後編
剣と盾を持って闘技場の中心部へと赴く。
周囲をぐるりと囲む観客席はほとんどが埋まっていた。
普段と比べて明らかに人が多い。
一体どうしたのだろうと思っていたが、正面に立つ対戦相手を見て納得する。
銀色の鎧を着た剣士がそこにいた。
魔力を迸らせた剣を構えるのは金髪の美男子だ。
あの特徴的な装備は俺でも知っている。
聖騎士アイル――国内最強と名高い剣士であった。
(レゴリックさんが心配してた原因はこれか。そりゃ気にするよなぁ)
それにしても、なぜこんな場所に聖騎士がいるのか。
俺が不思議がっていると、向こうから話しかけてきた。
「やあ、君がニコルだね」
「あー……そうだけど」
「君の評判を聞いてね。気になって出場を志願したんだ!」
「まあ、その、期待するほどじゃないですよ。聖騎士様がわざわざ戦うような人間じゃないです」
「その判断は戦いの中で決めさせてもらう」
大地を蹴ったアイルがまっすぐ突進してくる。
剣の振り下ろしに伴い、噴き出す魔力が斬撃となって飛んできた。
(あーあ、容赦ないなぁ)
俺は後ずさりながら斬撃を躱す。
そして距離を詰めてきたアイルの攻撃を受け流し、軽く脛を蹴った。
驚いた様子のアイルが刺突を繰り出してきたので、ひょいと跳んで回避する。
俺はなるべく苦戦しているように見せかけて戦う。
実際はアイルを倒さないようにギリギリの手加減をしていた。
なぜなら、この男の剣技を盗むためだった。
俺には生まれつき祝福がある。
五感で覚えた技を瞬時に習得できる【模倣】の祝福だ。
成長性で言えば、歴史に名を残すほどの英雄になれる能力に違いない。
だがしかし、それは面倒なので俺は実力を隠していた。
剣闘士をダラダラと続けているのも、気楽に過ごせるからだ。
華やかな冒険なんてものは、目立つのが好きな連中にやらせておけばいい。
そんなことを考えながら聖騎士アイルの攻撃を捌くこと暫し。
僅かに息切れするアイルの目に、苛立ちと困惑、そして焦りが浮かび始めていた。
俺の実力に勘付き始めたのだろう。
(技はだいたい盗めたな)
俺は「おっとっと」と言って躓いたフリをした。
その勢いでアイルの懐に潜り込み、絶妙な角度から剣を突き出す。
刃はアイルの喉を貫いていた。
彼は驚愕した様子で崩れ落ちて息絶える。
突然の決着に観客席は静まり返る。
そして次の瞬間、爆発したような歓声で盛り上がった。
俺は耳を塞いで苦笑する。
(多少は注目を浴びるけど、まあこんなもんでいいだろ)
俺が控え室に戻ろうとしたその時、観客席から誰かが飛び降りてきた。
そいつは全力疾走でこっちまでやってくる。
よく観るとこの国の姫だった。
姫は俺をビシッと指差して命じる。
「あなた、勇者になりなさい!」
「……は?」
この日、俺の平穏な剣闘士生活が終了した。




