ロザリー 7
約二週間ぶりに会ったクライブに、やっぱり胸は痛んだ。
彼が私を「特別」扱いしてくれていたのは、家族としてだとわかっていたけれど、彼の愛情と私の恋心があれば、穏やかで素敵な家庭を築けるんじゃないかと思っていた。
数か月前までは近かった夢。今では叶わないとわかっている、夢。
私は化粧台の椅子に座って、二人が出てくるのを待った。クライブはアオイを説得できるだろうか。昨夜のことで、彼女の足かせを一つ外すことはできたが、一番の障害である客という事実は変えようがない。
今できなくても、教会まで追いかけそう。
先ほどのクライブの様子から、そんなことを思う。あれほど必死になっている彼は見たことがなかった。もとより行動力も知性もある。そこに情熱が加われば、どんなことでもやり遂げそうな気がした。
とりとめのない物思いにふけっていると、アオイの部屋の扉が大きく開いた。肩を寄せ合う二人に、どうやら成功したようだと安堵した。
「ありがとう、ロザリー君のおかげだ」
「私の協力がなくても、お兄様ならこうしていたわ」
「ああ、君はまったく、いい妹だよ」
胸が痛い。でも、もう少しだけ我慢。
逃亡は入ってきたとき同様、窓からだ。片腕でアオイを支えて、クライブはロープを掴んだ。アオイにも握るように促している。
「幸せな便りが届く日を待っているわ」
大丈夫だ。笑えた。二人も微笑返してくれている。
「ありがとう」
「いつか必ず。約束するよ」
クライブが身を乗り出して、私の額に口づけた。
「君も幸せに、ロザリー」
「……お兄様も」
胸が痛い。
アオイは恋人の腕に抱かれて幸福そうだ。そう、これでいい。
二人はゆっくりとロープを伝った。やがて地面に降り立つと、こちらを見上げて大きく手を振る。新月の夜だ。もう、顔までは見えない。私はロープを引っ張り上げて回収した。手を取り合って走る背中も、もう、見えない。
胸が痛い。もういいだろう。
両目から涙があふれ出した。脱力した私は、そのままぺたんと床に座り込んだ。
腕を上げることもできない。でも、構わない。顔を覆う必要なんてない。すべて新月の闇に消える。
さようなら、クライブ。