第9話 ここから始まる魔闘焔神?
眠い。足りない気がする。
その言葉は、唐突に彼の口から放たれた。
「ママ。闘ってみたい」
「…へっ?」
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ウィウィが3歳になってから半年ほどたったと思われる頃。急に闘ってみたいといわれたミルが、驚きながらも理由を聞くと。
「伝記…だっけ?それに闘いってあったから」
彼も物騒なものに手を出したものである。
「…危ないよ?」
「わかってるもん」
「ところで誰と?」
「ママと」
「…えっ」
ミルも物騒なことに巻き込まれたものである。
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「がっはっは!そいつは面白い!坊主、こっち来い!」
「あの、無理はさせないでくださいよ?」
「おう、もちろんだ!任せろ!」
『…あのー、なんで私まで連れてこられてるのかしら…』
慌てたミルがウィウィとウィリーを連れて、向かった先は訓練場。その灼熱のマナを持つ肉体が故に、ほかよりも力が強いとされている炎溶人は、武器をよく取り扱ったりしている。ここではそれを自主的に鍛えられるのだ。
「よし坊主、今からお前を鍛える役を任されたルガルトだ!よろしくな!」
「よろしくおねがいしまーす!」
『暑苦しい人ねえ…』
「おっ?これが噂のネズミの嬢ちゃんか!ウィウィをよろしくたのむぜ?」
『大丈夫、わかってるわ。よろしくね』
ルガルト、と名乗った彼はここの管理者だ。管理者直々に出たのは相手が相手だからである。ウィウィが勢い誤って訓練場を壊してはたまらないので彼が出たのだ。
「さて、坊主に嬢ちゃん、今から俺が闘いを基本から教えてやる。覚悟はいいか?」
「おーっ!」
『何するのか分からないけど、まあ闘う覚悟はあるわね』
「うむ、よろしい。ではまず肉体づくりから…としたいところだったが。お前らはどうもそれは終わってるみたいだからな、スルーだ」
『え?』
「なにせ坊主は力十分だろ?マナがマナなんだからな。そして嬢ちゃんは魔物だ、小さかろうが人からしても十分な力とマナ位はもってるものだぞ?」
『ああ、考えてみればそうね』
たとえファイアラットという、この火山に多く生息するようなありふれた存在でも、魔物は魔物。そのマナ量は炎溶人を十分に上回る。せいぜいが2~3人分くらいではあるが、それでも何も持たないもの、例えば普通の人間などからすれば十分な脅威なのだ。それに、彼女は普通のファイアラットではない。それはルガルトもなんとなく感じ取っていたことだった。
「さて、それじゃあ適正のある武術の確認からいこうか!目標は母ちゃん越え、だな?」
「おーっ!」
「えっ」
「はっはっは!ミル、あとで来な。そっちはそっちで鍛えなおしてやろう」
「ごめん、鍛えても倒される未来しか見えない…」
『ああうん、同情するわ、ミルさん』
かくして、ミル、ウィウィ、ウィリーの二人一匹の訓練は始まった。
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「さて、まずはそこにあるものからどれか適当に選んでみてくれよ?」
そういってルガルトが出したものは、箱だった。中には、模擬戦などに使われる木刀などがあった。いろいろな武器があり、おそらく彼は、簡単なものから説明していこうとしたのだろう。だが…
「んー…これでいい」
『武器持ってないじゃない』
「…素手、か?」
「うん、なんとなくこれじゃないといけない気がしたんだ」
ウィウィは武器を手にしなかった。それを選んだ理由もはっきりしていない。が、ルガルトは、それでいい、となんとなく思った。仮にウィウィが武器を手に取ったら、その武器はダメージを与えるものではなく、ダメージを抑えるクッションとしてあるのだろう、と考えてさえいた。それだけウィウィの肉体とマナの両立は貴重であり、繊細でありながら戦災レベルのものなのだ。
「…よし、わかった。お前には格闘系を教えよう。やり方は俺が何とか基礎だけは教える。俺も苦手だからな、格闘系は」
『…それだと今後がかなり予定なしになるわね』
「だからこそ、なんだがな。ウィリー、お前に任せよう」
『えっ』
「人と戦うのもありだが、魔獣戦は経験しておくべきだろう?」
『…まあ、そうなんだけど。』
「ついでに言うと、型にハメてほしくないのさ。魔獣も人も、型にはまっちまったらそこから抜け出せなくなる。強くなれなくなるのさ。」
『…』
「…ま、いいさ。今はこっち集中だ。こいよ?ウィウィ。」
特訓は、まだ始まったばかりだ。
ありがとうございました。