第32話 …and Everything is Ending ―始壊―
収束は突然に。
交じり合い、砕け合い、そして散る。
跡形もなかったかのように、ただそこに空白を残す。
小隊突撃という形で、ほかの人たちより一足先に先へ進むウィウィ、フィフィ、ウィリー、ティティ。
少しずつ重みを増していく空気に反し、彼らは気楽に会話をしていた。
「それにしてもなんで鼓膜を破る速度で…いや、私にもわかるけど」
「音速超えるのは想定外だったんだって」
『想定外で音速超えないでほしいわ…』
「ミー…」
「っと、そういえばほかの人たちはどのくらいで耳治りそう?」
「んー、そうね…さすがにこの階層の下に着くくらいには治りそう」
『なら皆と一緒に親玉さんとご対面できる、ってわけ?』
「それだといいんだけど…」
―――gqt<aexgmks@m!
『っ!?』
「ミャ?!」
「おっと?」
「…居たね」
突如、轟っ、という音さえ感じる威圧感が、下から放たれた。
暢気に話し合いをして、時間が経ちすぎたせいなのだろうか。泡が降りていく先から感じる謎の威圧は、ウィウィたちを待っていたかのように感じられた。
「あれは…」
「…ちょっと話し合いが長すぎたかな?」
『行くなら行きましょう。対策は早いに越したことはないわ』
「ミー…『どうするの?』」
「ふむ…」
フィフィが後ろを振り返ると、泡の中にいるモノが、真剣な顔でこちらを見ている。
手と口の動きから「行ってきてください」と言っているようだ。フィフィは前を向いた。
「…降りましょう。全員で固まって動いたほうがいい環境、ではないはず」
―――――――――――――――
「…あ、床だ」
『結界も張られているわね。フィフィ、あれお願いできる?』
「分かったわ…水よ―――」
ある程度進むと、この筒状のエリアの一番下へたどり着いた。
乱雑な岩石と鉄骨で囲われていた先ほどの空間とは少し違い、白い壁と丁寧な穴がところどころに開いている。そしてここにも予想通り、時空の結界が張られていた。フィフィがそれに入るための泡を展開し、ゆっくりと降りていくことに。
そうして、結界を超え、地面に足を付けることができた4人。
正面には装飾まで掘られた洞窟が。
「…あの威圧感の主は、あの先よね」
「だと思う。待ってる方がいいかな?」
『きっとね。あとあの堕天使さんの話も聞かなきゃだし』
「ミャ、『ここのひとだったんだよね?』」
「話を聞く限りだとね。さて、安全も確保できたし、あの人たちの泡の速度を上げてっと…」
とりあえずは、上から降りてくるモノたちを待つことにしたウィウィたちであった。
「それにしてもこの結界、変わった感じがするんだよね」
「どういうこと?」
『ちょっと見せて………あら、文字があんまり書かれていないわ』
「ミャ?『結構書かれてない?』」
ウィウィたちが見ているのは、降り立った地面の魔法陣。確かに文字は、先ほどの移動床と同じ大きさであるこの床のふちに、二重の円を描くかのごとくびっしりと書かれている。が、ウィリーに言わせればこれは少ない方らしい。
『時空魔法自体、魔法の中でもかなりシビアなのよ。世界の理に、グレーゾーンから潜入するようなものだし。とてつもなく不安定だから、本来なら事象をより確定化させるためにもっと文字が多くてもおかしくないの。五重くらいは想定していいわ』
「うへー、描きたくないよそんな魔法陣」
想像して、ものすごく嫌そうな顔をするウィウィ。
「…んー、じゃあこの魔法陣不安定なの?」
『それがそうでもないの。マナが乱れている感じが殆どなくて。奇跡とでも言いたいけど、私は少し違うと思うのよねぇ…待っている間、皆でここの文字をチェックするのはどうかしら?』
「暇つぶしにはなりそう。ウィウィ、簡易結界を」
「はいはーいっと。炎よ!」
ウィウィが手から炎の線を出す。そして床に大きな円を描いた。
「この中にいれば、入った時点で俺が分かるから。明かりにもなるし、これしばらくつけてるよ」
「じゃ、任せたわ」
そうして、ウィウィの円の中で文字を確認する一行。
「…んー、何だかところどころ文字が分からないや」
『あら、珍しいわね、こんな文字使うなんて』
ウィウィとウィリーが先の文を読み、
「これは…古代魔法?にしてはおかしいわね」
「ミー、『変わったマナ!』」
フィフィとティティがそのあとに続く。
「んー、神様とか、具現者の力とか?」
「まさかそんなはず…と、言い切れないのよね。この文字」
具現者二人が文字の意味をイメージして、
『どれどれ?【9Zzkatos2qzkgyb4…】』
「ミー、『【2qzktqai0:wur】…ちからをわけた!」
『ごめんティティ。私分からないわ、話がつながらない』
知性ある獣二人がそれを言葉へと戻していく。
「んー…【tnkard@sckxq@/i】…この内容、どうなってるんだろ。ヤバイものが見つかりそうだけど」
「ミャ!『きっとわかる!』」
本能を知る二人が違和感を感じ取りながら…
『【bkait5lzhmkqa9】』
「【tnkatoikc@nmzmkqa】・・・」
知能を知る二人が読み進めて。
『【3.fqq@60lkna】』
ウィリーも、
「『【jqffwuglc4kna】』」
ティティも、
「【er@;w@mugc4c@4kna】」
フィフィも。
その一つ一つの重みを感じていた。
「【kc@jf@kc@/】」
そうしてウィウィが、
「【kc@nwju^@】」
最後に残されたその文字を。
「【cfiy:@yk】」
ゆっくりと読み解いていく。
「・・・【dylul】」
声は、その場に響いた。
返してくるのは、大理石の壁のみ。
僅かな違和感を元に、ウィウィが魔法陣から目を上げると。
「・・・皆、は?」
そこにはウィウィ以外の、姿はなかった。
―――――――――――――――
~ウィウィ視点~
「…え?なんで?」
おかしい。あの炎のセンサーに、何も引っかからないなんて。
物音なし、マナ変化なし、おまけにあの簡易結界に一回も入られた形跡がない。
―――不味いな。
「だね。特に、ここだとフィフィが一番危ない」
―――ウィリーにフィフィもだが、あの具現者の持つ力が一番あぶねぇな。確実に攫われてるだろうからよ、敵方に力を使われる可能性が非常に高い。残り二人は今は無視していい。
「3人とも大切な仲間だよ。無視なんてできない。でも、誰にも気づかれずに攫うことができる時点で相手はこちらより強者。こっちだけじゃ適わないかな」
―――そろそろ上から仲間が戻ってくる。どうする?
「決まってる。話をしよう」
…しかし、そこには確かに、
「空白」の二文字が写された。
ならばこそ、それよりまた還ろう。
砕け散り崩壊する時間が、今ここで始まる。
ありがとうございました。
これでこの章はおわりです。想定以上に長くなってしまったのは申し訳ない。
この章書いてる期間、めちゃくちゃ忙しかったんです。
それじゃあ次の章で。
追記※この文章と、後半の解読に一部修正を入れました。




