7:事情→魔王→勇者。
「探し物? それが古代魔法王朝の都市部にあるってこと?」
「断定は出来ないんだけど、きっとあると思って」
オークの撃退に成功した俺たちは、レイアと連れて教会へと戻ってきた。
そこで彼女がアリューケにやってきた目的を話してくれた。
「その探し物って?」
「え……と、あの……」
レイアが視線を泳がせる。これは答えたくない、もしくは答えられないことなんだろう。
「いいよ、誰だって他人に言えないことだってあるし。んで、魔法王朝を目指しているってことは……近くなんだ?」
「あ、都市の場所は知らないのね。この町からだと――うん、小高い山があって見えないか。今は暗いから、その山も見えないと思うけど、北の方に山があってね。山の向こう側に都市があるの」
『ここから、最初の入り口まで歩くと半日、かかるの』
「ニーナ。周辺はどうだった?」
魔導装置がちゃんと機能してモンスターを追い払えているか見てくると言って、ニーナは俺たちが教会へ戻る途中で消えた。
『大丈夫だったの』
「そっか。確認、ありがとうな」
『はわわわわわわぁ』
撫でてやると、嬉しそうに目を閉じて頭を預けてくる。
「クッ。クアアァ」
「ちょ。なんでお前まで……あぁっもう仕方ないな」
ユタまでニーナの真似をして頭をすり寄せてくる。
「土地神様とユタドラゴンに好かれるなんて……らしい」
「ん? 何か言った、レイア」
「え? あ、ううん。でもよかった――すぅー、はぁー……ふぅ、空気が美味しい」
空気が……美味しい?
いや、確かに魔導装置が稼働して、魔素を浄化し始めているけど……正直言って、なんか鉄臭い。
ちょっと鼻に突くって程度だけど、気にすると余計に臭く感じる。
なのに彼女は、両手を広げ、ラジオ体操でもするかのように深呼吸している。
で、俺と目が合って、咳払いをした。
「んっ、んっ。し、志導くんは知らないんでしょうけど、ここは他所より空気が綺麗な方なのよ。土地神様がずっと守ってくださってた土地だから」
「他はもっと酷いのか……ん?」
「え? どうしたの、志導くん?」
志導くん……あ、いや、志導って自己紹介したんだし、そう呼ばれて当たり前なのか。
でも志導くん、か。風見さんも俺のこと、志導くんって呼んでたよな。
「なんでもないよ。そっか、魔導装置は起動したばかりだけど、三日ぐらいで綺麗になるそうだよ。な、ニーナ」
『ですの』
「そうなのね。よかった。ここまで来るの本当に大変だったから、二、三日は休むつもりだったの。空気が澄んでいる方が、疲れも取れやすいだろうし」
「大変だったって、汚染地域をどうやってここまで?」
「魔法よ。私のおばあちゃんね、司祭だったの。それで私も少しだけ、浄化の魔法が使えるから」
「ま、魔法!? 凄い……剣術も使えて魔法も。カッコいいなぁ」
しかも美人だし。
そこは口には出さなかったけど、彼女は照れたようにはにかんだ。
やっぱり、美人だ。
「見つかるといいね、探し物」
「うん、ありがとう。きっと迷宮にあると思うの。おじいちゃんもそう言ってたし」
「迷宮? あれ、都市じゃなかったのか?」
「都市よ。あ、そうね。志導くんは知らないんだもんね。えっと、古代魔法王朝の地下には、巨大な迷宮があるの。そこには魔法王朝創設時代からの古代遺産が眠ってて」
い、遺産!? 魔法王朝の遺産ってことは、やっぱり魔法に関するものだろうか?
魔導装置のこととかも、いろいろありそうだよな。
なんかワクワクするなぁ、遺産ってワードには。
「志導くんは知ってる? 魔王が倒されたのって、つい最近なの。十五年前なのよ」
「倒されたのは知ってるけど、へぇ、十五年前なのかぁ」
数百年も暴れていた魔王だから、確かに十五年前は最近という感覚なのかもしれない。
その魔王はいったいどうやって倒されたんだろう?
その答えを、レイアが教えてくれた。
「迷宮にその方法――まぁ正確には魔王に対抗できる力になるかもしれないってものだったんだけど、とにかく発見されたの。勇者召喚魔法のことが書かれた魔導書が!」
……え?
ゆ、勇者召喚、魔法……。
興奮したように話したレイアだったが、彼女はハっとして、それから頬を染めた。
「う、うん。言いたいことはわかるわ。勇者召喚魔法なんて、いきなり胡散臭い単語が出て来て、不審に思うよね」
「え、い、いや、そんなことない。うん、ないない」
ごめんなさい、少し思いました。
「そ、それで勇者を召喚して、魔王を倒せたってこと?」
「うん。百人の勇者でね」
「ひゃ、百!? いや召喚し過ぎ」
「あはは、そうよね。でも一度に召喚したわけじゃなくって、十年かけて人数を揃えたのよ」
え、十年もかけて百人召喚したのか。
でもそんなことをしたら――。
「魔王に見つかったりしなかったのかな?」
「ん。それは大丈夫。魔王はね、複数の世界を同時に滅ぼそうとしてたの」
「複数の世界を?」
天使が、転生先候補の世界が減ったって言ってたけど、てっきり複数の魔王がいたのかと思ったが。
まさかひとりの魔王だったのか。
「それであっちの世界、こっちの世界と渡り歩いてて」
「魔王が別の世界に行ってる隙に、勇者召喚をやったってこと?」
そう尋ねると、レイアが頷いた。
『魔王、五十年ぐらい前に別の世界、行って、戻って来たの二十年前、ですの』
「うん、そうなの。百人の勇者が待ち伏せをして、それでも倒すのに五年もかかったわ。その五年の間に、ほとんどの勇者は……」
「亡くなった……?」
コクリと頷くレイアとニーナ。
「魔王は倒せたけど、あまりにも長い年月の間この世界は蹂躙されてきた。再生が難しいぐらいに、ね」
「再生が難しい……で、でも魔導装置があれば、汚染された魔素も浄化出来るんだし、これからだよ!」
俺がそう話すと、レイアは驚いたように俺を見た。
「魔導装置が……そ、そうよ。全ての魔導装置を起動させられれば、少なくとも魔法都市一帯は浄化される。広い範囲で人が安心して暮らせる場所が出来るんだわっ」
「そうだよ。そうに違いない!」
「凄いことだわ、志導くん!」
思わず二人で手を取り合った。
その手が柔らかくて、彼女との距離が近くて――慌てて手を離す。
「ご、ごめん」
「い、いいの。私も、思わず喜んじゃったし。でも……出来るかな」
「出来るさ。俺には解析眼と万能クラフトがある。な、ニーナ。全部の魔導装置を起動させられるよな?」
ニーナに視線を向けると、何故かそこに彼女はいなかった。
ど、どうしたんだ、ニーナ?
「土地神様、きっと疲れたのね。ここじゃ信仰してくれる人もいなかっただろうし、いてくださっただけでも奇跡みたいなものだもの」
「そっか。疲れてしまったのか。俺たちも休もう。明日は君に借りたエメラルドの代わりも探さないと」
「え、いいの? 返して貰って」
「もちろんだよ。大事なものなんだろ?」
おじいさんに貰ったって言ってたっけ。だったら大事なものだ。返してあげたい。
「ありがとう、志導くん」
「いや、お礼を言うのは俺の方さ。それじゃ、おやすみ」
「ん。おやすみなさい」
俺たちはそれぞれ、床の上に寝転んだ。
ベッド……ベッド欲しいなぁ。
明日の朝目が覚めたら、全身痛いだろうなぁ。
――そして翌朝、目を覚ますと。
「レ、レイア? どこに行ったんだっ」
少し離れた場所で眠っていたはずのレイアが……いない!
「ふ……にゃ~ん」
「え……ね、猫おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
彼女が眠っていた場所には、昨日、塔の側で見た猫がいた。
女の残り香を求め、男は猫を吸う。
すぅー……はぁー……ぽかぽかおひさまのにおいがするぅー
次回
【猫→兎→覚醒?】はこのあと22:10更新!!
あの……みなさん、ブクマ……しましたか?




