第8話 「だから、私は貴方を敵とみなす」
ウィウィ「…そろそろかな」
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フィフィ「…」
~ウィウィ視点~
『んー…じゃあヴィヴィは?』
「ヴィヴィはこの世界の主だし、あり得そうだよね」
確かにヴィヴィなら、こっちとも敵対している。
こちらを攻撃する可能性は高い。
「…『でも土の力、使うの?』」
「もしかしたら使う。でも…考えてみたら、この世界のことを知っていないみたいなんだよね。あの言動」
『会話はしたことがあるのね』
「お話が成り立つことは無かったけどね。とにかく、この精神世界を知らないってことは、この世界に干渉して技を放つ可能性は限りなく少ないってことがあると思うんだ」
「…『へー』」
フィフィの元へと走っていく俺たち。
話し合いながら向かっていく最中、俺は少しずついやな予感を感じていた。
「…『…じゃあ、フィフィ?』」
「・・・分からない。でも、俺はそう思ってる」
『えっ…フィフィが…?いやでもそうよね。考えてみれば、消去法に加えて今のこの環境…』
「そう。俺たちに一番攻撃が可能なのは、フィフィなんだ」
何がフィフィにあったのか。
それも考えながら、この結論を話す。
「いくつか理由があるんだけど…第一に、この世界に取り込まれた存在の一人ってこと」
『私たちと同じタイミングに取り込まれたとはいえ、私たちと違ってここでも自力で動けるくらいの力があるわよね、あの子には』
具現者であるってことは、世界を自由に動けるということ。
それは十分な利点だけど、ここにおいてはそれが欠点になりかねない。
「そう。だからこの世界にいる俺たちに攻撃が出来る可能性はある。これは明らかなことだけどね。第二に、戦闘をしている最中だってこと。飛んできた方向もフィフィ側からだったし」
「…『敵と間違っちゃったとか?』」
「そう簡単だったらいいんだけど…さ。俺がフィフィを怪しんでいる最後の理由が…―――
―――フィフィは、闇の適正があるってこと」
そう。ここは闇の世界。ありとあらゆる場所に、闇がある。
フィフィは適正がある存在…つまり、闇が干渉しやすい存在ということになる。
闇は対象に破壊衝動をもたらしたり、あと色々。悪人とかはこれに近い、ってフェイアン言ってたっけ。
『…まさか、世界の持つ闇に侵されて?』
「実際、フィフィは世界を経由して水を作ったりするよね。ってことはもしかしたら、その世界側が何かをして、フィフィの意思以外の力を付与した可能性があるし…そうでなくてもフィフィが闇に侵されて、殺意を持つ可能性は十分に高くなる」
「…!『フィフィ、怖くなっちゃってるの?』」
「大雑把に言っちゃえばそんな感じ…正直、急いだほうがいいかも。念のために試したいことがあるんだけどさ、今ならフィフィの方向が分かるんだ。その方向に向かって炎を投げてみる。冷静なフィフィなら、この炎で誰かくらいは分かる速度で飛ばすよ」
『マナがない炎なら、フィフィもウィウィが来ているって分かるはずよね。伝書鳩ならぬ伝書炎…今この状態を考えるなら、いい案かも』
「じゃあ行くよ!炎よ!ていっ!!」
世界に接続して、炎を具現。それを手にとって、フィフィのいる方角へブン投げる!
「よーし、これならいいかな?」
『精度とか大丈夫なのかしら…』
「大丈夫でしょ。とりあえず急ごう!」
そこからは俺も方向指示を出して、フィフィの元へと飛んでいく。あれから結晶は飛んでこないから、何かあっちにあったのかもしれない。
そう考えながら飛び続けて、しばらくすると。
「…っと。消されたね」
『フィフィに?』
「うん。何かに包まれて消されていたし、多分フィフィの水じゃないかな」
炎を自分の感覚と繋げて確認していたんだけど、どうやら接続が切れたみたいだ。
「何かを燃やす感覚はあったから、ギリギリ避けたんじゃない?その後に消されてたよ」
『へぇー…もしかして、フィフィも目がみえていないとか?』
「え?」
『最初に言ってたことよ。この世界は精神体でない限り、マナでしか物が見えないのよね?』
「そうみたいだね。…ってことは、そっか」
「…『フィフィ、マナ使えばいいのに』」
「使えないならそれはそれで困るけどね…」
マナが使えない…というより、フィフィも目が見えないと仮定するなら、フィフィはこの世界に接続し続けなければ戦えないはず。具現者としての身体能力は抑え目だから、そのままでは実力不足になるはずだし。
でも闇の世界と繋がり続けていたら、闇の侵食はより深刻になると思う。もし、フィフィがそれを認識できないまま、ずっとつながっていたとしたら…
…考えるのはやめよう。そろそろフィフィが見えてくるはず。
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フィフィの気配が、確実に近くにある。
辺りが闇で満たされていても、感じ取れるほどの気配。
「…『近いね』」
『ええ』
その言葉を聞いて、改めて集中する。
「…見えた」
フィフィの姿が見える。戦闘直後なのか、肩で息をしている。
右手は手首辺りからまっすぐに伸びた氷の剣で包まれていて、カラダには薄い氷のプレートアーマー。近接戦闘なんて出来たんだな、とちょっと思った。
辺りには何もないけど、おそらく闇の意志か何かを斬ったんだろうなと感じるほど、周囲には闇のマナが舞っている。
「フィフィ!」
「…」
『…これは』
声をかける。でも反応はない。
今度はちょっと近づいて。
「おーい、フィ
『ウィウィ!離れてっ!!』
…っ!?」
フォン、と。
一瞬で後ろにステップした俺の目の前を、氷の剣が掠めていった。
「…予想的中?」
『ええ。正直、こんなのフィフィじゃないわ』
ウィリーの視線の先には、独特な構えをとるフィフィが。
爪先立ちで、時折片足が浮いた状態。右手の剣は顔の横に、左手は伸ばした状態で、両方の手先がこちらを向いている。
ふらふらゆらゆらとした動きは、どこか【流】を司る水に似ていた。
「…?『え、何が起こってるの?』」
『ティティは私の方へ。ウィウィ、すまないけどお相手しておいてもらえる?』
「わかったよ」
声は、聞こえていないみたいだ。
さっきまでの会話は、一つくらい聞こえていて良いはずなのに。
『フィフィの鎧とか剣とか、色が水のそれと違うの。マナ経由で見ているからかもしれないけど…ウィウィ、注意してね』
「はーい…なるほど、闇の力が混ざっているんだ」
ウィウィに言われて改めてフィフィを見ると…剣や鎧自体は透き通った綺麗な氷でできているけど、そこから感じるマナは、その装備がそれだけじゃないことを示唆していた。
「そういえば、前はフィフィが俺を止めてくれたっけ」
「…ふぅ」
「闇の意志があの精神世界で目覚めたとき、一番に止めるよう行動してくれたのはフィフィだったよ」
「…やれやれ、本当どうにかなりそう。さっきから連戦続きなのよ」
「あの時もそうだったっけ…ああいや違うか。あの時は精霊さんと一戦交えた直後か」
「何で止まってくれているのかは知らないけど、生憎とこちらは貴方とは会話できないわよ?」
「…やさしいなぁ、フィフィ。何も聞こえないはずなのにさ」
フィフィから感じるマナは、一番多いのが水、次点で風。
どちらもフィフィが持つマナだ。それに加えて…
「…貴方が誰だかは知らないし、分からないの」
「…フィフィ」
「でも、貴方は私の前に出てきた。だから、私は貴方を敵とみなす」
「…もう、ある程度は染まってるんだね。なら遠慮はしないよ」
水のように透き通っていた瞳は、曇り、濁っていて。
その瞳から、確かな闇を感じた。
…なら、話は簡単だよね。
フィフィを取り戻すための方法なんてさ。
「壁になるならお相手するわ。この月の闇の、【真理】の上で」
「それじゃあそこから助けてあげよっか。この太陽の光の、【真理】の下でね」
ありがとうございました。
どうなることやら。