第13話 「…ふぅ、一応宣言をお願いするぜ」
■■■「いやー、ホント勘弁してくれ。想定外の処理は俺のニガテ分野なんだ」
▲▲▲「そういっている割には先が見えているみたいだけどね…」
辺りを見渡すと、黒い水晶の板のようなものが張り巡らされている。
一部のものは出っ張っていて、さらにその一部のものは光っている。何かを映し出しているようね。
ここは…現実にはない謎の文明が存在するのかしら?
そう考える私の前には、これまた見覚えのない恰好をした男が。
先ほどの自己紹介で一番聞きたいところがなぜか聞き取れなかったのよね。これでも神様なのよ。
…正直信じがたいけど。もっと神聖なものかと思ったわ。
「「・・・?」」
「…?」
先ほど、聞き覚えのある声で聞き覚えのない名前を出してくれた神様。どうやら本人はキチンと自己紹介をした様子。
まあ声だけでも、ちょっと前にモノと起こした想像実験の時に来た神様だってことはわかるけど。名称が分からないのはちょっと困るわね。
「あのー…聞き取れなかったんだけど…」
「んあ?■■■だっての…」
「…何か、その名前の部分だけ聞き取れないのよね」
「…マジか。もしかしてコードに引っかかったか?」
少し頭に手を当てて考える■■■。
…とりあえず名称はこれでいいかしら。喋れないけど。
「っち、おーい▲▲▲、データ処理の確認を頼む!世界干渉の度合いをチェックしときたい!」
「はーい!ちょっとまっててー!」
▲▲▲?また新しい人の名前ね。
相変わらず喋れないけど。苦労するわ。
「…えっと、何て呼べばいい?」
「あー…そうか。とりあえずこの場では神様とだけ呼んどけ。それと、こっちが関係あるのはウィウィだけだからな。フィフィは本来対象外なんだよな…逆によく来れたよホント」
「そ、そうなの…」
私が関係ないことといえば、ウィウィにしかないもの…紅き眼を持つ者のこと。確かにこの神様は、右目が赤いけど。
「んあ、この目か?」
…考えていることを読まれた!?
「いや、読むつもりで見ていたわけじゃないが。お前の思考の本質が、偶然見えただけだ。そうだな、俺がウィウィと関係しているのは紅き眼を持つ者のことだ。さてウィウィ、お前の状態はいろいろチェックしてたわけだが」
「…?」
「いやなんだその表情」
理解していないかのように首をカクンと曲げたウィウィに対し、ガクンと肩を落とす神様。
「はぁ…ったくよ。【コピー・アイズ】!こいつの姿を見りゃ思い出すこたぁあるだろ!」
首を振って気合を入れなおしたのか、何かを呼ぶ神様。
すると、何の音もなく神様の背後に謎のロボットが出現した。
「あー!お前、アイズだな!」
ウィウィは知っているようね。
『エエ、ソウデスガ…ますたー、セツメイヲオ願イシマス』
「お、おう…まあ、大雑把に言えばの話になるがよ。最初はアイズ経由でお前の様子を見ていたんだ…まあ途中からお前らの存在が濃くなりすぎて、姿を目視しやすくなっちまったがな」
相変わらず首をコテンと傾けているウィウィに対し、もうあきらめたのかただ言葉を紡ぐ神様。
『チカラノ成長ハ関心シマスガ…コレハ恐ロシイ域デスヨ?』
「だーかーらー。言ったろ?初代赤眼は伊達じゃねぇんだよ」
「初代…赤眼?」
「おう。こいつが持つ【情熱】の熱さ。それが熱そのものへと変化したのがウィウィなんだよ」
「へぇ…因みに私は、なんでここに来たのかしら?」
「んー…これがようわからんとですよ」
「…どういうこと?」
「デフォルトスタイル上ここには存在し得ないんだが…考えてみりゃ大元はあっちか。ならこっちに影響を及ぼすキー自体は持ってんだな…」
すこし独り言をする神様。何を言っているのやら。
「っと、そうじゃねぇ。フィフィ」
「はい」
「よく月の意志を引き継ぐ覚悟を得たな。しかも、ウィウィと同時期に。ウィウィも、太陽の意志をよくぞ引き継ぐ覚悟をしてくれたもんだ」
「…ああ、あの力?」
ウィウィが挙げたあの力とは…おそらく自分の光の力ね。それを太陽と見た。
私は…それに対なる、月。あの闇の力は、確かに月の光だった。
「年齢的には若すぎるかもしれんが、お前らの覚悟は十分世界に通用すると俺は思っている。そのためのキーの一つ、赤眼の力。これは俺の意志を引き継がせるためにあるんだが…今回の赤眼持ちのウィウィには【情熱】を与えてある。それはウィウィにとっちゃ十分理解していることだろ?」
「うん。みんなとも十分話したもん」
「そしてフィフィ。お前には赤眼の力を付与することはできない。それは与えるための条件がそろっていないからだ…」
「ええ」
「だが、あの世界の神としてなら。力を与えることはできる。そこで頼み事がある―――
―――あの世界における力の統治を、お前ら二人に任せたい。太陽と月の、神としてな」
その神様の言葉に、ウィウィの顔を見る私。
ウィウィもこちらを見ていた。
「まず第一に、俺はあそこで行動する権限はそこまでない。創造神として及ぼせる影響なんて、案外薄いもんだ。既に権限を幾らか他に移してあるんでな。だが、あの世界には今神様って存在自体いないんだよ」
「それは…何となく分かるわ。統治ができていない場所があるもの」
「ああ、壊世大陸か。あそこは何も管理できてねぇ上、いつ完成したかの記録すらないからな…よく分かんねぇ」
「神様でもよくわからないんだ…でもそれなら、神様が権限を奪い返して統治すればいいんじゃない?」
「そいつはできねぇ。勿論剥奪可能な権限はあるが、このままじゃ今現在もっとも重要な、光アンド闇のバランスっつーのが取れねぇんだよな。どっちも宿すなんて芸当はできないし、じゃあということで光か闇のみの統治をしようっつってもそれは不可能だ。そもそも俺はそっちには干渉できないから、光も闇もないんだよ」
神様の言葉に、世界創生の昔話を思い出すウィウィとフィフィ。
「光か闇のいずれかだけがある場所。それは全てが照らされるか呑み込まれるかだけの世界…何もかも塗りつぶされ、幸も不幸もなくなる。だからこそ区別が必要なんだ…それがお前らに直観的に伝われば、あとは世界が何とかしてくれる。お前らには、その礎としての力を宿してほしい」
「私たちに…ね。ほかの人じゃダメなの?」
その質問に、神様は首を振った。
「生憎そいつは不可能だ。さっきも言ったが、俺は赤眼としての力の行使はウィウィにしか行えないし、神としての力の行使はそもそも超絶強いゴッドフィールドの展開から始めんとダメなんだ。あまり世界に強力な干渉を起こしたくはない、というかはっきり言って無茶すると世界が崩壊する。ンなこた普通望まんだろ?」
その言葉に私たちは頷いた。
「で、ウィウィ基準に何かを発動させて、それを礎に、適している奴とつり合わせて力の付与をする予定だった…んだが、俺が呼ぶより前にお前らが来た。正直言ってこいつはかなり好都合なんだよ」
「あー、なるほど」
「ふむ…」
どうやら元々、ウィウィは神様になる予定だったってことみたい。でも私たちが二人でここに来ちゃったから、想定外な事態に神様は少し困惑しているって感じなのかしら。ただこの場は好都合だから、今のうちに利用したいと。
「なら、早いところこの相談は受けましょう」
「フィフィ?」
「ウィウィ。あなたの場合、いつか来る未来だったの。それが私を含めることで多少楽にはなると思うのよ。なにせ…私は、あなたの対になる存在だから」
「…わかった。神様、お願い」
「おう…ちょっと待ってな。▲▲▲?」
「何とか間に合ったよ。ボクたちの存在はまだ●●●●●の世界線には伝えちゃいけないんだって。あっちから来ちゃったからまだ許されてるけど、世界からの干渉能力でボクたちの名前は特殊記号に強制変換されて、聞こえないんだってさ」
「おうふ…マジか。道理で通じねぇわけだ。ならいい、これ以上ほかの世界の奴ら怒らせたくねぇし。ちゃっちゃと始めようか」
そういうと、神様は手を交差させてから丸を書いて手を逆に交差させたり、それを大きくしたりしたよくわからない動きを起こして。
「…ふぅ、一応宣言をお願いするぜ。ウィウィ、フィフィ」
そう私たちに告げた。
私たちは互いを見合わせ、頷き、そして宣言した。
「炎の具現者、ウィウィ・リベルクロスと」
「水の具現者、フィフィ・リベルクロスの二名が宣する」
「俺たちは、神の意志の元に」
「新たなる、膨大たる力の礎となることを誓う」
「宿す力の名を変え、今ここに【太陽の具現者】と!」
「【月の具現者】の存在を示さん!」
―――――――――――――――
~第三者視点~
「…そう宣言した後、私たちは互いに互いの属性に…光と闇に包まれて居なくなった。意識を保ったまま外に出されて、早速の会話がさっきみんなが聞いたものよ」
「ということは…闇の力の権限が神によって移され、強すぎる力を制御できなくなった姿があのピエロっつーわけか」
「ヴィヴィの存在は神様から見えていたのかな?」
『流石に見えているでしょう…一体どう見えていたのかは知らないけど。でも、神の器としての力はなかったってことかしら』
「…とにかく主様。状況は終了しました」
「ぐっ…そうか。我が知らぬところで話はついた、ということか。良い。ヴィヴィは元々、闇の力に執心的だった。精神に異常をきたすほどに。それがこの状態になった以上、今まで通りには実験は不可能だろう」
「…闇の力、というより今の私だと月の力ね。この権限としての力自体は今までのヴィヴィのそれと変わらないほど強いはず。むしろこちらの方が恐ろしく力があふれるはずだけど…欲しがる?」
「否。今は自らを癒すときよ。闇のマナを作り出す技術自体は既に完成済み。よって時間こそかかれど、我が望む姿は得られるはずだ」
「主様…」
「…ここでの行動は終わったみたいだし…そろそろ俺たちも離れようか。堕天使は…どうする?」
「炎の…いえ、太陽の具現者。私はここに残っていいかしら。主様がこの状態だし、支えの一つや二つあった方がいいでしょう?」
「ほかにも堕天使さんの仲間はいるんじゃない?」
「その者が帰ってくることは、今は有り得ん…この世界は広い。広大すぎるこの世界をくまなく探索することは困難だろう。まだ調べ切っていないものがあるため、そちらへ向かわせている者がほとんどで…この堕天使はそれとは別で動かしている存在だからな。助かるぞ」
「光栄です」
「それじゃ行こっか」
『ええ…っと、そうだ』
歩き出そうとするウィウィに合わせようとするウィリーだったが、何かを思い出して後ろを振り返った。
『堕天使さん!』
「ウィリー?」
『あなたの呼び名の話!さっきの話を聞いて、いろいろ考えてたのよ!』
「えっ?……ああ!」
突然の話に少し驚いていた堕天使だったが、いつかの動く床での話のことだとすぐに思い出した。
『あなた特別な存在みたいだし、堕天使を表す言葉をもじって…【ルシ】ってどうかしら?』
「ルシ?いいわね。次来るときに、それで呼んでほしいわ」
ルシは嬉しそうだ。
「簡単に名前を付けてくれるな、魔鼠よ。我の管理から離れやすくなるではないか」
『あら。ルシは、それがあり得る子かしら?』
「主様!名前を得たのは事実ですが、それでも私の忠誠は変わりません!」
その言葉を聞き、笑う主。
「…だろうな。良い。その名、我も使わせてもらおう。いつかまた会うときに、この監獄がより強大な地になっているのを楽しみにしておくと良いぞ。その名と共に、この地を覚えておくと良い」
「わかった!っと、そうだ。主サマに聞きたいことがあったんだった」
「ふむ?」
「(ゴニョゴニョゴニョ…)」
「ふむ……うむ。(ゴニョゴニョ)」
「ふむふむ……あっと、あとは…(ゴニョゴニョー)」
「ほう。なら……(ゴニョゴニョン)」
「…うん、ありがとう!それじゃ、主サマも、ルシも、またね!」
「うむ!」「さようなら!」
こうして、ウィウィ達は壊世大陸においての堕天使の依頼を無事達成し、力をつけなおして外へと向かうのだった。
「…あれ、これ上にどうやって帰ればいいんだっけ」
「…そういえば僕たち、床壊して突撃したんだった…」
…訂正。まだ外へは向かえないようだ。
ありがとうございました。
…どうやったら元の位置に戻れるんだろう。分からん。
今回はかなり長かったけど、まだこの章は終わらんぞい。
追記※壊世大陸についてを追記しました