第27話 Penetrate to Darkness ―潜闇―
深い深い、闇の中へ進むというのなら。
『それ』が見えなければ、ただ溺れるだけだ。
「ここは、先ほどの元人間とかを運んだり、そもそもの素材にあたる人間や魔物を運んで、あの人の下に届けたりさっきの独房に入れたりする場所ね」
「…先ほどまでとは違い、ここからは普通の人間も出てくるということかのう?」
「そうね。とはいっても精神系に深く関わる実験だから、まず手荒には扱わないわ…多分」
「それは良かっt…ん、多分?」
「今の実態がどうなってるかなんて知らないわよ。もしかしたら前に比べて闇がより深く侵食してるかもしれないし…」
『まあ、きっと大丈夫でしょう。ぱっと見た限り、そもそもの数が少ないようですし』
と話すツェルの後ろで。
「・・・、離し・・・!い・・・!!」
「・・さ・!おと・・・こち・・・・!」
なんだか今にもどこかに連れてかれそうな、子供がいる。
監視官らしき者が持つ、異様な形にゆがんだ手によって腕を掴まれて、逃げることもままならないようだ。
「…ツェル?」
『私が悪いんですか!?』
驚くツェル。その隣で、先ほどの子供が連れて行かれるであろう扉の先を、じっと見るウィウィがいた。
「フラグってあるよねー」
「ウィウィ?あなたのことだから助けに行くのかと思ったけど…」
「ううん?もう助けたよ?」
「え?」
―――――――――――――――
~監視官視点~
「あの方が呼んでいるぞ。さっさと出てこないか」
「やだ!ここ怖いもん!もう変なところ行きたくない!」
俺が番号1758の部屋の中に入ると、そこには金髪の、拘束衣を付けたガキが一人怯えていた。
左腕を檻に絡ませて、右腕で自分の体を抱えて縮こまっている。
「あの方から直々の招集だぞ?光栄に思え!」
「なんでさ!いやだよう!」
くそ、このガキ…あの方が呼んでるってのに行きたがらねぇだと?
何でだ!直々の招集命令が下っているなんて光栄なはずなんだ。
あの方が呼んでいるんだ。あの方についていくのが普通だろう!
「もういい!俺じきじきに連れて行ってやる!」
ガキの胸倉と腕を掴む。僅かとはいえ、闇の力を宿した俺の腕は、魔物の腕のように分厚い毛皮と筋肉を手にしている。強化魔法まではかませねぇが…それでも子供の腕ひとつくらいなら余裕で引きちぎれるだろう。
「やめて、離してよう!痛いい!!」
「うるさい!おとなしくこちらに来い!」
僅かにブチブチと繊維のちぎれる音がする。と同時に、ガキの二の腕辺りから血が勢いよく噴出してきた。怪我をさせるのは素材的によろしくねぇが…あの方ならば闇の力で治せるだろう。
しかしなんでこんなに鉄格子と腕を絡ませてるんだ、そこまでしてあの方がいやなのか!?
「ちぃ…大人しく…!」
…ん?ガキがこちらを見て驚いてる?
いったい何が…と思って俺も後ろを見た。
簡単な話だった。
独房のドアが吹っ飛んできていた。
「・・・は?」
―――――――――――――――
~第三者視点~
―――ドッゴォォォォン!!
「うわぁ!?」
「え?!」
それは突然だった。
先ほどの子供の声のした部屋から、オレンジ色の爆風と爆音、それに鉄製の扉が飛び出したのだ。
同時に腕が魔物のような見た目をした、監視官らしき存在も吹き飛んできていた。気絶しているようで、ぽかんと口を開け、白目で空を舞っている。
同時に飛んできた金髪の子供はその監視官に腕を掴まれ、血が吹き出てきているが…痛みを感じる前に驚きが生じているようで、手で出血を抑えようともせず、ただ口をあけていた。
こんなことをやるのは、こんなことをやれるのは一人しかいない。
「おっ、起動したかn」
「ウィウィィィィ!!!」
「ちょっ待っのわああぁぁぁぁばばばばば!!」
怒り狂った声を発しつつ、フィフィが元凶を水龍で呑み込んでいく。
「…あんのバカ…!」
『…えっと、そのフィフィの動きでやっとわかったのだけど。あの爆発はウィウィよね?』
「そうに決まってる…少しは落ち着いたと思ったら…助けるために扉の奥で爆発をさせるなんて。直接あの監視官を狙わなかっただけマシなのかしら…?」
ウィウィを呑み込んだ水龍は、そのまま吹っ飛んできた子供の下へ向かい、水の球となる。
子供が水のクッションに驚きつつ飛び込んだ横で、同時に落ちた監視官の場所だけ器用に穴が開いて、地面と勢いよく衝突していく。その衝撃で、床から謎のエラー音が出ていた。
そんな一連の流れの後、先に泳いでいたウィウィもまた、水の中から顔を出した。
「ぷはぁっ…よかったよ、水出してくれて。勢い強すぎるけどさー」
「どういたしまして。こうすることを最初から理解してたってこと?」
「そうだとは信じてたよ?」
「そう。これも計算の内なのね」
「それはそうとそろそろ出ていい?俺寒いのはダメだからさ」
大の苦手な水の中にいるというのに、ウィウィはそんなに苦しそうな顔をしていない。自分の予測した形での結末が、正しく拾えたからだろうか。
「…少しは節度を持った行動にしなさい。死んじゃっても知らないから…って言ってもウィウィのことだから何しても生きてそうね」
「ウィウィよ。人は吹っ飛ばされると死ぬんじゃぞ?」
「んー…それなら仕方ないかな」
『…それでいいんですか』
「ミー…『基準はナカマ?』」
「かな。僕も似ているしね」
「おーい、それはそうとここからだしてよー」
「少しはその水に浸かって反省してくださーい」
「えええ!?」
ここまで言われてやっと青い顔になったウィウィだった。
―――――――――――――――
どうやらここの床はかなり頑丈らしく、大の大人+αが思いっきりぶつかってもエラーひとつで済ませられていた。
もうとっくに動き出してしばらく経ったころ、ウィウィはやっと冷水(?)地獄から開放されたのだった。先ほどの子供は疲れたのか、床に突っ伏す形で寝てしまっている。監視官は相変わらず気絶していた。
「うぅ…寒いなぁ」
『一応ここは砂漠なんですけれどね』
「…砂漠って外は暑いけど、岩とかの影って結構快適なのよ?」
『火山だったらそうはいかないけれどねぇ』
『あれ、そうでしたっけ』
「そもそも日が昇っている間くらいでしょ、暑いのって」
「ここは日が当たらぬのう…」
「ミャ!『建物のなかだもんね!』」
ゴウンゴウンと動いていく地面。かれこれかなり時間は経っているはずなのだが、今も深く下へともぐっている。
「…ねぇ、この大陸ってこんなに深かった?」
「うむ?…そうじゃな、確かにおかしい。すでに大陸の底を通り越していてもおかしくない距離じゃ」
入り口のあの扉はすでに空高く、もうウィウィの身体能力でさえ見えていない。
そもそもこの大陸は半球状。歩いてこちらの中心へきた時より時間がかかっている気さえしてきていた。いくらなんでもここまで遠いというのはおかしい話だ。
「え?そんなにこれって動いたかしら…?」
どうやらそのおかしさは堕天使にも感じ取れていたようだ。
すぐにパネルに向かい、ピポピポとパネルに触れているが…
「…おかしいわね。反応しないわ」
「それって?」
少しだけ考える堕天使。そして…
「…もしかして、侵入者扱いされてる?」
ちょっと宜しくない情報を、口に出した。
ありがとうございました。
環境ェ…