第19話 Power of Time ―流形―
力。それは時の流れと共に、増大していくもの。
その流れを見つけ、手にすることは何が為なのだろうか。
辺りは一面、地の神が守るかの如き世界。地面から抉られ作られた黄土色の嵐は、風景という風景を完全に覆い隠している。
砂に埋もれたかのような幾多もの文明の跡、それを蹂躙するかのように暴れまわる幾つもの影。
とあるものは二つの頭を持つ、橙色の竜であり。とあるものはこの大地に相応しくないヒレやエラを持つ、巨大な緑の魚らしきものであり。とあるものは牙から濃い紫色の酸らしきものを垂れ流す、黒き大蛇であり…と、様々なものがいた。
しかし、その彼らが狙うのは、その中心に立つ小さな小さな影。
「うわー」
『うわー、って!変なこと言ってる場合じゃないわ、すぐ逃げ…』
「無理そうじゃぞ?」
『…え、戦うんですかこれ』
「いいんじゃないかな?僕たちの力なら簡単だと思うよ?」
「計算途中だってのに…ティティ、とりあえずしばらくは隠れてて」
「ミュッ!『いいもん、私だってたたかえる!』」
「はいはい、行くわよ!この程度乗り越えられなかったら、中心なんていけないんだから!」
すなわち、ウィウィ達であった。
『…よし。見た目に騙されちゃ行けないわね。最初っから飛ばすわよ、【第四形態】…』
皆の中でもひときわ小さいウィリー。しかしその真の力は、皆と同じ形になった時に始まる。
『・・・【魔装神形態】ッ!!』
魔装神形態を起動し、幼き子供となったウィリーの周りに、マナによる天変地異が起き始める。火は水を食らい、水は地を呑み、地は風を覆い、風は火を纏っていく。すべては彼女の理解のなせる業だ。
全てが相反する力でありながら、それが普通であるかのような感覚を持たせる形。それこそ彼女の得意とする魔術の最終形態なのだろう。
「やはり、その才能は中々じゃのう…どれ、妾も見せてやろう!【混合光明和黑暗】…」
神龍と呼ばれる者の一人、フェイアン。闇の殻に閉じこもり続けた彼女もまた、変わる。
「【混亂】…!」
闇の神を模した体を持ちながら、その心に宿る光の魂を闇と共に操っていく。闇と光が対となるこの世界に向けた禁忌でありながら、彼女はそれを扱いきれると確信していた。何故なら、それが彼女にとっての現実だからだ。
黒と白に包まれた彼女は、龍だった頃とは違う威圧感を…いや、龍ではないからこそ扱える強大さを見せていた。
「ほんっと、凄いよね。みんなはさ。さて…【機関起動】、【形態:波動常装】…」
二人のその変わり様に、ある種の感動と少しのあきれを含ませた言葉を贈るモノ。しかし、当の本人も気づいていた。
「"c;d@#3fd@/9Zt…{start}"」
未知の言語ではない、彼女が導き出した最適解としての暗号。思考回路を言葉として表した「音」を発して、自分自身への流れとすること…それがモノにとって一番の力となり得ることを、知ったのだろう。自らもまた、超人である。生物学的にヒトであったとしても、今の自分を人ということはできないだろうが…。
しかし、それを自覚する者こそ、真に人を超えた力を手にできるということもまた、彼女は理解したのだ。
『…ふぅ。死んでなお、見て得るものがあるとは。それを知ることができて、幸福ですよ』
対なる力を手にした龍の裏に、ふらりと現れる影。従者となったツェルは、自らを自覚する。
『壊れないよう、やらせてもらいますか。【偶像憑依】…不肖ツェル、死人の身なれどなお侍!いざ参らん!』
纏うのは過去の存在、嘗てのケモノ。力、いやその根源自体を自らの体に宿す、一つ間違えれば魂のすべてを闇に呑み込まれる技。それを容易く身に憑けることができるのは、彼が幾多もの輪廻転生をした自覚を持っているからだ。
吠えていくのは、重ね、積み上げた過去の存在。幾多もの心が、魂が。彼をただ動かしていく。
「ミィ…!『フィフィにばっかり、手を使わせない!』」
4人の足元にひょいとでた、一匹の黒猫。ティティと呼ばれた彼女も変化を理解していた。
「フゥゥゥ…『氷のチカラを・・・!!』」
辺りの砂が、ゆっくりと氷へ変わっていく。フィフィの能力である直接干渉とは違い、氷を砂に纏わせるマナのチカラ。マナのチカラと自然の力、その双方には利点と欠点がある。見た目が同じでも、言葉で表すと違うその相違点を、ティティは言葉を知ることでより理解したのだ。
他の皆にだってできることでも、その真意を、本当の形を知ることができれば皆にできないことに変わることもあるのだ。
5つの力…魔術、闇術、秘術、霊術、氷術が混ざり、黄土色の霧のなかを暴れまわっていた魔獣の殆どを、文字通り吹き飛ばしていく。四属性が噛み合うマナの風が、光と闇の相反する矛盾の圧が。機械の如く繰り出される魔槍の嵐が、過去と未来を重ね得た波が。そして真の形を得た魔法の力が、自分たちの背丈と相手の目の大きさが同じであるほどの格差を、瞬く間に消していく。
それは、この世界にとっての普通を見ていた堕天使にとっては、異様な光景だった。
「あなたたち全員規格外なのね!?」
「むしろこうでもしてないと、追いついていけないんだよねっ!」
「まあ抑えるのが役目じゃからな、この程度が限度であろう」
「あなたたちの言う『普通』がわからなくなってきたわ…」
マナの刃を飛ばしながら話すモノ、僅かに満足そうなフェイアン、困惑する堕天使。それを傍から見るツェル、ウィリー、ティティ。和やかな風景のようだが、実際その外側で起きているのは天変地異もびっくりな攻撃の大嵐。なかなかな風景だった。
しかし、そうして進めるのも僅かな間。中心に向かうにつれ数は増え、一体一体に保有されているマナの量が上がり…ついにはこの波状攻撃に運よく耐える者が現れはじめていた。
『っとぉ!ティティ、そっち行ったわ!』
「ニャ!『止まれっ!』」
『ふむ…なかなか強くなってきましたね?』
「まあ、一度に攻撃できる数はどうしても限られちゃうし、斬りきれないよねー…」
いくら余裕を持っているとはいえど、それは一撃も貰っていないからこそ言えること。ウィリーやティティは魔獣であるが、強い魔獣特有のはずの筋肉や剛毛を持っていないため、潰されれば死ぬ。守るための力があるモノも、マナによる生命機関の加速があるとはいえ毒には弱い。フェイアンや堕天使は・・・まあこの地出身である以上逃げ道はあるだろうが、仲間を見捨てることはできないだろう。ツェルに至ってはフェイアンから逃げられなくなっているし。
いうなれば、こちらは火力一筋でぶっ飛ばしているような状態。ダメージを気にしている今、これ以上捨て身の行動はできず…実質手詰まりとなっていた。
しかし、この戦いの戦況をひっくり返せる存在が、ここにはいた。
世界の力の具現、流れの具現。この世を司る、二つのある存在が。
「…そろそろじゃろう、炎の!そして水の!壊世とはいえ、ここもまたおぬし等のいる世界!
宿してみせよ、世界の意思を!」
ありがとうございました。
5月病の季節?だけど案外小説は書けるもので。
普通の更新にも戻せそう。




