9:ミッション・トレーナー→イド→出来る事。
「ミション・トレーナー? 神様ギフトってこれ――」
輪廻転生課の天使が言ってた、神様から贈られたスキルってヤツ?
発言させられるかどうかは俺次第って言ってたけど。
「いったいどんなスキルなんだ、これ」
「クゥー?」
視界には今もメッセージが浮かんでいる。そこへ今度は、解析眼も加わった。
【ミッション・トレーナー:対象にミッションを与えることによって、クリア時に能力を底上げすることが出来る、指導系スキル】
【同種の効果を得られるミッションは、一日二一度しか行えない】
【スキル所持者には一切恩恵がない】
……え?
【スキル所持者には一切恩恵がない】
……え?
ま? 俺自身には恩恵がないぃー!?
な、なんで。え?
他人の能力アップだけ? 俺には何もなし?
「う、嘘だろ」
「クアァー?」
「いやあの……あ、お前にミッションを与えているのか。えっと、シドーと発音させる……」
「ドーッ」
なんだこの脱力感。スキルを手に入れたのに、俺は一切強化されないって。
俺にとっていったい何の得がある?
「ドー。ドォ」
「あ、ごめんごめん。そうだよな。お前とコミュニケーション取れるようになるなら、それはいいことだよな。よし、言葉の練習だ。シ・ドー。シィ」
「イ……ギィ……ド」
ギド。誰それ。
「シドーだ。シドー。シが難しいのかな」
ユタも一生懸命、シと発音しようとはしているが……。意外と難しそうだな、このミッション。
それにしても、マジかぁ。
「はぁ。そろそろ帰るか。レイアも戻って来てるかもしれないし。それに、獲物も手に入ったしな」
「クアァーッ。ド、イドー」
「イドじゃなくってシドー」
「イ……ィシ……シドーッ」
お!
ユタを見ると、本人も驚いたようにピョンと跳ねている。
「シドー! シドーシドーシドーシドシドシドドドド」
「待て待て待て。シドーだ。変な覚え方するんじゃないっ」
「シドー。チ、チ、ダメ」
え? こいつ、たった今シドーって言えるようになったのに、もう言葉を!?
ポォンと音がいて、またメッセージが浮かんだ。
【ミッションクリア。個体名『ユタ』の言語能力が向上した】
向上って、たった二文字言えるようになっただけで!?
何このゆるゆるミッション。
しかし「ち、ち、だめ」か。……ち……乳、ダメ?
え?
ユタ?
「チーッ、カーチャ、カーチャ、イル」
「え? カーチャ――母ちゃん? あっ。チって、血だったのか。つまり、血抜きするなって言いたかったのか?」
「クアァーッ」
「うわっ。ごめん、ごめんって。血抜きしきった訳じゃないから大丈夫だってっ」
そ、そうか。首を振っていたのはそういうことだったのか。
あぁー、言葉がわかってよかった。じゃなきゃ血抜きする気満々だったし。
「はぁ、ま、戻るか」
「クゥーッ」
教会の方へと歩き出すと、向こうから緑色の光球が飛んで来て、中からニーナが姿を現した。
『志導お兄ちゃん……ニーナ、大事なお話、あるですの』
「大事な話? どうしたんだい、ニーナ」
ニーナは少し俯き、目をぎゅっと閉じた。
『全部の魔導装置を稼働させることは……たぶん無理、ですの』
「え……無理って、どうして?」
『都市の……都市の魔導装置、暴走してる、みたいです』
「暴走って、え、まだ装置が生きてるのか!?」
『レイアお姉ちゃん、言ってた。地下の迷宮で、勇者召喚の魔導書見つかったって』
「あぁ、そんなこと言ってたね」
教会へと戻りながらニーナが話してくれた。
昨夜、姿を消したのはこの話をするべきかどうか迷ったからだそうだ。
そしてここにその話をするのは、何かを探すためにやって来たレイアを悲しませたくないからだと。
『その時……誰かが、変な風に、一部の装置を動かしたです、の』
「マジか。正しい扱い方も分からず、うっかり起動させたとかそういうのなのかな」
『ニーナも、よくはわからないです、の。ニーナはここから、動けないですから。でも、都市の魔導装置が暴走しているのは、わかったです。昨日、志導お兄ちゃんが起動してくれて、繋がったから』
「暴走って、どんな風に暴走しているかわかるかい?」
コクンと頷いたニーナは『侵入者、全員排除』と、このタイミングでは一番聞きたくない内容だった。
防衛システム的なものが暴走したのか。
クソ。厄介だな。
「その暴走を止める方法ってないのかな?」
『……ごめんなさい、なの。ニーナ、この町を守るのが役目だから、他の事、あんまり知らないですの。ごめんなさい……ごめんなさい』
ニーナはその場に蹲り、肩を震わせながら泣き始めた。
「ニーナは悪くない。悪いのはどさくさに紛れて、何かを盗んで行った連中だ」
『うっ。うっ。でも、レイアお姉ちゃんの探し物……』
「なんとかなるさ! な、俺には解析眼がある。解析して、暴走を止める方法を見つけよう。な?」
『志導、お兄ちゃん……』
「ニーナも手伝ってくれ。この町からだって、何か出来ることがあるはずだ」
ニーナは繋がったと言っていた。都市の魔導装置とどこかで繋がっているんだろう。
なら何かできるはずだ。
「さ、教会へ帰ろう。ユタが凄い獲物を捕まえたんだぞ」
『ユ、タ……ユタ、お手柄、なの?』
「クアァーッ」
「ユヤに栄養を取って貰わないと。そうだ、レイアは戻って来てるかな」
『レイア、お姉ちゃん……えっと……』
ん? なんか歯切れが悪いな。どうしたんだろう。
教会へと戻ってきた俺は、直ぐにレイアの名を呼んだ。
「レイア、戻って来たかい!?」
けど、そこに彼女の姿はなかった。
「ユラ。彼女、戻ってこなかった?」
そう尋ねたが、ユラは黙ったまま。
伏せた姿勢のまま、ユラは腕に抱えた猫の頭に手を乗せポンと叩く。
「大丈夫、よ、シドー。彼女、あとでちゃんと戻って、くるから。ね」
「ふにゃっ」
「そう、だといいけど……大丈夫かな」
ひとりで都市の方へ行ってなきゃいいけど。
ドラゴンが狩る獲物に乳はなく、男は逃がした魚を追い求める。
果たして男が求める乳は見つかるのか!?
ドラゴンの乳ではダメなのか!?
次回
【猫→レイア→解析。】は明日20:10更新!
絶対見てニャン♪




