第2話 う、うん……よろしく
全員の自己紹介が終わってチャイムが鳴ると、先生は一旦職員室に戻った。どうやら配布プリントがあるらしい。私は特にやることがないので、朝の続きで問題集をやることにする。
「深谷さん、よろしくね」
「う、うん……よろしく」
びっくりした~。まさか話しかけられるなんて思ってもみなかった。去年はそんなこと一度もなかったから。
「深谷さん、さ、朝もやってたけど、もしかして春休みの課題終わらなかったの? 良かったら見せたげよっか?」
「いいよ。とっくに終わってるから」
あ、なんかイヤそうな顔してる。そっけなかったよね、ごめん。私はそういうのが苦手なんだ。悪気があるわけじゃないから、そんな顔しないでもらいたいな。そんなことを思ってるだけじゃ相手には伝わらないのも、分かってるんだけど、人には得手不得手というものがある。こればっかりはしょうがない。そんな言い訳もダメだってことも、ちゃんと分かってる。
先生が教室に戻ってくると、ちょうどチャイムが鳴った。起立、礼。今度はあの寝ていた山口君も、先生の邪魔はしなかったみたい。よし、そのまま起きていなさい。
今度の時間は委員会を決めることになった。去年は美化委員会で、学校の隅から隅まで掃除ができるのが楽しかった。普通の生徒が入れない、立ち入り禁止エリアまで入って掃除をしたときには、なんかものすごいワクワク感があって緊張したなぁ。よし、また美化委員会を希望しよう。
「……文化祭実行委員会」
黒板に書かれた文字は『山口裕紀』。アイツは文化祭実行委員会なのか。
「……美化委員会」
ビシッと手を上げるのは私と、もう一人は去年の委員会の集まりのときでも見かけた男子生徒だった。よし、よし! やることを分かってる人が一緒ならば、仕事も早いはずだ。大いに期待することにしよう。
そのあとは特になにもないらしく、田中先生の判断で解散となった。「山口君!」という大声が階段の前まで聞こえていたので、また寝ていたんだろう。寝るのが趣味って言っていたし、本当にふざけたヤツだと思う。
時間はまだお昼くらい。家に帰っても今日は誰もいないから自分で用意しなきゃならないから、どこか適当なお店で食べていこうかな。でも、昼間っから高校生がそこら辺のお店に入っても、変な目で見られるかもしれない。
そんな視線は絶対に耐えられないので、結局、寄り道せずに家へ帰ることにする。
……あ、冷蔵庫の中身、あんまりないんだった。どっちみちスーパーに入るならどこかのお店に入ればよかった、なんて少しだけ後悔しつつ、今日のお昼はお冷ご飯を消費するために、野菜たっぷりのチャーハンでも作ろうと決意した。
同時投稿『キミトマドウ;山口裕紀編』もよろしくお願いします。