悪役令嬢たちの物騒な女子会 ~婚約破棄した王太子の末路が毎回ひどいんです~ ①
「公爵令嬢エレクシア、貴様のような陰気な女との婚約は――今この場で破棄する!」
王城大広間に、王太子の怒声が轟いた。
「フフフ……よかろう、
ならば……死ぬがよい!」
エレクシアの背後の空間が、ぐにゃりと歪む。
漆黒の闘気が爆ぜ、床石が音もなく崩壊する。
「覇天日輪究極奥義――日輪滅股殺蹴!」
エレクシアの白磁のように滑らかで、彫像のように美しい脚が閃いた。
次の瞬間、王太子の下腹部に日輪の如き光が炸裂する。
「ぐおおお!余の股間が、燃え盛る太陽のように熱いイイイイイ!」
王太子の身体が灼熱に包まれる。
恒星の如き熱量が解き放たれ、その存在は光の中で焼かれていく。
元勇者であり歴代最強と謳われた王太子は、燃やし尽くされながらも笑みを浮かべた。
そこにあったのは強者への敬の念。
「み、見事だ……エレクシア。甘さを捨てきれなかった貴様が、まさか、魔王すら退けた勇者を一撃で葬るとは……」
エレクシアは振り返らない。
「執念。それが我を覇王へと変えたのだ」
死の間際――好敵手は最後に彼女を見た。
「エレクシア……フフッ、俺ごときの……勝てる相手ではなかった……貴様こそ真の覇王よ……」
「ぐばあ!!」
言い終えるや否や、王太子の肉体は日輪の灼熱に焼き尽くされ、やがて灰となって崩れ落ちた。
その灰さえも熱風に巻き上げられ、跡形もなく消え去る。
――完。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「と、こんな感じでどうだろうか。我ながら素晴らしい出来だと思う」
エレクシアは誇らしげに胸を張った。
「王太子殿あそこを焼かれて逝ったーー!!
肉片の欠片も残らず文字通り燃え尽きたでござる!!」
マーガレットは扇を広げ、目を見開いた。
「いと恐ろし!いと理不尽!」
「いや、婚約破棄なんぞするやつだからな、自業自得だろう」
「さすがはエレクシア様。王太子如き汚物にも、人としての尊厳ある最期を与えるとは……」
四天王セラフィーナが、不敵に笑った。
「ニホンの神々が刺激を求めるのならば、次は私が作ってみましょう」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「セラフィーナ、陰気な貴様との婚約を破……なっ!?」
王太子がそう言い終わる直前。
空が軋み、数千の鋼鉄の槍が顕現した。
それらが王太子の身体を、雨のように、容赦なく貫く。
「ぐぼぁっ……!」
鮮血が舞う。
だがセラフィーナは前へ歩み寄る。
「下衆よ、冥府へ逝く前に問いましょう」
槍に貫かれながらも、なお立つ王太子へ、セラフィーナが問いかけた。
「漢の生き様とは、なんぞや?」
王太子は血を吐きながら、笑った。
「女か……フッ、女など顔が美しければそれでよい……」
「ぎゃびいっ!」
槍が一斉に唸る。
無様にも王太子の身体は千片に裂断された。
細切れの肉片が、音もなく地に落ちる。
セラフィーナは背を向ける。
「愚か者め」
風が黒髪を揺らす。
「漢の生き様とは――
退かず、媚びず、俯かぬこと」
セラフィーナがそう言い終えた瞬間、王太子の汚らわしい残骸は、塵となって消えた。
――完。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ウヒイイイ!王太子殿また逝ったーー!!」
「今度は裂断されて残骸すら残らず塵になったでござる!?」
マーガレットは額を押さえた。
エレクシアは腕を組み、うむと頷く。
「しかし、なるほどな。こうして物語を作ってみると……マーガレットの申していた“ニホン”とやらに住まう神々が、なぜこのような話を好むのか、少し理解できる」
マーガレットはぴくりと肩を震わせた。
「神々……と申されましても、上位次元よりこの世界を観測しておる方々にて候」
「ゆえに、この世界では“婚約破棄される令嬢”が量産されるのでござる」
「ニホンの方々が、それを好むゆえに」
「フフフ……迷惑な神々だな」
エレクシアは脚を組み直した。
白磁のような脚がちらりと覗き、
ハイヒールの鋭い踵が、怪しく光った。
「よかろう」
「しかしだ、婚約破棄をするような無礼な下郎に対し、軽快に“ざまぁ”を叩き込む。
これは確かに、スカッとする」
「そうですね。理不尽に捨てられし側が、圧倒的力で逆転する。それがざまぁ。
短く、強く、わかりやすいゆえに流行る、と」
セラフィーナが淡々と分析する。
「オレにも作らせてくれ。実はオレも生前は日本で生活していた記憶が朧気ながらあるんだ」
醜姫ブス・グロリアがニヤリと笑う。
「婚約破棄ものは……そこそこ読んだからな」
「ほお、それは楽しみだ。では醜姫よ、元ニホンジンの腕前、見せてもらおうではないか」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ブス・グロリア! 醜い貴様との婚約を――今この場で破棄する!」
王城大広間に、王太子の高笑いが響き渡った。
「そうよそうよー! あんたみたいな醜女、視界に入るだけで気分悪いわ!」
令嬢が扇で口元を隠し、くすくすと嗤う。
ざわめき。 嘲笑。 憐憫。
グロリアはうつむいた。
ぽたり、と涙が大理石の床に落ちる。
会場は誰一人として彼女を庇わない。
「……はい。私は醜い醜女です」
満足げに頷く王太子。
「ようやく自覚したか。安心しろ、代わりにこの美しいマリアンヌを妃に迎える」
隣のマリアンヌが、誇らしげに胸を張る。
そのとき。
――轟音。
大扉が内側へ弾け飛んだ。
砂煙の中から、日輪のように輝く赤金の軍装を纏う青年が歩み出る。
「ブス・グロリア」
低く、甘く、しかし王の威圧を宿した声。
隣国の若き皇帝にして覇王――エレクシアン。
月光を宿す銀髪。 星を砕いたかのごときルビーの瞳。 見る者すべてを黙らせる、圧倒的な美。
会場が静止する。
「な、なぜ覇天帝国の皇帝がここに!?」
王太子の声が裏返る。
エレクシアンは歩み寄り、膝をついた。
そして――
グロリアの手を取る。
「やっと見つけた。私の愛しい人よ」
「ブス・グロリア。私と結婚してくれ」
「なにぃぃぃ!?」
王太子の顔が歪む。
「私は……見ての通り醜女。あなたに釣り合うわけがありません」
覇帝エレクシアンは微笑んだ。
「外見など関係ない」
その瞳は、揺るがない。
「我は、そなたの愛が欲しい」
――瞬間。
天井から光が降り注ぐ。
ブス・グロリアの身体を纏っていた黒き呪紋が、ぱきり、と砕け散った。
光が収まり、そこに立っていたのは――
女神すら霞む、超絶の美女。
白金の髪に蒼き瞳。
まさしく聖女。
年老いた宰相が叫ぶ。
「おお!まさしく三百年に一度現れる聖女様」
会場が震える。
「う、嘘だ……」
先ほどまで笑っていた貴族たちが、次々と膝をつく。
マリアンヌは顔を引きつらせる。
「私は呪われていました」
聖女は静かに告げる。
「醜い姿に変えられる呪い。 それを解く唯一の方法は―― 醜い私を愛してくれる、真実の愛」
覇帝エレクシアンが聖女を抱きかかえる。
お姫様抱っこ。
「さあ聖女グロリア。我と共に行こう」
王太子は腰を抜かした。
「ま、待て……それは俺の婚約者だぞ!」
「違いますわ」
グロリアは初めて微笑む。
「あなたが先程捨てたでしょ」
言葉が、刃のように刺さる。
マリアンヌが急に覇帝エレクシアンへすり寄る。
「あ、あの……エレクシアン陛下。わたくしも――」
「貴様のような女に興味はない。我が愛する人は聖女グロリアのみ」
冷酷なまでの一刀両断に、会場に忍び笑いが広がる。
「王家は聖女を捨てたのか」 「なんという愚かさだ」
「この国は終わりだ」 「覇天帝国の属国に下ろう」
囁きが刃となる。
王太子の顔は真っ青。
「やめろ……やめろぉ……!」
「行こうか、愛しきブス皇后よ」
ブス聖女は頬を赤らめ、彼の首に腕を回した。
「ふふ……では陛下」
「どうかこの醜女を落とさないでくださいね」
「我は、前のそなたの顔も愛していたぞ」
「もう……陛下のいじわる」
グロリアはぷくっと頬を膨らませる。
「では今の私は?」
「どちらも我の愛するグロリアだ」
「……そんなこと言われたら、離れられません」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
王太子の絶叫が響く。
「ま、待て! それは私の――!」
二人は光に包まれ、消えた。
残されたのは、
膝をつき、すべてを失った王太子と、取り巻きすら離れていく新婚約者マリアンヌの姿。
遠くで祝福の鐘が鳴った。
――完
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ふう、今回は王太子殿は御存命でござるし、女子の好む甘味の如きTheざまぁでござるな」
マーガレットが額の汗を拭う。
「婚約破棄する者など砕け散ればいいと思うんだがな」
エレクシアが不満げに言う。
「しかし、それぞれの話に良いところがある」
「すべてまとめた話も、面白そうだな」
時計を見たセラフィーナが静かに言った。
「エレクシア様」
「夜も更けてまいりました。そろそろお休みの時間です」
エレクシアがふと窓を見る。
「……もうそんな時間か」
軽く肩をすくめた。
「続きはまた明日だな。今日は良い勉強になった」
マーガレットが伸びをする。
「では拙者も寝るとするでござる!」
醜姫ブス・グロリアが笑う。
「次はマーガレットの話も期待している」
エレクシアが立ち上がる。
「うむ。楽しみにしているぞ」
「……おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
「おやすみなされ」
そして四人はそれぞれ部屋へ戻っていき、物騒な女子会はお開きとなった。
――翌日、新たな婚約破棄が生まれる。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
成楼書房刊『実在した!世界滅殺拳法列伝 外伝』より
――日輪滅股殺蹴――
日輪覇滅掌の流れを汲むとされる、失伝した異端の奥義。
その起源は南方光覇宗の修行僧の一派にある。
彼らは日輪覇滅掌の修練において、
掌では耐えきれぬ太陽の闘気が存在することを知った。
そこで彼らが目をつけたのが――
人体で最も強靭な部位、脚である。
伝承によれば、ある高位修行僧が
「掌で受ければ骨が砕けるならば、脚で放てばよいではないか」
と喝破し、日輪の闘気を脚へと巡らせる秘法を編み出した。
こうして誕生したのが、
日輪の灼熱を一点に叩き込む禁断の蹴撃
――日輪滅股殺蹴である。
この技は、敵の下腹部(男にとっては急所)に日輪の闘気を集中させることで
全身の経絡を瞬時に焼き尽くすとされる。
古記録には次のように記されている。
「日輪覇滅掌が太陽そのものならば、
滅股殺蹴は太陽を一点に落とす流星である」
しかし威力があまりにも凄まじかったため、
修行僧たちはこの技を
「武人の誇りを砕く禁脚」
として封印したという。
なお、この技を完全に使いこなせた者は
史書によれば
「三名のみ」
とされている。
(成楼書房『世界滅殺拳法列伝・失われた奥義篇』より)
婚約破棄王太子をどう始末するか、キャッキャウフフ話し合うエレクシア
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。 もし少しでも面白いと感じていただけたら、 ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです^^
この短編集を一気読みしやすいようにした連載版。
☆★ 婚約破棄され系女子 ( 漢 ) の芸術的ざまぁ劇場。
こちらもよろしくお願いします。




