第13話 残念だったね
五月最後の日曜日。天気は快晴、絶好の体育祭日和。気温は三十度に迫ろうかというほどの暑さ。過去何番目かに暑いとかで、今朝のニュースを賑わわせていた。
本日は晴天に恵まれて……なんて校長先生の挨拶は、だんだんと緊張感が高まってきているせいで、あまりよく聞こえていなかった。「くれぐれも怪我には注意して」とか「熱中症にならないように」聞こえた気がしたので、そこはきちんと気をつけようと思います。
「おーい、山口ー! 並べよー!」
散々だった私の出番が終わり、クラスの待機場所に戻ってくると、ほとんど入れ替わりで山口君が次種目参加者の待機場所へと歩いていく。なんだか少しふらついているような気がするが、どうせまた直前まで寝ていたか、寝ていなくてもウトウトはしていたのだろうと思って、ブレないヤツだと感心してしまった。
「あ、優子おかえり。残念だったね」
「ホントにねー。なんでほかのクラスは足の速い子出てくるかなぁ……って、なんで美紗がここいいるのよ」
「ん、ちょっと偵察?」
他のクラスメートたちもようやく気が付いたらしく、「誰?」と目で訴えかけてくる人もいる。
「え、私? 三組の美紗です」
美紗のクラスを聞いて少し動揺したのが数名。私の親友がお騒がせしています。
「あれ山口君って言ったっけ? 速いね……」
「え?」
いつの間にか山口君の順番が回ってきていて、少し後ろからどんどん抜いていき、二位でゴールした瞬間、みんな一斉に立ち上がって歓喜の声を上げていた。もちろん、私も自然とそれに倣っていた。
「お疲れさん! お前ホント足速いよな。一秒以上遅れたか?」
山口君が戻ってくると、みんな一斉に労いの言葉をかけたが、当の本人は大層疲れきったようにぐったりしている。
「そんなはずはないだろう。朦朧としてたからよく分からないけど。とりあえずおやすみ」
「おい、寝るな! 保健委員! 運ぶの手伝え!」
それからようやく搾り出すように一言呟くと、そのままばったりと倒れてしまった。戻ってきた人によると、暑さと眠気が原因だろうとのことだ。
同時投稿『キミトマドウ;山口裕紀編』もよろしくお願いします。