第14話 戻った方がいいんじゃないかな?
山口君が倒れてから、みんなの目が変わった。なんていうか、こう、ギラギラした感じ?
「山口が倒れた、が、幸いリレーはまだ先。今は一進一退だ。万が一のときは頼むぞ。みんなも、一層頑張ろう!」
「おう。一応近くなってきたらアップ始めるよ」
「山口の分までやってやるぞー!」
男子のクラス委員が補欠の選手に声を掛けて、ほかのみんなにも声を掛けていく。もう自分の種目が終わった人にも、一人一人、応援に力を入れるように周ってきた。
「で、あなたはいつまでここに?」
「うーん、終わるまでいていい? 青の応援してあげるからさ」
そうか、みんなに声を掛けて周っていたのはカモフラージュで、本題は美紗か。
「いや、戻った方がいいんじゃないかな?」
「妹の恋敵とはいえ、それ以前に私の親友。いやぁ、この展開は燃えるよ」
「え、深谷ちゃんて気になってる人いるの? だれだれ?」
「……なんか複雑な事情があるのは分かったけど、戻らないの?」
私にいらぬ嫌疑をかけるなら、力ずくでも引っ張っていいかなくてはならない。なぜ私が山口君に恋している設定なのか、あとで問いただそう。そして野次馬女子、お願いだからそういうの広めないでください……。
そんなこんなで、結局美紗はそのまま居座り続け、私たち青組みは二位の白組を大きく引き離し体育祭終盤。いよいよ二年生の男女混合リレーが近づいてきた。
「おー山口! もう平気なのか?」
「ああ、心配かけてすまない」
もうすぐ集合のアナウンスが流れるといったところで、ようやく山口君が戻ってきた。みんな「おかえり!」「もういいの?」など思い思いに声を掛けている。もちろん、私もみんなに混ざって「大丈夫?」と声を掛けた。ちょっと離れたところで美紗が笑っているように見えるが、気にしないことにしよう。
リレーに出る選手は集合場所へと移動していって、待機場所は一旦静かになった。今走っている一年生は、赤、青、黄、白の順。このままいけば、青の優勝に王手がかかる。さあ、あと少し、精一杯応援しましょう。
同時投稿『キミトマドウ;山口裕紀編』もよろしくお願いします。