第3話 私ってヤツは……
買い物袋を両手に提げて帰宅した私は、まず手洗いとうがいを済ませ部屋着に着替える。冷凍してあるご飯を電子レンジで解凍しながら、袋の中身を手早く冷蔵庫へ移す。
買ってきた野菜を切り始めた頃に電子レンジがピピピと鳴くので、ご飯を取り出す。熱したフライパンへ油を引き卵を割りいれて混ぜながら、解凍したご飯を投下。粗く刻んだ具材も一緒に炒めて、最後に塩とコショウで味付けをして完成。
「うーん。おいしい」
自分で作ると自分好みの味に出来るので、実にいい。お母さんが作ると、具はもっと小さいし味付けも濃すぎる。私は具は大きく、濃すぎない味付けが好きなのだが、お母さんは私の好みなんてどうでもよくて、お父さんが好きなように作る。齢四十六にして高血圧と糖尿病の予備軍と診断されるのは、半分はお母さんのせいなのではないだろうか。一家の大黒柱がいつも機嫌よく食事をしているのは実にいいことかもしれないが、特に運動しているわけでもないので、少しは健康に気を遣ったほうがいいと思う。
お昼ごはんを食べて後片付けを済ますと、お母さんにメールで冷蔵庫の中身を買い足しておいたことを伝える。もうやることがなくなってしまった。掃除はお母さんの趣味なので、これをやると怒られるからしない。高校生がこんな時間から出歩いてるのもおかしいから、家からは出られないし、折角一人なのだからリビングで問題集を広げるのもいいかもしれない。
「ただいまー」
「あ、おかえりー」
お母さんが帰ってきた。時計を見ると五時半。
「ゆうちゃん、お家に引きこもってばかりいないで、お友達と遊んできたらいいのに。そりゃ、お勉強するのはいいことだけど、お母さん、ちょっと心配よ?」
「そんなに心配しないでよ」
「ちょっとゆうちゃん……」
勉強道具を全て引っつかみ部屋に戻る。ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。
なんでお母さんにまでこんな対応しかできないんだろう。できなくなってしまったのだろう。
「ゆうちゃーん。ご飯よー」
「はーい」
周りが暗くなっていたことにも気付かないほどに集中していたらしい。部屋から出ると、最近LEDになった電気の光が眩しく感じた。思わず目をパチクリしていると、お母さんに「大丈夫?」なんて聞かれたが、軽く頷くだけでそっけなく返してしまった。まただよ……私ってヤツは……。
同時投稿『キミトマドウ;山口裕紀編』もよろしくお願いします。