第1話 よしっ、一番乗り!
自作短編『窓を開けて……』より彼女<<深谷優子>>の視点からお送りする一年間の物語です。
『キミトマドウ;山口裕紀編』もよろしくお願いします。
「えーっと、B組B組っと……」
時間は朝八時前。私は『2B』のプレートを探しながら校内を回っている。
初日はどこに何年何組があるのか、自分の足で全て確かめる。紙で配られる見取り図だけでは信用できないのだ。
「あったあった。まだ八時ね。よしっ、一番乗り!」
ガラッと教室の戸を開け中を見渡すと……窓側後ろから二番目。既に寝ている男子生徒がいるじゃない。折角一番だと思ったのに。そう思いつつ、黒板に貼られた名簿を見る。ええと、『山口裕紀』読み方は『ヤマグチヒロキ』ね。まあいいや、起こさないように問題集でもやっていよう。
問題集に集中していると、いつのまにか時間が経っていたらしい。担任の女性教師、田中先生が教室に入ってきた。そこで私は問題集を机にしまい、先生の号令を待った。
「起立。……起立! ……ええと、山口君。山口裕紀君!」
どうやら今まで寝ていたらしい。私の新学期一番乗りを取っておいて、その上寝ているなんていい度胸じゃない。今に見てなさい。そんな決意を固めていると、ガタッと立ち上がる音が聞こえた。礼の号令の後、先生はまたムッとした顔をする。
「ねえ山口君。今日が新学期初日なわけだけど、どうしてそんなにやる気なさそうなのかな?」
後ろを見ていないのでどうしたのかは分からないけど、先生はムスッとした表情のまま話を続けた。
話が一段落すると自己紹介に時間を割かれた。まず、先生の名前は田中幸絵。担当は世界史。そのあと、出席番号一番の浅井さんから順に自己紹介をしていく。私の席は六席掛ける六席の並びで、窓側から二列目の一番前。すなわち二十五番である。
「深谷優子です。絵は苦手なので、美術のときにあんまりジロジロ見ないで下さいよ? 一年間よろしくおねがいします」
自己紹介もあと十一人。そういえばアイツは一体何を言うのかしら?」
「山口裕紀です。勉強はそれなり。趣味は寝ること。以上です」
え、それだけ? この私に期待させておいてたったそれだけ?
彼が座ると、最後の渡内くんがガタっと音を立てて立ち上がり、野球部らしいよく聞こえる太い声で自分のことを語り始めた。ショックを受けていた私は、その話を半分も聞いていなかったけど。
同時投稿『キミトマドウ;山口裕紀編』もよろしくお願いします。