第17話 Collapse Hole ―壊孔―
壊れた地、と名の付いた大陸、壊世大陸。
フェイアンが神龍として存在するという地に。
ウィウィを求めていた者が住むというその地に。
今、降り立つ。
夜の闇が晴れ、また日の光が差し込みだす朝。
未だに空を飛び続ける彼らの前には、今もなお青い海だけが広がっている。
ウィウィは睡眠を続け、ウィリーは移動に集中するためほとんど意識なし。といった二名を除いた一行は、フィフィの起きる声に反応してウィリーに集まった。
「ふぁ…おはよう」
『うむ。おはよう、フィフィ。そろそろ壊世大陸が見えてくるぞ』
「壊世大陸か…そういえば、僕が行ったときには自力で海を渡ってたなぁ。今更だけど、懐かしいよ」
「えっ、モノ空を飛べるの?」
「いや、僕は空を飛べないよ、ウィウィとは違うしね。僕は…」
と言ったモノは、未だに広がる静かな海を指さし。
「見てわかると思うけど、この海って波があんまりなくてさ。水の魔法を使えば簡単に足場にできるんだよ」
「…まさか、足場を作りつつ渡ったの?」
「そうそう。人間一人くらいなら海のモンスターも気づかない、って理由でね。流石に速度が遅すぎて、数日かかっちゃったけど…」
『…まさか、その間常にマナを扱い続けていたのか?』
「たまーにボートを取り出して、仮眠をとってたよ」
『そこは人間らしいですね』
『まてツェル。そもそも前提がおかしいことに気づけ』
帰りも同じことをするのはきつかったなぁ、とモノが愚痴をこぼしたところで。
先にそれに気づいたのは、フィフィだった。
「…ねえ、フェイアン」
『なんじゃ?』
「あそこに見えるのは何?」
フィフィが指さす先。そこにあったのは不思議な光景。
青い海が、途切れていた。
いや、捻じれていた、というべきか。
海の一部が抉れ、捻じれて空に向かっている。
『おお、やっとたどり着いたか』
「長かったなぁ」
その先に付いているのは、僅かな緑色をした大地。
そこからも水、いや海が飛び出している。
「ちょっと、説明を…って、もしかして」
そういった場所が幾つも連なり、一つの円…いや、門となっているかのような場所。
『うむ。あそここそが全ての壊れた場所、常識のない世界―――』
自然ではありえない場所が、自然にある。その環境を指さしたフェイアンは…
『―――【壊世大陸】。その入り口じゃよ』
この旅の目的地に着いたことを、宣言した。
―――――――――――――――
「…ふぁぁ~。あれ、みんな起きてる」
ウィウィが目を覚ますと、皆が集まってきた。
『むしろウィウィが一番遅いですよ』
「ウィウィ、僕たちは壊世大陸に着いたんだ。周りをみてみなよ」
「んー…?」
辺りを見渡すウィウィ。その目には、至る所に地面の塊が浮いている様子が映っている。
空は青く、しかしウィウィ達のいる地面の下もまた青い空。なら元いた場所はどこにあるのか。
「ここ、どこ?」
「ん?ああ、来てからしばらく時間がたったからのう…」
ウィウィの声に反応したのは、人に戻ったフェイアンだった。
「そうじゃな、あそこを見るがよい」
「んーと…」
フェイアンが指さした先には、水平線全体に広がるかのような滝と、そこから水を引いて繋ぎ、円を描く土の塊が見えた。マナが作り出す自然の奇跡とも言える風景。中々に幻想的だ。
その滝の水が斜め30度傾いて、天に落ちている点を除けば。
「あそこが妾たちの来た場所じゃ、つまりここの入り口。あの円から入らぬと、この大陸の掟にそぐわぬままになってしまうからのう」
「…つまり、あの滝が海?」
「そうじゃ」
「傾いてるんだけど」
「そうじゃな、妾たちが立っている場所が傾いておるのじゃから」
「水が空に落ちてるんだけど」
「妾たちが立っている場所が重力の起点じゃからな」
「…えっと、わけわかんないんだけど」
「これがこの大陸の基本じゃ、覚えておけ」
「あの子が混乱するってことは、やっぱりこの大陸はおかしいのね」
「ウィウィが混乱することを普通の基準に考えているなら、よほどのことがない限り普通なことしかないかな…」
『フィフィ、あなたくらいよ?この状況で混乱しないのは』
「私は話に聞いて、きちんと覚えて、実際に入る状態を感じ取ったから落ち着いていられるの。ウィウィだってもうすぐ…」
「…んー、なんか違和感があるよね、この大陸」
「どうしたのじゃ?」
「いや、なんかマナの流れが変っていうか」
「ああ、それは…」
フェイアンが話を始めようとしたその瞬間、ウィウィは理解したようだ。
「あ、これか!」
といった直後に、何もないところに手をかざし。
「そいやぁ!」
と掛け声を発した。その直後。
【ガアァンッ!!】
「うおっ!?」
ウィウィが手をかざしたその位置に謎の力が働いたのか、フェイアンは思いっきり引き寄せられた!
が、その地点にブラックホールができたわけでもなく、フェイアンは宙に浮いたままの状態になってしまった。
「…まて、なんだこの引力は」
「んーと、ちょっとやってみた」
「せめて人以外を対象に頼む…っ!」
「でも、この世界ってこんなものでしょ?」
「こんなものとは…?」
「何かが引っ張り合って、この空間ができてる。以上」
「文章がいささか短すぎる気がするのじゃが」
「…ね?」
『あれってどうやって理解しているのかしら…』
「…」
「堕天使さん?」
「…もしかしたら、あの赤い目が関係してるのかもしれないわ」
「紅き眼のこと?」
「あの子、夜の間の話にあったことが本当なら、マナを自分の自由に操れるのよね?」
『…属性が炎か無に限定されていた気がしますが、そうでしょう』
「そのきっかけが、あの右目にある…そういいたいのかい?」
「詳しくは分からないけど…私が今見た限りではそんな感じがしたわ」
堕天使が言うには、どうやらマナの流れがウィウィの眼に集中しているらしい。
「そのおかげでマナを見れる…ということかしらね」
「マナが…それって」
『もしかして、あの紋様のことかしら?』
「紋様なら、あれ自体には力は感じないのだけれど…マナを吸い取ってるようには感じるわね」
「あ、やっぱり吸い取ってるんだ」
「でも、あの紋様がきっかけにはなっている可能性はあるわよ。眼に近づけてから見る…とかね」
『…いや、吸い取ったら見えないわよね』
「…あ」
新たな大陸でも、皆の様子は相変わらずのようだった。
ありがとうございました。
4月忙しいな!?
できる限り投稿を守れるようにはします…と言おうとした当初から躓いている現状。
でも頑張る。
追記※守れてねぇ。しばらくの間は不定期にします、すみません。