part1 生徒会から夜まで
この世界には想像上の存在が実在する。
ドラゴン、エルフ、妖怪、悪魔、神などの存在だ。これらは大昔から人類と隣あって存在していた。
時は現代、日本という極東の国で、世界を変える大騒動が起ころうとしていた。
全ての幻想が集った学園で、物語は始まる。
「マジかよ……」
短く整えた黒髪に雄々しさよりも女々しさが強いイメージの顔立ちの青年、結崎洸汰は教室の中を飛び交う挨拶やら会話の中で一人、隅っこの席で呟いた。窓側の一番後ろの為、クラス全体が見渡せる場所だがどこをどう見ても洸汰が望むものは見当たらなかった。頭を抱える。
「なんで人間が俺一人しかいねぇんだよ……」
結崎洸汰は父親に言われてとある私立学校の試験を受けた。
それは私立幻想高等学園。それは全世界の種族、エルフやドワーフ、竜人に獣人などが集いそれぞれが目指す進路へ必要なことを学ぶ世界でただ一つの『全種族の受け入れ体制が整った学校』だ。
幻想高等学園は数十年前、日本の東京湾に造られた島の形をした戦艦『ドレットノート』の上に建築された。私立幻想高等学園は世界中からあらゆる『種族』が通うことが可能な学園のため、世界中の注目を浴びた。
最初は幻想学園の入試だと聞いて止めようと思った。学園だし、見知らぬ種族がいて絡まれてカツアゲされるに違いない。それに学園だし費用が高い。ロクに働きもせず友人と毎日遊び呆けている父親にそんな金があるとは思えなかった。
しかし、父親の古い親友が幻想学園の園長らしく、親友のよしみで今なら費用も入試も全てカットして入学してもいいと父親に話を出したらしい。父親としても息子には良い学校に入ってもらいたいのか、洸汰は仕方なく納得し試験を受けた。
まったく意味の分からない問題ばかりだったのだが、本当に古い親友が手を回したらしく翌日合格の知らせが届いた。
そして父親に見送られ、洸汰は幻想学園に入園することになったのであった。
しかし。幻想学園とは、世界中の幻想が集まる場所。つまりは人ではない存在が集まる場所なのだ。洸汰は学園入り口の掲示板に示されていた番号を元に1-2組に入り自分の席を確認し、座った。
そして今に至る。
1-2の教室の中には、頭から角が生えてたり翼があったり人の顔をしていなかったりのクラスメートが沢山いた。はっきり言って怖い。皆話している言葉が日本なので幸い、洸汰にも聞き取れるものばかりだった。
その時、電子音のチャイムがなった。生徒?たちは席に戻る。全員が座ったところで洸汰はクラス全体を改めて眺めた。やはり人間はこの中には一人もいないようだ。洸汰は落胆し、ため息を吐いた。
教室の前方ドアを開けて『人影』が入ってきた。クラスがほんの少しだけざわめいた。洸汰も目を丸くして人影を見つめた。本当に『人影』が入ってきた。黒い黒い人型の影が。
人影が教壇に立つと、一礼した。
『皆さんこんにちは。私は今日からこのクラスの担任となります、人影光義と申します。よろしくお願いします』
クラス全員の脳内に『人影』と名乗った人影の声が響いた。これにはクラス中がざわめいた。
『おっと失礼。私は昔黒魔術に失敗してしまってこんな姿になってしまったんですよ~体が無い影だけの存在なので皆さんの脳内に直接話し掛けてます~気にしないでくださいね。』
何を言っているのか洸汰には分からなかった。ただあの人影は教師でそのまんま人影なのだろう。
『これから入園式があります。出席番号順に廊下に並んでください。体育館までご案内します。』
人影、及び光義の指示で全員がぎこちなく席を立つと出席番号順に廊下へと並ぶ。
洸汰は番号的に一番後ろだった。すると、前の男子?が洸汰に話しかけてきた。
「よぅ、アンタ変な臭いがすんな。どこの人?」
寝癖だらけの茶髪。好奇心旺盛な輝く黒の瞳。頭の上あたりにちょこんとある犬の耳、制服の第一ボタンを開けて、初日からだらしがない。その顔立ちはまさにアウトドア派の少年と言う感じだった。
「え、あ……お、俺は……日本の人だけど……」
なんと答えればいいのか分からず洸汰は少年の回答に意味不明なものを返してしまった。
「へぇ、日本人かぁ。俺ヨーロッパ出身なんだ。なぁ、なんて種族?」
「え、に……人間だけど……」
洸汰の回答に少年だけではなく、周囲にいた男女までもが反応した。少年は頭の耳を動かしながら洸汰に詰め寄った。
「マジで!?人間!?すっげぇ、初めて見た!」
「は?」
「俺ワーウルフのコーダ!コーダ・スロウピット!よろしく人間!」
コーダ、と名乗った……種族のよく分からない少年と強制的に握手をした洸汰。
そういえば、この学園に入る前に父親が言っていた。『幻想学園では人間は珍しい。なんの力も持たない人間ってのは沢山いるからな。危ないことに巻き込まれないように』と。
確か、人間の総人口のうち、特殊な能力『超能力』や『妖術』と言ったことが出来るのはほんの二割らしい。そのため人間とは他の種族から貧弱なイメージを受けやすいのだとか。
「お、おう……俺は結崎洸汰……よろしく、コーダ」
「よろしくな~!」
ニッ、と人懐っこい笑みを浮かべたコーダ。この少年とはなんだか仲良くなれそうな気がするのであった。
洸汰が通っていた中学の体育館よりも数倍巨大な体育館に入り、洸汰たち新入生は用意された椅子に座る。教師側に目を向けるとやはり教師も人間ではなさそうな者ばかりだった。
眼鏡の教師が全員揃ったところで咳払いをし、場を沈黙させた。
「ただいまより幻想学園入学式を始めます。まず初めに学園長からのお話です。」
教師の言葉に続くように一人の男性が体育館のステージの上に上がり、壇の前にたった。
黒く整えられた髪にまだ幼さを残す顔立ち。男性と言うよりも青年と表した方が良いかもしれない。そして式の中でただ一人、スーツではなくワイシャツを身に着けている。
学園長は一同を見て微笑むと、マイクを取り口を開いた。
「皆さんこんにちは。新入生の皆さんこんにちは。僕はこの私立幻想高等学園の学園長を務めるウィリアム・デストルです。この幻想学園はどんな種族も平等に扱う場所です。種族別などでの差別は許されることではありません。その点には注意してね。以上」
早っ!?洸汰は思わず突っ込みを口に出そうとしておさえた。体育館の中に集った生徒に教員、来賓の人々までもが学園長の話に唖然としていた。それを無視して平然と壇から下りる学園長。眼鏡教師は動じることなく、次へ進めた。
「次は本校の生徒会会長からのお話です。」
生徒がステージの上に上がる。その生徒は壇の前に立ち、マイクに向かって口を開いた。
「皆さんこんにちは。私は幻想学園生徒会会長の月詠です。」
生徒会長である月詠の姿に一同が目を奪われていた。
腰まで伸びる、カーテンに遮れられる僅かな光をも反射する銀髪。黒曜石のような黒い瞳に古代の芸術家が作り上げたような無駄のない顔のパーツ。すらりとした高身長にモデル顔負けのスタイル。月詠と言った生徒会長及び女子生徒はそれはそれは美しい少女だった。
妖艶と月詠は微笑んだ。
「この学園は皆さんの夢や目標へ近付くための施設です。これから楽しいこと、哀しいこと、嬉しいこと、苦しいことが沢山あります。皆さんはそれらを経験して成長していってください。私達は貴方たちを歓迎します。以上です。」
月詠の声に一同が聞き入っていた。彼女の声は宣託の響を持つ神の声だった。月詠がステージの下から降りると眼鏡教師が何度か頷いた。
「次は風紀委員長からのお話ですが、風紀委員長は本日体調不良でお休みなので代理として副委員長がお話をします。」
コッ、コッ、コッとステージへ上がる階段を乱暴に踏む音が館内に響く。階段を上がってきたのはまたも一人の女子生徒だった。スカートを穿いてるため女性と分かるが、穿いていなかったら歩き方は殆ど男性だ。副委員長はマイクのスタンドを掴むと、マイクに向かって口を開いた。
「あぁ~めんどクセェなァ~」
女性らしいアルトの声だが、とても女性の、学校を風紀を守る風紀委員の副委員長とは思えぬ口ぶりだ。副委員長は鋭利な刃物を連想させる鋭い目つきで新入生を一瞥した。今目が合ったきがした。
「はいはァ~い。俺様風紀委員会副委員長のアンリ・マイニュでェーす。新入生のクソガキ共よっろしくなァ~。」
アンリ・マイニュ、独特な名前のその生徒はこの場に最も相応しくない生徒だった。
深海のような色をした短めの髪に、金色の瞳。平均的に見ると白く見える肌が不気味だ。
顔立ちはそれは月詠よりは劣るが人間離れの美貌の持ち主だった。ザンネンな美人と言うやつだろうか。
彼女が最もこの場に相応しくないという最大の理由としてはその格好だった。
制服は何故か上だけ男子の制服を身につけており第二ボタンまで外れており彼女の豊満な胸元がちらりと見えていた。
スカートも同じ女子生徒の月詠と比べると凄く短い。良い太股が見えている。
「ここは皆仲良くべんきょーする場所なんでよォ、喧嘩やら揉め事はやめてくれや。俺ら風紀委員はそういう状況だけ武装化することが許されてるしよォ、後輩をボコボコにするっつうのも後味悪ィんですよォ。分かったらそういうことはやめろよ?俺様手加減できなくて病院送りどころか墓場送りにしちまうからよォ……!!」
不気味に笑うアンリに新入生は恐怖を覚えた顔をしていた。洸汰の隣のコーダは若干犬耳が垂れて震えている。
「お~?そこの犬耳の君ィ~?イイねぇ~そういう怯えたやつ、虐めるの俺様大好きなんだぜェ…ははは……!」
ユウキの金色の瞳が丁度コーダの目を合った。コーダは蛇に睨まれた蛙のように動かない。
「そうビクビクすんなや。ジョークだジョーク。てなわけでよォ、気を付けろよ新入生諸君!歓迎はしてやんが、調子乗るとぶっ潰すからなァ……以上。」
スカートのポケットに両手を突っ込んで猫背で階段を降りていくユウキ。コーダはそこでやっと動いた。顔が若干青ざめていた。しかし、何故誰もユウキの格好や態度について突っ込まなかったのだろうか。
それを考えているうちに入園式が終わった。皆がそれぞれ教室に戻っていった。
「おい、大丈夫か?コーダ……?」
「あ、あぁ……駄目だ……あの人怖い……」
教室に戻ってから前の席だったコーダに話しかけた。コーダはユウキに見られたことが相当心臓に悪かったらしい。まだ顔が青い。
「でも、学園長も生徒会長も風紀副委員長もただの人間に見えたなぁ。あれってやっぱり人間じゃないのか?」
「当たり前だろ……副委員長なんかアレ絶対違う……」
「俺の周りにもあれぐらいの眼光のやべぇ人はいなかったな。」
雑談中に光義が教室に入ってきた。彼はドアを開けると教室内の生徒全員の脳内に話しかけた。
「授業は明日からなので、皆さん今日はここで解散です!それぞれの寮に戻りましょう。ではさようなら~」
光義はそれだけ言うと床に染み込んで消えた。あの人影教師は一体何者なのやら。
「お、俺先に寮に行ってる・・・・」
「お、おう……お大事に……。」
コーダは老人みたいに歳を取った様子を見せて、教室から消えていくのであった。
洸汰も荷物を片付けて、寮へと向かった。校舎から出て行く生徒たちのあとをくっ付きながら歩く。と、そこで喉が渇いた。辺りを見回すと整備が整っているのか少し遠くに自動販売機があった。生徒たちの郡を抜けて自動販売機へと小走りで向かう。
財布を鞄から取り出して売られている飲み物を見ようとしたとき、息が止まった。
自動販売機の前には一人、女子生徒がいた。
銀のような輝きを放つ銀髪、細い体付きは決して弱さを見せず幽玄的なオーラを放っている女性が、自動販売機に、立っていた。
幻想学園生徒会長、月詠だった。洸汰がその美しさに見惚れていると月詠は洸汰に気付いたのか自動販売機に向けられていた視線をゆっくりと洸汰の方へと移した。
夜の空を飛ぶ烏よりもなお黒い瞳に見つめられ、洸汰の硬直は延長する。
「あら?貴方確か……人狼の子の隣の……」
桜色の唇が言葉を紡ぐ。こうして近くて聞くと観衆を酔わせるほどの響きがある。
洸汰はやっと硬直から解放され、口をあけた。
「あ、その……どうもです……」
我ながら情けない挨拶である。洸汰はしまった、と気の利いたことを言おうと必死に考える。が、月詠はそんな洸汰を無視して笑んだ。
「丁度良かった、五円、かしてくれませんか?」
「え?」
月詠は白い手のひらを開いて100円玉一枚と10円玉三枚と5円玉一枚を見せた。
「喉が渇いてしまいまして。何か買おうと思ったのだけれど、これしか財布に入っていなかったの。だから、5円玉貸してくれませんか?」
「え、あ、はい。どうぞ……」
財布の小銭入れを漁り、5円玉を取り出し月詠の手のひらに置いた。
「ありがとう。あとで必ず返します。」
「5円ぐらい、返さなくてもいいですよ?」
緊張し過ぎて噛んだら良い恥じだ。洸汰は一言一言を丁寧に紡ぐ。
「いいえ。たかが5円されど5円。借りたからには返す。人として当たり前のことですよ。」
月詠は手のひらの小銭を全て販売機に投入し、炭酸飲料を買った。
取り口からペットボトルを取ると、蓋を開けず片手に持った。ここでは飲まないのだろうか。
「えぇ、これからすぐ生徒会の用事があるから。部屋で飲むみます。」
月詠は制服の胸ポケットから一枚の名刺のようなモノを取り出すと、洸汰に差し出した。
何も書いてなかった。
「明日、生徒会室に来てください。その時誰かいたらこの紙を渡して。」
「はぁ……分かりました。でも、これ白紙じゃ……?」
紙に向けていた視線を上げると、そこに月詠の姿はなかった。あれ?と首を傾げた洸汰は辺りを見回し、それらしき人物がいないので寮に戻った。
「ホントにこの紙切れで大丈夫なのかぁ?」
放課後の教室。洸汰は昨日、生徒会長月詠に貰った白紙の紙を財布から取り出し観察する。透かしのようなモノは入っていない。水に浸すことも考えたが、そんな特殊そうな紙にも見えないので止めた。
「意味の分からん生徒会長だなぁ……」
「ねぇ」
洸汰の机の前に誰かが立った。洸汰は紙を財布にしまい、声の主を見た。
ショートの金髪、翡翠の瞳には冷たい意志が感じられる。緩みがない顔立ちの女子生徒がいた。ただ、女子生徒の両耳が尖っている。
「貴方、私側に付かない?」
いきなりこれだ。洸汰は眉を歪めて説明を求めた。
「貴方、人間でしょ?この学校は人じゃないモノに満ち溢れている。だから、人外である私たちの仲間になって仲良くなりましょ?虐めも受けないわよ?」
「虐め?この学校はそんなモン赦さないって偉い人言ってたぞ。」
洸汰が頬杖を付いて感心がないことを示すが、女子生徒は機嫌を損ねずむしろ得意げな表情で洸汰に更なる説明をする。
「それは人種の差別。良い?この学園じゃ弱者は強者の糧になるの。人間は良い糧よ、だからこの誇り高きエルフのミーア・コーネットのグループに付きなさい。」
エルフ、ミーアと名乗った少女はそう言った。
エルフとは尖った耳に人間離れの美貌が特徴の妖精のような架空の存在だ。人間を越えた英知を持ち、ドワーフという種族と仲が悪い。
「あー…お誘い嬉しいけど、俺そういうの興味ないから。」
「はぁ?折角私が助けてあげるのに。来なさいよ。」
「助けるもなにも困ってないし。」
「これから困るでしょ。後悔するわよ。」
「しつこいな、いいってば。他を当たってくれ。」
「分からないやつねぇ!来なさいよ!」
ミーアが洸汰の手を掴んで無理矢理引っ張った。洸汰が抵抗するも、流石に腕力は人以上だった。洸汰はあっという間に引っ張られ、と思ったがミーアの手を細い手が掴んだ。
「オイ、その辺にしとけや。困ってんぞ。」
ミーアが手の主を睨み付けた瞬間、時間が止まったように動かない。洸汰も、洸汰を助けてくれた手の主に、視線を手から辿って見た。
「言っただろ。俺達風紀委員がいる限り、虐めはねぇって。」
風紀委員副委員長、アンリ・マイニュだった。彼女は宝石のような透き通った目を細めミーアを睨み付けた。
「エルフのお嬢様だがなんだが知らねぇが、一年がでしゃばってんじゃねぇよ。」
ミーアは蛇の毒に全身を侵されたように動かない。それでも、唯一の抵抗としてアンリの手を振り解き、息を荒げながら教室から出て行った。
「よぉ、大丈夫か人間クン。」
アンリの細めた目が緩まり、優しげなモノとなる。洸汰は席から立ち上がってアンリに礼を言った。
「あ、ありがとうございます……助かりました。」
「こっちは仕事したまでの話だ。ああいうのメッチャうぜぇな。自分が優秀だから弱者を侍らすっつうヤツをよぉ。」
アンリは寝癖だらけの蒼の髪をくしゃくしゃと掻いてミーアに対する嫌悪感を見せた。
「新入りクン、気を付けろよォ。人間っつぅのは何の力もねぇんじゃただのカカシだからな。ま、困ったら風紀委員に、な?」
ニッ、と口元を曲げ捕食者の顔を見せたアンリに思わず引く洸汰。それを見て愉快そうに喉の奥を鳴らして笑いながら教室から出て行こうとするアンリに洸汰は声をかけた。
「あ、あの……」
「あ?礼ならいらんぜ?だが、どうしてもっつうなら受け取ってやらねぇこともねぇな。」
「生徒会室って何処ですか?」
「ここが生徒会室な。一般の生徒が入ることはまずねぇ。」
アンリに校内パトロールついでに四階の生徒会室まで案内してもらった。
「たかが5円でここに入れるっつのも変な話だが、本当みてぇだしな。」
「信じるんですか?」
「その紙見たら信じるしかねぇな。」
アンリはパトロール中に洸汰が見せた紙を指に挟んで答えた。洸汰はイマイチな回答に首を傾げる。
「ま、詳しくは中にいるヤツに説明してもらいな。俺様忙しいから。」
「はい、ありがとうございました。アンリ先輩。」
もう一度頭を下げるとアンリは洸汰に紙を返し、四回の奥の通路へと消えた。
『生徒会室』と綺麗な筆字で書かれた表札が掛けられているドアの前に洸汰は立った。
ドアノブに触れようとする手が汗ばんでいる。鼓動も早い。何故だか凄く緊張している。
手を一度握って開く。そしてドアノブに手を掛けようとした瞬間。
「おーい、いつまでも突っ立てないで入れ。」
生徒会室の中からドア越しに声が!洸汰は触れかけた手を引っ込めた。
「こっちからは見えてんだ。さっさと入れ。」
見えてる?疑問を抱きつつも、洸汰はやっとドアノブに手を掛け回し、生徒会室の中へ入った。
生徒会室は思ったよりも広かった。見る限り教室分の広さがある。
ドアから入って手前のテーブルの上に腰掛けた男子生徒が一人。彼は片手に持つ端末携帯から洸汰へと視線を移し、少しだけ笑みを見せた。
「あ、あの……俺生徒会長に呼ばれて来たんですけど……」
「あーはいはい。話は聞いてる、紙貰ってるだろ?見せろ。」
男子生徒に言われて洸汰はアンリに見せた紙を手渡した。男子生徒はそれを綺麗な指で挟んで受け取ると、水に浸したり、透かしたりせずただ見ているだけだった、
「OK。月詠から話は聞いてる、俺の名前はロキ・ユドラグジル。幻想生徒会会計。よろしく」
ロキ・ユドラグジル。これはまた美形の男子だ。黒いショートに深い英知を魅せる蒼の瞳。背は洸汰よりも高く、体型もしっかりとしている。活発的な一面もあり、また知的な一面もありそうな感じがした。
「結崎洸汰、です……あの、生徒会長は……?」
「来るだろ。ここで待ってな。」
ロキは机から降りて洸汰へ椅子を勧めた。洸汰は右側のパイプ椅子に座り鞄を机の下に置いた。ロキは洸汰の向かいに座る。
「月詠も律儀だよな、たかが5円で生徒会室に呼び出すとかよ。」
「お、俺も5円ぐらい返さなくてもいいんですけど……」
「ま、そこが月詠らしいといえばらしいか。」
ロキは少し誇らしげに笑む。やはり、月詠と言うのは誰からも尊敬の対象となっているらしい。
「あの、生徒会ってゆどらぐじる?先輩と月詠先輩しかいないんですか?」
「ロキで良い。苗字で呼ばれるのはあまり好きじゃない。いや、あと二人。脳筋と狐がいる。」
「はぁ・・・えぇっと、そのお二人はどの担当ですか?」
「んー脳筋は力仕事。狐は特になし。」
「え。」
「この辺には日本海より深い事情があってな、生徒会役員じゃねぇと話せないんだ。察せ。」
は、はぁと頷きなんとなく大人の事情だろうと察する洸汰。
と、二人の会話の途切れを狙うかのように生徒会室のドアが開き、麗しき生徒会長月詠が入ってきた。彼女は室内の洸汰と目が合うとニコリと笑みを見せた。動揺せずにはいられない洸汰にロキが月詠に声を掛けた。
「よう。遅かったな。」
「えぇ、少し図書館に用があってね。」
月詠は鞄と脇に抱えた二冊の本を部屋の奥の「会長」と札が置かれた机の上におく。洸汰に振り向き、また笑んだ。
「洸汰君、昨日はありがとう。改めて御礼を言うます。」
「れ、礼を言われるほどのことじゃありませんよ。って、なんで俺の名前を?」
「昨日、生徒のデータでお前のことを検索・・・な面倒なことはしない。学校長から聞いたんだよ。」
ロキが一旦席を立ち、生徒会室の戸棚を開けクリアファイルを取り出し机の上に放り投げた。洸汰がファイルを覗き込むとそこにはクリップで留められたされた洸汰の写真と何故か詳細なデータが載っている書類があった。驚きを隠せない洸汰はファイルから書類を取り出し、一枚一枚確認した。全て洸汰に関するデータだった。
「お前の親父さん、学校長の知人らしいな。ま、学校長の知人の息子となれば調査対象になるさ。学校側のサーバーにハックしてよかった。」
「ロキ、またやったの?怒られるわよ?」
「バレてないから大丈夫だ。」
ドヤ顔でキメるロキ。何処にそんな自信があるのだろうか。
「ロキは情報能力に関しては優れているのよ。私が彼女を誘った理由の一つね。」
月詠はそんなロキを誇らしげに語る。しかし、誘うとは、生徒会にだろうか。
「えぇ、私が頼んでロキに立候補してもらったのよ。結構な格差で役員になったけどね。」
「しかし意外だったのは忌羅まで当選したことだ。あいつ顔と剣以外の魅力がないからな。」
「彼女も彼女で努力してくれたのよ。多分。」
ここで忌羅と言う新しい名前が出てきた。忌羅という女性も生徒会役員なのだろうか。
ドアが開いた。入ってきたのは背の高い女性だった。
ショートカットの金髪に狂いのない顔の位置。月詠には劣るがこれまた白い肌。
そして透き通るような赤い目。引き締まった無駄のない体型。
凛々しく、堂々と生徒会室に入ってきたその女子生徒は戦いの女神のように、月詠とは別の美しさを感じた。
「遅かったわね、忌羅。」
「あぁ。少し剣道部の相手をしていた。話にならなかったがな。」
低く、脳に残るような鋭い声が生徒会室に響く。忌羅、と呼ばれた女子生徒は洸汰を無視して片手に持っていた鞄を机の上に放り投げた。彼女の片手には鞘に納まった日本刀があった。
「体慣らしにもならん。一ヶ月前のアンリとの戦いがもう一度したい。」
「一ヶ月前のアレって・・・・大惨事だったじゃねぇか。」
一ヶ月前に忌羅とアンリの間に何かあったのだろうか。しかし、呆れてため息を吐くロキと苦笑いしている月詠を見れば相当大変な惨事だったのが分かる。
「忌羅、新入りだぜ?挨拶ぐらいしておけ。」
「フン、月詠に目を付けられたが運の尽きと同情しておこう人間。」
部屋の中にある木製の棚を開け、棚から数種類のパンを引き出す忌羅。それらを抱えてロキの隣に座った。
「我が名は神埼忌羅。忌羅と呼べ人間。」
「は、はぁ・・・・よろしくお願いします。忌羅、先輩。」
とそこで洸汰は先ほどのロキの言葉の中に引っかかるものを見つけた。ロキに聞いてみる。
「ロキ先輩、さっき『新入り』って聞こえましたけど・・・?」
あぁ、それな。とロキは横目で月詠に促した。月詠もそれを受け取り、洸汰に一枚の紙を渡した。洸汰は声に出して内容を読んだ。
「えーと、『この度結崎洸汰を幻想生徒会役員にすることを許可します 学園長 ウィル』。」
「おめでとう結崎君。貴方を私達生徒会へ招待するわ。5円のお礼としてね?」
「え。」
何故、と問う前にロキが生徒会長に聞いた。
「月詠、なんで人間を生徒会に?昨日はちゃんとした理由を聞いてないな。」
「私もそれについては興味がある。聞かせてもらおうか。」
現生徒会役員二名に聞かれ、月詠はふふっと笑みながら答えた。
「だって5円を貸してくれたのよ?不思議なご縁があると思わない?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
洸汰、ロキ、忌羅の三人は顔を見合いそして口を揃えていった。
「「「5点」」」
「低いわね・・・・・」
月詠はがっくりと肩を落とした。しかし一瞬で立ち直り、話を続けた。
「というわけでね?結崎君を生徒会に迎え入れるわ。」
「月詠よ、貴様はコレをそれだけの理由で生徒会に迎え入れると?よく許可が降りたものだな。」
「そりゃあな、コイツ学園長の親友の息子って言うじゃんか。コネじゃね?」
酷い言われようである。
「違うわよ。学園長に話をしたら、『いいんじゃないかな?』って。」
「それだけか?」
「えぇ。」
ロキは黙った。もはや呆れて追求する気力もなさそうだ。
「それで、結崎君。生徒会に入ってくれないかしら?人手が足りなくてね、困っているの。」
「えぇっと、俺でいいなら・・・・どうぞ?」
こうして、洸汰は生徒会に入ることになってしまった。こんな簡単でよいのだろうか。
三日後
「おい洸汰、棚んところの資料取ってくれ。」
「おい人間、茶のお代わり。」
「結崎君、ちょっと150mlの飲み物買ってきてくれないかしら?請求書は生徒会で。」
洸汰は見事なまでに雑用だった。しかし幸いなのはミスをしても生徒会の先輩達は何も言わず、むしろアドバイスをしてくれるところだ。
「あーこの資料じゃないな洸汰。付箋紙が20枚ぐらいくっついてるやつあるだろ。そうそう、それ。」
「味が濃いな。もう少し茶葉を少なくしてもかまわん。温いのは許さん。」
「え、売ってない?じゃあ160円ぐらいで買えるものでいいですよ。」
洸汰には特技がないし、能力もあまり高くはない。だから、それで先輩達に迷惑はかけまいと数でこなしているのだ。それに対し、微笑ましく見守っていてくれるのはありがたかった。
「つーか、洸汰のこと雑用にしか使ってないな。」
「凡人なのだから数でこなそうとしている点だけは評価する。」
「そろそろ、別の仕事がいいかしら?」
「あ、そうだ。必要な資料があるんだけどさ、図書館にあるんだよな。取ってきてもらうか。」
「止めておけ、魔女に食われるぞ。」
魔女?図書館には魔女がいらっしゃる?
「あぁ、ウロボロスって言う変な魔女がいる。そいつに聞けば資料の位置は分かる。」
さっき、食われるとかは言っていましたが?
「例えだ。ウロボロスってのは竜だからな、機嫌を損ねたら食われるかもな。」
そんなに恐ろしい魔女さんで?
「いや、あんまり怖くないけど怒らせるとやべぇぞ。学園内でも上位に入る実力者だしな。」
「でも、彼女には今後もお世話になるだろうし良い機会ね。結崎君、さっそくお願いできるかしら?大丈夫よ、ウロちゃんは優しいから。あ、これ彼女に渡してね。」
生徒会長、怖いのか優しいのかわかりません。
月詠からウロボロス宛の手紙を受け取り、洸汰はため息を吐くのであった。
幻想学園の図書館は地下一階にある。あまりにも本の数が多過ぎて本校のどの場所にも収まりきらないかららしい。
地下へと続くドアを開けると、底へと続く暗い階段がある。階段を下っていけば図書館への巨大な扉がある。そこは簡単に押すと開く。大きさに反比例して意外と軽い。
図書館には放課後でも多くの生徒がいた。洸汰はまず、受付のエルフの男性にウロボロスの場所を聞いた。一番奥の閲覧禁止の区域にいると教えてもらい、生徒会権限を使って許可証をもらった。まっすぐ行けば閲覧禁止区域があると教えてもらい、洸汰は言われたとおりまっすぐ進んだ。
5分後、図書館の奥に閲覧禁止と書かれた看板と図書館とその先を隔てる巨大な壁があった。鎧をまとった巨大な兵士が壁の下にぽつんとある小さなドアの前に立っていた。
洸汰はその兵士に生徒会の許可証を見せた。すると、兵士は何も言わずドアの前から退いた。小さく礼をしてドアをくぐった。
ドアの向こうは図書館とあまり変わりがなかった。人が誰もいない。左右を交互に何度も見て誰かいないかと探すと、真正面のカウンターがあった。大量に本が積まれていてカウンターと言えるのか不明だったが。この場所は図書館として機能しているのだろうか?
「機能してると思うかボケナス。」
カウンターの本の中から女の子の声が聞こえた。カウンターに近付く洸汰。
「この場所は閲覧禁止。生徒会と学校側からの許可がないと絶対入れない。来るといったらお前ら生徒会ぐらいだし、別に機能してなくても問題はないだろ。」
カウンターの本が崩れた。しかし洸汰に落ちてくることはなく、空中で静止している。本が空中で整列しカウンターに柱を作るように綺麗に詰まれた。
すると、カウンターからひょっこりと小さな女の子が顔を出した。黒いふわふわした帽子を被り、黒いローブを着ている。
女の子の紫の瞳が洸汰を映す。瞳の奥の闇に吸い込まれそうで洸汰は目を逸らした。
「人間、と言っても多少の魔法耐性はあるか。催眠魔法が効かない。少し知識になったな。」
「あの、貴方がウロボロスさん?」
「私以外にこの図書館には住んでないから私がウロボロスだ。」
ウロボロスはカウンターを越えて洸汰の前に現れた。
鮮やかな紫の髪、顔つきは幼さが残る。可愛らしい少女だ。ただ見た瞬間にやる気のなさが感じられる。ニートの匂いがした。
「で、何の用だ?ご丁寧にご挨拶に来たわけでもないんだろう?」
幼さが残るも覇気を感じる声。流石に魔女と呼ばれるだけはあるのか。
洸汰はポケットにしまった月詠からの手紙をウロボロスに見せた。ウロボロスは手紙を受け取ると流れるような目の動きで文章を読んでいく。かなりの量を月詠は書いていたようだが、ウロボロスはもう半分と読み終えてしまった。
「ふーん。お前も大変だな、結崎洸汰。」
ついには会って数分の人にまで同情される始末である。そんなに生徒会は大変なのだろうか。いや実際大変だが、洸汰の知らない恐ろしいものがあるのだろうか。
「この学校に人間が入った時点で相当大変だがな。それでだ、お前が持って来いと頼まれた本だが今持ってくるから待ってろ。」
ウロボロスが人差し指を二回、ローマ字のUを描くように振った。
「あ、良いですよ。俺が持ってきますから場所だけ教えてもらえれば・・・・」
「お前はこの東京ドーム3個分の図書館から1,2冊の本を探し当てられるのか?魔法を使わず出来たら寿司でも奢ってやる。」
絶句した洸汰。同時に頭部に激痛。痛さでしゃがみこむと、洸汰の真横に二冊の本が落ちてきた。痛さをこらえ、片手でタイトルを確認すると頼まれたそれだった。
「私はこの閲覧禁止の本の内容と場所は全部覚えてる。魔力を持つ本もあるから、魔法の知識もない素人が迂闊に本を開くと困るんだよ。ここに来る時は私を呼べ。OK?」
「お、オーケーです……。」
本を抱えて何度も頷く。一礼して帰ろうとすると洸汰の腹部に何かが叩き付けられた。肺の中の空気を全て吐き出してその場に崩れる洸汰。幸い本が盾になったのかまだ意識を失うほどではなかった。すると洸汰の背中に何やら生暖かい液体のようなものが降り注いだ。洸汰の後頭部にもそれは掛かり、肌を伝わってゆっくりと床に赤い滴が落ちた。
鉄臭い。そして滑るようなこの感じ、血だ。
状況を理解しようと立ち上がった洸汰の目の前に人型の何かが落ちてきた。全身毛むくじゃらの人のように見えるが、首から上がなかった。首とその上にあるべき部位が断たれ、真っ赤な液体が図書館の床を染めていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
後ろに尻餅をついて叫ぶ。後ろに下がり、状況を確認しようとするが恐怖で思考が回らない。
「うっせーなー死体ぐらいでぎゃーぎゃー騒ぐなよボケ。」
カレンが呆れたように首を振り、死体に向かって指をパチンと鳴らした。死体が消えた。死体が流した血も一瞬で。
何が起きたか分からない洸汰。カレンは唖然とする彼を見て、一度カウンターに戻ると何か漁り洸汰にお茶のペットボトルを投げ渡してきた。ぼうっとしていて顔面キャッチした。
「これで今週で三度目だな。風紀委員なにしてんだ。」
「え、あ……一体……。」
「ここ最近、関係者でもない獣人や亜人があちこちで騒いでるんだよ。図書館も何度か襲撃されてな、普通図書館の方の書籍が何本か盗まれたと聞いた。」
ウロボロスが顎で、お茶を飲めと指示してきたので洸汰は遠慮なく頂く。冷やしてあったのか冷たくて冷静な判断が出来なくなっている今には丁度良かった。彼女の気遣いだろうか。
「さっきお前の背後にいたから頭を吹っ飛ばした。気付かないモンだな、お前それでも生徒会か?人間だから仕方ないか。」
「生徒会とこれがどう関係が・・・・・・」
「え、お前知らないのか?この学園での生徒会の役割を?」
「なんです、か?それ?」
「生徒会長!!」
図書館から帰ってきた洸汰は勢いよくドアを開けた。ロキ、忌羅、月詠の3人が同時に洸汰を見た。視線を無視して洸汰は頼まれた本を机において、月詠の机の前に立った。
月詠が不思議そうな目でこちらを見上げてきた。
「ウロボロスさんから聞いたんですが、この生徒会には秘密があるらしいですね?」
「あら、ウロちゃんったら喋っちゃったのね。それで、どこまで聞いたのかしら?」
「いえ、ウロボロスさんは生徒会には秘密があるとしか言いませんでした。私からは話せないから貴方に聞け、と。」
そうですか、と月詠は目を細めて何を思ったのか微笑した。
「結崎君には話してなかったですね、この学園の生徒会の目的について。」
「目的?」
「えぇ。ロキ、説明してあげて。」
「いいのか?」
「彼も生徒会役員よ。」
仕方ない、と言わんばかりにロキは説明を始めた。
「まず初めに聞こう。お前達…まとめて人間だが、人間は同じ種族にも関わらず争う。洸汰、お前はいつか全人類が仲良くできる日が来ると思うか?」
突然、哲学的な問題を聞かれてしまった。数十秒迷った上で、答えた。
「無理、では?」
「正解。なら俺達は?俺達人でない種族も、皆仲良くできると思うか?否、出来ない。」
しかしロキは自らが導き出した答えに嫌悪感を持ってしまったのか、苦い顔をして続けた。
「俺たち人ではない種族も仲が悪い。昔も今も戦争起こすほどだよ。なら、何故俺達はこの学園で平和に過ごせると思う?新学期が始まってから、種族間の争いはあるだろうが殺し合いまでには発展しない。」
「え…風紀委員の人が頑張ってるから…では?」
「それもあるが、一番の理由としては……『力』だ。」
「『力』?」
「そう、この学園は創立時から怪しかったのさ。全種族が仲良くお勉強できるわけがない、ってね。だが、こうして学園は成り立っている。これはどうしてか?簡単だ、力が学園にいる生徒達を統一しているんだ。」
ロキは一旦間をおいて話を区切り、再開する。
「その力とは何か?お互いを敵視し合う力を持つ種族を統一し、まとめるほどの力を持つ力だ。悪用したい奴が出てくる、だがこの学園は外部からの一切の政治的圧力も受けない。しかし、それでも生徒に紛れて力を狙ってくる奴らがいるんだ。」
「ちょ、ちょっと待ってください?俺、弱いですけど力でまとめられているなんて感じませんよ?」
「それは俺達も同じだ。皆、『無意識』にそうなっているんだよ。」
ロキの回答に関して、忌羅と月詠に視線を向けると二人とも静かに頷いた。
「私に関しては種族を差別することはないからな、私にとって強者が友。」
「私も皆を馬鹿にしたり争いを起こすことはないわね。そういう『感情』が抑え付けられているって感じかしら。」
「で、俺ら生徒会役員はその力を狙う奴らから『力』と『秘密』を守りきることが本当の目的なんだよ。」
目を閉じてロキが言ったことを整理する、諦めた。ロキの呆れの表情が伺えた。
「つまり、俺ら生徒会役員は外部からのスパイ共から学園の秘密を守りきることが仕事。分かったか?」
「それは分かりました。ってことは、戦ったりするんですか?」
「当たり前。力なくして守れない。安心しろ、俺と忌羅がいれば大体勝てるから。」
ロキと忌羅がお互いを見合って笑みを交わす。その自信はどこから来るのだろうか?この二人、至って普通な高校生にしか見えない。
「人間、我ら二人をただの女子と思うな。貴様など、瞬きの一瞬で殺せる。」
忌羅は真剣な、しかしどこか馬鹿にしたような顔を見せた。自分だって男子だ、女の子にあっさり負けるほど弱くないと反論する前に瞬きをした瞬間。生徒会室の空気が少し変わった。
瞬きの一瞬だった、目を開けた洸汰の喉元には日本刀、額には銃口が突きつけられていた。両方、忌羅とロキ、それぞれが手に握っているものだ。
一瞬だったのだ。忌羅の言うとおり、瞬きの一瞬でこの二人は無力な男子高校生を殺すことができる。
二人が互いの武器を洸汰から引いた。洸汰の額に汗の玉が浮かぶ。
「とまぁ、こんな感じで伊達に生徒会やってるわけじゃないんだよ。お分かり?」
「は、はい……。」
生徒会って怖い。洸汰は人生の中で大切な教訓を学んだ気がした。
「しかし、人間が貧弱である以上敵に狙われやすいだろう。その点については考えてあるのか、月詠?」
「いいえ、彼はあくまで雑用だから。」
「だろうな。」
忌羅は机の上に置いてあったパンの塊を一口で半分ほど齧ると席から立ち上がった。
パンを咀嚼し、ごくんと飲み込むと忌羅はまるで新しい玩具を見つけた子供のような目を洸汰に向けた。
「では、暇つぶしといくか。」
バーン!!!洸汰の両手から竹刀が弾け飛んだ。空中で弧を描いて竹刀は道場の床に跳ねて落ちた。両手から伝わる激痛にうずくまる洸汰。観衆から歓声が上がった。
「どうした、その程度か。」
洸汰の前には竹刀を持ち余裕の笑みを浮かべる忌羅。洸汰は落ちた竹刀を拾い、もう一度構えた。それを見て忌羅の笑みは更に深くなる。
声を上げて忌羅に竹刀を振り下ろす。忌羅は片手で竹刀を持ち、洸汰の一振りを受け止める。とても女性とは思えないほどの腕力だった。竹刀が動かない。
竹刀を弾かれ、忌羅の竹刀がヒュンと空を切る音と同時に洸汰の両手から竹刀は再び弾かれ、床に落ちた。
「神埼先輩お見事ですっ!!」
観衆、つまり活動していた剣道部から声が上がる。部員の何名かが忌羅を囲う。
「神埼先輩、是非今度の試合に出ていただけませんか?」
「神埼先輩後輩にご指導願えませんか?」
「先輩、お手合わせ願えませんか?」
羨望の眼差しと共に忌羅に頼みごとをする部員達、しかし忌羅は。
「洸汰、まだやるか?」
「え、あっ…はい。」
竹刀を拾い、構える。先ほど弾かれたときには腕に激痛を感じなかった。忌羅が竹刀だけを弾くようにしているのだろう。
「あの、神埼先輩……試合の方は……。」
無視されてもなお、忌羅に願う女子の剣道部員に対し忌羅は冷たかった。
「邪魔だ除け、多くのルールに縛られた戦いなど私は好まぬ。」
羨望の眼差しや憧れといった全てを弾く行為、剣のような鋭い眼に女子部員は後ろに下がることしかできなかった。視線を洸汰へと直し、忌羅は来いと竹刀を横に振った。
しかしその後30分ほど打ち合いをしたが洸汰の竹刀は忌羅に触れることさえできなかった。
稽古の帰り、洸汰は忌羅に稽古の礼としてジュースを奢ることにした。自動販売機の前に立ち、忌羅に何がいいか選ばせる。
「そうだな……これと、これとこれと…これも美味そうだな、これと、これだ。」
忌羅が指で指したのは6種類の飲み物だった。しかもお茶だったり炭酸だったりコーヒーなどと、かなり味が一定ではないものだった。
「こ、こんなに飲むんですか……?」
財布から思わず100円玉を落としそうになった洸汰が忌羅に尋ねた。忌羅は常識だと言わんばかりに顎で促した。目が怖いので千円札を自動販売機に入れた。忌羅はまだ悩むように手を顎に添えて飲み物のボタンを押した。一本目のジュースが取り出し口から落ち、釣りが清算される。洸汰は崩れた千円札から出来た500円玉をもう一度入れた。それが5回続いた。
全て買い終わった後、忌羅は両手いっぱいに飲み物を抱えた。
「人間、どれか飲みたいものはあるか。」
忌羅が抱えた飲み物を洸汰に見せた。まさか、6本も奢ることになるとは思わなかった。
忌羅の言葉に甘えてお茶を取る。
「ついでだ、お前がこれを私の部屋まで運べ。」
忌羅が両手に抱える飲み物を洸汰に差し出す。洸汰はバッグを持っているからそこにいれと言うことだろう、流石にここから寮までこれだけの飲み物を持って帰るのは面倒だ。
そこで洸汰は重要なことに気付いた。
「私の、部屋?」
学園内は大きく3つのエリアに分けられる。1つ、学生達が学ぶ学校つまり本校。2つ、生徒達が生活する寮。3つ、店や公共施設などの巨大な商店街。
男子寮と女子寮は基本離れている。向かい合うように2kmは離れている。
つまり男子が女子寮へ行くには学校から遠回りにしなければならない上に、女子達の視線がある。更に言えば女子寮にはガードマンの女性が十数人体制で警備に当たっているので愚かな行為は出来ないのだ。
そして洸汰は今、その女子寮の前に立っていた。その隣に立つは忌羅。
「いいか、何か聞かれても私の荷物持ちと言えよ?やましいことはないが、怪しまれても面倒だ。」
「荷物持ちという時点が怪しい気がします」
無視。忌羅は首で付いてこいと指示し、歩き出した。ついでに洸汰に自らの鞄を預けて。
覚悟が決められないまま、忌羅に付いていく。足が震えているのは気のせいだろうか。
忌羅が警備員と思われる女性に生徒手帳を見せ、後ろに控える洸汰を指差し何か説明している。洸汰は落ち着かない様子で忌羅が何を説明しているのかよく分からなかった。
やがて警備員が許可を出し、忌羅と洸汰は女子寮に入った。寮内に入ると女子からの視線を痛く感じた。凄く痛い。何か言いたげな顔をしているが、忌羅がいるので誰も話しかけられない。
「あっ、アンタは!!」
背後からどこか聞いたことがある声。振り向くと、先日のエルフ族のミーアが洸汰を睨みつけていた。
「なんで女子寮にいるのよこの変態!」
「いや、俺は先輩の荷物持ちだよ。」
指を突きつけられ変態扱いされるが、洸汰は片手に持つ忌羅のバッグを見せて無罪を主張する。そこへ忌羅が二人の間に入り込む。
「知り合いか?」
「クラスメイトです。」
忌羅の眼とミーアの眼が対峙した。忌羅の絶対零度とも言える冷たい眼差しと威圧感にミーアが眼を逸らした。
「エルフの女よ、この人間は私の荷物持ちだ。警備からも許可を得て入っている。それでも何かあるか?」
忌羅の威圧と言葉に、返す言葉がないミーア。悔しいのか尖った耳の先を紅潮させて洸汰を睨みつけた。洸汰は苦笑いしか出来なかった。
「人間行くぞ、この女に構っている暇はない。」
ずっと洸汰を睨みつけるミーアに明日が怖そうだと思いながら洸汰は忌羅の後を付いていくのであった。
「入れ。」
「お、お邪魔しまーす……。」
二階の奥に、忌羅の部屋はあった。ドアを開けて部屋に入った。
部屋は高級マンションのように広々とし、掃除が行き渡っているのか清潔感と気持ちが和む香りがする。
「あら、おかえりなさい。稽古はどうでしたか?」
部屋に入った洸汰の前に現れたのは月詠だった。しかもタオル一丁である。ぎゃぁぁと悲鳴をあげてバッグを床に落とし背を向けてうずくまった洸汰。
「何をしている?人様の顔を見て悲鳴上げるとは貴様人がなっていないな?」
人として、男として目の前にタオル1枚の女性がいたら背を向けるべきではないだろうか?
「どうした人間。早くあがらんか。」
「ん?あぁ、申し訳ありません。この格好は不適切ですね、着替えてきます。」
月詠の足音と同時にドアが閉まる音、おそらく着替えに別の部屋に行ったのだろう。洸汰は振り返っておそるおそる背後を確認する。月詠はいない。助かった。
「人間、何故背を向けた?幻覚が見えたわけではあるまい?」
「だ、だって先輩…女性のあんな姿があったら普通は目を逸らすものですよ…」
「あんな姿?月詠のあの姿は目を逸らすものなのか。」
「いや、忌羅先輩は女性だから大丈夫かもしれませんけど……男には刺激というものが……」
「分からんな、人間というものは。」
人間、そういえば忌羅は洸汰を名前で呼ばすに『人間』と呼ぶ。忌羅は人間ではないということなのだろうか。洸汰は落としたバッグを拾って部屋に上がった。部屋は和風一色だ。畳に敷居、障子、どれも日本にあるものばかり。おそらくは月詠の趣向だろう。
「適当に座れ。」
忌羅は居間から別の部屋に入っていった。洸汰はとりあえず畳の上に正座する。居間には座布団が積まれている。他には木製の小さなちゃぶ台しかない。
座ってから少しして、忌羅が先ほど入っていった部屋から出てきた。タオル1枚で。
再び悲鳴をあげて背を向けた。忌羅はそれが面白いのかフハハハと笑った。
「人間は面白いな、行動が意味不明だ。」
「お、面白くなんかありませんよ!先輩服着てくださいよ!!風邪引きますよ!」
「私が風邪など引くものか。そんな弱い体などしておらんわ」
そこで救世主月詠が居間に入ってきた。今度は浴衣だ。月詠に浴衣というものはぴったりだ。現に洸汰は見惚れている。
「月詠、人間は女の裸を見ると背を向けるものなのか?」
「どうでしょうね、それは人によるけど大方の人は背を向けるものではないでしょうか。」
よく分からんな、それだけ言って忌羅は再び部屋に戻っていった。見惚れていた洸汰ははっとなり、立ち上がった。月詠は苦笑し、頭を下げた。
「ごめんなさいね、忌羅は少し抜けてるところがあるから……」
「い、いえ……大丈夫です。お似合い、ですね。着物。」
なんとか言葉を区切って褒めることが出来た。特に意味はないのだが、洸汰は美しいものを褒めたかった。月詠は笑って返す。
「洸汰君、忌羅との練習はどうだったかしら?」
「駄目でした。掠りもしなかった……忌羅先輩の凄味ってのがよく分かります。」
中学時代、体育の一環で剣道をやったことがあるが手本となった教師や生徒でさえも忌羅のような動きはしなかった。洸汰が弱いだけかもしれないが。
「忌羅の凄味ね、彼女が本物を使えばもっと分かるでしょうね。」
「本物って……剣のことですか?」
「えぇ、剣の腕で忌羅に勝てる人なんてこの学園にはいないでしょう。」
なるほど、生徒会長である月詠が断言するほどの実力を持つ忌羅だ。剣道部が欲しがる人材としてこれ以上の者はいないということだ。剣に関しては素人の洸汰はよく分からないが、やはり凄いということなのだろう。
「そういえば、まだ皆のこと話していませんでしたね。そうですよ、洸汰君だって生徒会ですものね。」
「皆のこと?」
「そう、この幻想学園にいる『普通の人間』は貴方一人。それ以外は皆、種族が違ったり能力があるのです。それは勿論、私達もです。」
幻想学園に存在する普通の、『何の力も持たない存在』はただ一人。結崎洸汰だけだ。逆を言えば他の生徒は皆『何かの力を持つ人ではない存在』なのだ。そう、それは生徒会のメンバーにも言える。
「まず私ですが、『月詠』と呼ばれる神の種族です。」
「…………はい?」
突然この女性は何を言い出すのだろうか。あの『神』?
「貴方もテレビで見ませんか?日本という国は妖怪、超能力者、妖術師、神と言った種族が盛んですが……。」
「そ、それは俺も知っていますが……」
この世界の種族は大きく4つに分けられる。1つ、犬や猫と言った『動物種』。2つ、ドラゴンやユニコーン、妖怪などの想像上だったはずの生物『幻種』。3つ、人やエルフ、魔女と言った基準となる『ヒト』の形をした『人種』。4つ、これら3つのどれにも属さない『神』。
『神』とは神話に登場するような何かを作ったり司るなどの力を持った種族のことだ。
目の前にいる女性はその『神』を名乗っている。
「『神』と言いましても私に『祖』のような力はありません。えぇっと、神と言うのにも『一族』と言うものがありまして、私は『月詠』と分類される神の一族なのです。」
「は、はぁ……とりあえず月詠先輩が神様なのは分かりました。」
この程度はこの世界での常識だ。詳しいことまでは洸汰も知らないが。
「それで、次に忌羅ですが。彼女も私と同じ『神』に分類されます。『建御雷』と言われる一族です。」
また神か、洸汰の周りには神が多いものだ。
「最後にロキ、彼も『神』。『邪神』に分類される『ニャルラトホテップ』の一族ですね。」
もはや突っ込まない。
『邪神』とは神と敵対する神、天使と悪魔のようなものだ。しかしロキは忌羅や月詠と仲が良さそうに見える。
「私や忌羅は種族をあまり気にしないから。ロキは良い人だし、生徒会には欠かせない存在です。」
「その通り。ロキは我々、特に私には欠かせぬ存在だ。」
今度こそ着替えてきた忌羅。月詠と同じく何も特徴のない黄色の帯の着物。しかし人外れた美貌の彼女が着ればブランド品にも見える。
「人間、荷物運びご苦労。もう帰っていいぞ。」
あれ?先ほど座れと言いませんでしたか先輩。
「人間はこういう時、こう言うらしいな。あれは嘘だ。」
とんだ我侭神様である。
「さっきは忌羅がごめんなさいね、あの子何も考えないで行動するときがあるから……。」
女子寮玄関前で月詠は洸汰に頭を下げた。ちなみに周りに女子生徒がいるので非常に目線が痛い。早く帰りたい。
「いえいえ、俺の方こそ…………はい。」
言葉が見つからなかった。視線に耐えられないので洸汰は月詠に就寝の挨拶をして、その場から逃げるように走り出した。目指すは男子寮。全速力で走った。
男子寮の自分の部屋に入るなり、玄関に靴があった。誰かいる、まさか泥棒だろうか。玄関に掛けてあった傘を構えて居間に突入した。
「よぉ、お疲れさん。」
ロキがいた。傘を玄関に戻し、ため息を吐いた。
何故いるのか、質問しようと口を開いたがロキの言葉が遮った。
「俺お前と同じ部屋になった。夜露死苦。」
何故と聞こうとしたが、これもまた先越された。
「生徒会に入ったお前は狙われるからな、護衛かな。安心しろ、学校長の許可は取ってある。それに学年の違う生徒が同じ部屋になるのはよくあることだ。怪しまれることじゃない。」
頭痛がしてきた。そうですか、と短く返し洸汰は寝室へと向かった。もはや明日の予習をする気も起きない。
ベッドに倒れるように飛び込んだ。睡魔はすぐに洸汰を深い眠りへと誘うのであった。
バンッ!!!銃の発砲音のような音が鳴り響いた。深い眠りに落ちていた洸汰は一瞬で目覚めベッドから跳ね起きた。目覚めたばかりの洸汰の鼻腔に漂うのは血と火薬の匂い。ぼやける視界、目を擦って周りを確認した。
洸汰のベッドの下に獣人が倒れていた。頭から血を流して。
悲鳴を上げてベッドから転げ落ちた。悲鳴が途切れて苦悶の声に変わる。
「ったく、これだから夜中の襲撃は嫌なんだよ。処理が面倒じゃねぇか。」
ドアを開けて右手に拳銃を持ったロキが呟いた。銃口からは煙が立っている。苦痛と驚きのあまり声が出ない洸汰を見て、彼は説明してくれた。
「獣人の襲撃だ。良かったな、この部屋防音なんだぜ。爆発して隣にはまったく響かない。」
銃をしまい、ロキは洸汰に手を貸した。立ち上がり、死体を見ないように部屋を出た。
「大丈夫か?顔色悪いぜ。やっぱ見慣れないとキツいもんだな。」
「せ、先輩は大丈夫なんですか…………。」
洗面所でリバースを終えた後、居間でロキが死体の処理をするまで待った。ロキは案外すぐに戻ってきた。あの死体はどうしたのだろうかと聞くと、知らないほうがいいと言われた。
「俺は慣れた。慣れないとこの生徒会はやっていけない。」
ロキが気を使って出してくれた炭酸飲料も、今は飲む気がしなかった。
「キツいなら辞めた方が良い。元々こんな重荷人間には向いてないんだ。」
ロキの言う通りだ。何の力も持たない洸汰には常に誰かに命を狙われる生徒会は向いていないだろう。
「ロキ先輩は、どうして生徒会に?」
ふと、言葉が出た。ロキは視線を手元に落とし、過去を思い出すかのように目を閉じ、開いた。
「俺は、生徒会にいることが楽しいからだよ。スリル満点だろ?世界中、こんな楽しい所探してもねぇよ。」
「命に関わるのに、ですか?」
視線を上げてロキは天井を仰いだ。
「あぁ。元々居場所のない奴が誘われた生徒会だ、どこで死んでも変わりないさ。」
居場所のない奴、それはロキや忌羅のことだろうか。
「そうだ。この辺のことは知らなくていいけどな。まぁ、俺と忌羅は家族やクラスにいるときよりも生徒会にいる方が楽しいし。まだ死ぬ気はないけどな。」
上げた視線を落として洸汰を見た。
洸汰としては生徒会は危険だ、いつ死んでもおかしくはない。自分の命は大切だ。しかし何か違う。ここにいなければならない、そう頭のどこかで別の自分が囁いた気がした。アクシデントの連続で気でもおかしくなったのだろうか、自虐の笑みが漏れた。ロキが首を傾げ洸汰の笑みの意味を聞くが、なんでもないですと返す。
「それで、どうするんだ?月詠には俺から言っておいてやるけど?」
「いいえ、生徒会にはいます。」
何故、と聞かれた。自分でも理由がイマイチ分からない。人外だらけのこの学園でまともに会話の出来る、頼れる先輩達がいる生徒会。離れるにはまだ惜しいと感じたのかもしれない。彼らと過ごしたこの数日を無駄にしたくないだけかもしれない。
結局答えは見つからず、洸汰は笑って答えた。
「生徒会にいることが楽しいから、じゃ駄目ですかね?」
生意気な後輩だ、ロキも笑って返してくれた。
どうもサイトゥーです。
不定期更新ですが更新していくつもりです。
感想等をお待ちしております