第18話 Earth Wall ―壊地―
歪みゆく世界、壊世大陸。
目的地は、もうすぐだ。
「んー、重力というより、引力っていった方がここだと正しいよね。それがそれぞれの地面に向かって働いてるんだ…」
ウィウィは、先ほどフェイアンを引っ張ったことについて考えているようだ。
「ふむ?大体その認識であっておるじゃろうが…それがどうした?」
「でさ、さっきフェイアンを引っ張ったとき、ちょっと変だったよね。なんで空中で止まったの?」
「その地点に引っ張ったからでは・・・む?」
フェイアンは、何かに気づいたようだ。
「はて、何故妾は潰れなかった?」
「そこなんだよね。その目の前一点にフェイアンを引き寄せるイメージを作ったんだけど、フェイアンを引き寄せる位強い力が出たのに、その力がフェイアン自身を潰すようには働いていないんだよね」
「そのマナは力として働いていない、とでも言うのじゃろうか…しかし、それ以外に引っ張った後それを固定する術は…」
『フェイアーン、そろそろ出発するわよ?』
「ウィウィ、そろそろ行きましょ?考え事は飛びながらでもできるはずよ」
「あ、はーい」「うむ」
―――――――――――――――
「ここ、広いなー」
『空を舞う分には問題はない地形じゃろう?地を歩く者はそもそもここには来ぬがな』
捻じれた大地の間を縫うように、空を飛ぶ一行。
どうやら基本の重力は一定なようで、陸からある程度離れると急にどこか一方向に引っ張られる感覚を覚える。
その重力に姿勢を合わせ、元いた場所を見ると海が水平に滝を作っていた。どうやら重力の方向は、この大陸に来る前のものと同じなようだ。
『これなら車ができないのもわかるわね』
『思い浮かばぬものは作れぬ。妾らはこの地では、車輪を利用した道具なぞ小さいものしか作らなかった』
「神様…というより龍神様だって言う割には、案外イメージ力は普通なのかな?」
『龍神ではない、神龍じゃ…まあ、そうじゃな。妾らとて生きるもの。それに、神と名づけられてこそおるがせいぜい偽の神じゃ、力を借りた者の一人でしかない』
フェイアンは少し俯く。
『この地は全てではない、それは妾らも知っておる。じゃが、それでも目に見えるものが全てだと思い込んでいる節もあった…妾はそれを嫌がり、外へと出た。それでもたまには戻るのじゃが…どうしても、何度往復しても、その感覚を除くことができなかった』
「ほえー」
『ほえーて。まあよい、お主らと出会ったのはこの時じゃ。闇嵐龍、などという大層な名前が既に妾についていたのは…おそらく妾が、よくあの大陸のあたりをふらーっと通っておるのが原因じゃろう。誰がマナを確認していたのかは知らぬが、隠せど隠せぬ量のマナは保有しておるからな』
「それで、天災クラスだと認定を受けた存在ってことになったのね」
『そこまで言われておったか…それはさておき。あの山でお主らと会ったことは喜ばしく思う。なにせ長き年月を過ぎた今、新しいことに出会えたのじゃから』
少し楽しそうにするフェイアン。
『その返しといっては何じゃが、この大陸についてもう少し詳しく話させてもらうかのう』
「それなら、私は道の確認をするわ。もう知ってることだしね」
『よろしく頼む、堕天使よ』
堕天使はその言葉を聴くと頷き、少しスピードを上げて前方に向かった。
『…さて。この大陸じゃが、見てのとおり壊れておる』
『壊れてるというより…幾つか矛盾さえ感じるほどです』
『そこが注目点じゃ。この地は、現世とは違う多くの流れが存在する』
そういうと、フェイアンは進行方向の右下を指差した。
『あそこに見えるのは何じゃ?』
「…大陸だけど、それがどうかした?」
『そうではない。あそこに見える大陸の季節…どうなっておる?』
「んー…」
ウィウィが見る限り、雨季の草原の一部を切り取ったような大陸が、そこには浮いている。
「夏?」
『ではその隣…あそこか。あれは何じゃ?』
「もちろん、近いんだから夏になる…」
と言いかけたフィフィは、そこに氷や雪が積もり積もる、生無き大地を見た。
「…と思ったけど、あれは冬ね」
『もうこの段階で分かると思うが、まずそもそも大陸ごとにルールらしきものがある。大抵はとても小さいが故、外への影響力は少ない。じゃが大きいと話が変わる』
そういうとフェイアンは、進行方向の少し下を指さす。
堕天使が飛ぶその先に、砂吹き荒れる黄色の大地が広がり始めた。
「…あの堕天使が向かうのは、おそらくあそこじゃろう。ウィウィ、正しいか?」
「そうだね。あの人がくれた記憶と合ってるっぽい」
「あそこは…なんだか暑そう」
『かといって、ウィウィの力が使えるわけでもなさそうねぇ…』
言うなれば、地と風の大陸。相反する力が一体化したこの大陸に、一行は向かっていく。
―――――――――――――――
「…あら、説明は終わり?」
砂嵐の一歩手前で止まっていた堕天使は、龍姿のフェイアンと竜姿のウィリーを見てこちらに来た。
『うむ。それではこの中へ参る…ところなのじゃが』
「ん?」
『ここは別の大陸とはいえ、魔物の類はきちんと居る。戦闘の準備はできておるか?』
「うん、だいじょうb「ちょっと待って!」…え?」
ウィウィの言葉をさえぎったのは、フィフィだった。
「まだここの、マナとかの計算が済んでないの。ウィウィ、ここの大陸のことについてちょっとだけ教えて」
「え?何で俺に…」
「具現者視点で話せるのはあなたしかいないから。計測結果の一部を教えて。特にここにある壊世特有の謎現象、というか大陸が分断されてるその原因!」
「…とはいってもなぁ」
ウィウィは、今までの飛行中の感覚を思い出す。
「みんな、ちょっとだけフィフィと話してるから、俺たちは戦闘にはしばらく参加できないかも。いい?」
『…まあいいでしょ。私たちも強くなったんだし!』
「恐るるに足らず、だよ。僕たちがせめて足止めくらいはしてることにしよう」
『とどめができるならしておくべきじゃがな』
「よーし、それじゃ突撃!」
―――――――――――――――
『・・・ねぇ、ウィウィ?』
「んー?」
砂嵐の中。黄色い砂に遮られ、太陽の光は僅かに通らぬ地。
『確かにここは新しい地よね』
「だね」
そこを探索するウィウィ達一行。彼らの目の前には、光る幾つかの玉が浮いている。
『だから、何があってもおかしくはないと思ってるわけ』
「うん」
…いや、探索していた、と言うのが正解か。黒く光る玉の内側には、決まって何かの線が…雷のような枝分かれした赤い線が入っている。
『でも…』
先に進めぬ一行の前で、それらは常に二つセットでギョロギョロと動いており・・・
いや、ここまで言えばわかるだろうか。
いくつもの巨大な眼が、こちらを見ている。
それも20を優に超える量が。
そのいずれもが、成人の身長とほぼ同等の直径を持っている。
その眼の持ち主である体もまた巨大だ。
加えて種類も豊富。翼持つ者あり、脚持つ者あり、鰓持つ者あり。牙からいかにも毒ですー、といった濃い紫色の液を溢れ出している者も居れば、カラダを守るためか謎の液体を垂れ流し続ける者まで。
陸海空、果てはそもそも現実に居るかどうかさえわからぬほどの構造もあり。いかなる地にもあり得るカラダを手にした巨大生物が数十ほど、こちらを見下ろしていた。
『…流石にこの量と大きさはおかしくない!?』
「しーらない」
ありがとうございました。
元は短かったけど、後から考えて伸ばしました(5月11日より)。




