不死身
鬱。
※注・グロあり!苦手な方は避けて下さい
あるところに、不死身の少年がいた。
傷がついてもすぐ塞がり、車に轢かれても死ぬことがない、正真正銘の不死身だ。
不死身な少年は、孤独だった。
不死身は珍しい体質。科学者には実験体にされ、何回も殺されたし、色々なことをされた。
家が貧乏だったこともある。つまり、売られたのだ。
しかし運が良かったのか、お金持ちの家が引き取ってくれた。少年は感謝し、一生懸命仕事をした。
広い屋敷を掃除して、料理をして、ベットメイクもして、ご主人の身の回りを甲斐甲斐しく世話した。メイドのようだった。
ご主人は喜び、少年を学校に通わせた。少年は遠慮したが、ご主人が行け、と命令したのだから仕方がない。
実は少年も憧れていた。学校という場所に。
刃物で刺され、薬物を注射され、電気を流され、血液を採取され、何度も何度も殺された研究所での暮らしを思い出す。あの時夢見た、普通の暮らし。それに一歩、近づけた気がした。
少年は意気込んで学校に行った。
友達ができるのかな。勉強についていけるかな。
不安と期待が混ざり合った気持ちで、少年は教室に入った。
クラスメートは珍しい転校生に興味津々で、少年を暖かく迎えた。
それから、楽しい時間が過ぎた。
友達は沢山できた。少年は努力家で、勉強も必死で取り組み、先生にも褒められた。
ご主人も喜んだ。妻はいるが子宝に恵まれないので、少年は二人にとっては本当の子供のような存在だった。
だがある日、事件は起こる。
少年は数人の友達とサッカーをしていた。ボールを蹴って、蹴り返して、蹴り飛ばしてしまった。遠く転がっていったボールは車道を超え、向いの芝生に紛れてしまった。
少年はたまたま車道側にいて、すぐにボール目指して走った。友達が「危ない!」と叫んだ気がした時には、
自分は宙を待っていた。
車が走り去るのが見えた。多分僕は、轢かれたのだろう。左側から轢かれたから、左腕と肋骨が折れて内蔵が潰れている。これくらいなら、平気だ。少年はそう推測し、痛みを堪えながらも叫びは上げず、目を閉じた。
頭から地面に落ちて、頭蓋骨が割れた。少年は意識を失った。
友達は非常事態に慌てふためいた。救急車か警察か、それとも親を呼ぶか、とにかくどうすればいいかわからず、とりあえず少年を安全な場所まで移動させた。
公園のベンチに少年を横たえる。ぐったりしているし、揺すっても叩いてもどうにもならない。それに、頭から血が出ている。
なぁどうする?死んじゃったの?友達が少年を囲んでどうするか決めあぐねていたとき、少年の意識が戻った。
不死身なのだから死ぬはずがない。左腕の骨と肋骨は修復し、内蔵も回復。頭の傷も塞がって、気絶からも覚めた。
それは少年にとっては普通のことだったが、まわりの友達からすれば異常だ。死んだはずの少年が、起き上がってボールを探しているし、変に曲がっていた腕も元通りだ。
異常、非日常は、恐怖に繋がる。友達は叫びながら少年から逃げた。家に帰ると親にそれを報告し、親は学校に連絡し、学校は少年の親を糾弾した。
次の日から、少年は孤独に戻った。
昨日までの友達は少年を無視し、優しかった先生すらどこかよそよそしい。そして皆が少年を見る目は、化け物を見る目になっていた。
少年のショックは大きかった。学校へ通っても、空虚な時間が過ぎるだけ。それどころか、虐められるようにもなってしまった。
いくら殴っても痣にならず、例え死ぬようなことをしても証拠は残らない。格好の対象だ。いじめっ子達は調子に乗って、少年を何度も川へ突き落とした。
そして少年は、ついに家に引きこもった。
ご主人は嘆いたが、こうなることも予想はしていた。静かに見守ることしかできない。
少年は孤独を紛らわすために、沢山の人形を作った。しかしそれは、所詮人形。すぐに孤独に襲われ、生きる意味も失い、死のうと考えた。
手首を切った。首を吊った。毒薬を飲んだ。高い場所から飛び降りた。車に自ら轢かれた。
だが、死ねなかった。当然、少年は不死身なのだから。
何度も死んで、死ねないことを理解した少年は、ただ虚ろに引きこもった。なにもせず、なにも考えず、食事をとることもせず。
その状態は、一番『死』に近かったかもしれない。
見かねたご主人は、ある場所に連絡をとった。ご主人の手に持て余す少年を、回収してもらうために。
ベッドに横たわる少年は、久しぶりに開いた部屋の扉の外から聞こえた言葉に、飛び上がって喜んだ。
「久しぶりだね、不死身くん。国の研究機関の者だよ。おぼえているかな?」
「当然だよ!あなた達を忘れた日は、悪い意味でも良い意味でも、一度もない!」
「……なぜ、そんなに喜んでいる?これからキミは、実験体として殺されたり、解剖されたりするんだぞ?」「なんで喜んでるかって?わからないの?」
「ああ、狂ってるようにしか見えないな」
「じゃあ、教えてあげるよ。だってあそこに行けば、僕を必要としてくれる人が、沢山いるじゃないか!」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい