイツそれを使ってるんだ。それも無意識で」
「…それは一体?」
「超高速の輪廻転生。それも別世界線を経由するとんでもない技。記憶や年齢などをそのままに、ダメージを消し去り力だけを膨大にして復活する。不死鳥のごとく、というか強くなってる点からすれば不死鳥以上に厄介な技術なんだよ」
「なっ…」
驚いた。この世界にとどまっているならまだしも、ほかの世界に一歩足を踏み入れて、あまつさえマナの回収をしてくるなんて。
「それって…その世界は大丈夫なのかしら?」
「その点に関しちゃ安心しろ。経由されたのは今俺がいる世界。奪われたマナなんてこの上位世界にとってはごく少量だし、それに対するバランス処理はもう済ませてる。無限の概念から引っ張り出せたから、まだ許してやるさ」
「め…めちゃくちゃな話ね…」
頭が痛い。ウィウィの破天荒さもそうだけど、この神様の考えも、その元となる力も、全くわけがわからないわ。
片手で頭を抑えながら考える私に、神様はまだ言葉を連ねていく。
「それより、問題は当人の体だ。俺が今太陽の具現者として再度概念構築を行ったのはいいんだが、それに使ったのはあくまでも【光】一つ。奪っていった中にあるマナがどんなものだったか俺ぁ知らん。もしもウィウィが元々持っていたトリガー役の【闇】が、それとの相性最悪なコンビネーションをぶっ飛ばしていったら俺は困惑する」
「えっと…この世界のマナがウィウィの【闇】の暴走を引き起こしかねないの?」
「そうそう。ここに漂うのは【■】のマナ、俺の神格につながるポイントの一つ。何にでもなれるし、何にも代えられない。だからこその■■なんだけどな」
「■■■さん、怒られてる怒られてる」
「おっとすまねぇ▲▲▲。さて、これ以上はごまかして話すこともできなさそうだ。最後の話に入るぜ」
「え、ええ」
覚悟しないと。姿勢を正す。
「今から話すことは、この世界のもう一つの輪廻について、だ。【輪環生存】はその派生にあるからしっかり覚えておけ」
「…覚える理由は?」
「二つある。【闇】…いや、【深遠】に近いほどの力を、今のお前は扱うことができるだろうが…その世界的限度っていうのを理解しておいてほしいってことが一つ。あとは…」
「ウィウィを怒ることができるのが、お前くらいだ、って感じかね」
「・・・?」
「ま、信頼しておくよ。【月の具現者】。そんじゃいくぜ」
―――――――――――――――
~現在、ウィウィ視点~
「―――」
「…んー」
…神様からなにを聞いたんだろう。少しの無言が、なびく風に消えていく。
そして、フィフィが目を開けた。
「―――『輪廻というのは、一つの世界の中に限ったことじゃねぇ。マナは一定の位置に溜まり続けると歪み始める。そして魂もまた、歪みを生み出す条件になる。老化はその歪みを体に受け続ける結果だが、老化しない個体もマナが停滞していないわけじゃねぇ、魂を世界に廻し続けているだけだ』、神様はそう言ってくれたの」
「ふーん」
…さっきの空白は、会話の内容を一字一句思い出しただけかー。
「続けるわね。『そして、生の循環と違い、死の循環は誰かの魂を糧にスタートするループだ。ループの後ろに居れば居るほど力を得られるが、その頂点はいつか崩壊し、最下層へとまた戻る。これだけ聞けば食物連鎖と近いなと思うかもしれんが…』」
「『ウィウィの死は、頂点じゃないんだ』」
ありがとうございました。
ホント申し訳ない。お待たせしました…!