65:ニオイ→雪の中から。
「この辺か?」
「はぁ……はぁ……こ、この辺で一軒……建てよう」
「ら、らいじょーぶ、志導くん」
「レイアこそ。大丈夫か?」
「うぅん、ちょっと、目が回るわぁ」
何故レイアの目が回っているのか。それは……。
「ったくよぉ。ちょーっと走ったぐれぇじゃねえか」
「アッパー。必要以上に跳ねてたでしょ」
「オッチャ、フザケテタ」
東から来るだろうドワーフ族が休憩できる場所を作るため、その通り道になりそうな場所に小屋をクラフトするためにやって来た。
アッパーおじさんの背中に乗って、だ。
カーラがフレイム・ボディを使って前を走り、その後ろから俺と猫のレイアを乗せたアッパーおじさんが走り、そのまた後ろから護衛のユラとユタが走る。
しかし、アッパーおじさんが跳ねる跳ねる……。おかげで俺とレイアは酔った。
「汚染された空気がなるべく入り込まないよう、窓はなしだな。でも扉を開けたら、汚染された空気が入って来るよな……」
「それは私が。扉に浄化を付与するわ。数日しかもたないけど、扉の周辺を弱めの浄化作用が常に働くから」
「そんなこともできるのか。凄いな」
「ただ、付与には時間がかかるの。二、三十分ぐらいね」
長いな。
でもちょうどいいかもしれない。
魔法を使うにために、レイアは人間の姿に戻らなくちゃいけない。
だけど移動する時には、人の姿よりは猫の方がいい。アッパーおじさんの背中に二人跨るには……いや跨れそうだねど、鞍も何もないからなぁ。
そんなわけで、時間をかけて浄化を付与した後、その分、魔力の消費も多いようなんで時間いっぱいここで休憩。猫の姿に戻ったら再出発だ。
「ニーナの嬢ちゃんの石は、どれくらい持つんだっけか?」
「一ヵ月は大丈夫だってさ。その間に次の石をニルスとコツコツ作るようだし、その時に交換だな」
「だけど扉の浄化は数日で消えるんだろ? その時はまた、レイアを連れてこなくちゃねぇ。あ、お前さん。この先はあんたが前を行きな。あたしが二人を乗せるから」
「カーラ、お願いできるか!」
やった。これでおじさん酔いせずに済む。
「なんでぃ。せっかく楽しませてやってたってのによぉ」
全然楽しくないから、おじさん。
その後、少し北寄りにもう一軒、小屋をクラフトして帰宅。
翌日にはやや南寄りの東に進んで、同じように二軒の小屋をクラフトした。
その間、ドワーフの子供たちも体調が戻って歩けるようになっていた。
そしてこうなると彼らは逞しいもので、憔悴しきっていたはずのドワーフ族は僅か三日で元気に働くようになった。
「このガラスハウスってぇのはすげぇな」
「これがあれば、冬の間も野菜を育てられるのね。中はぽかぽかだったし」
「しかし妙な造りだな。どうやって建てた……スキル? あぁ、なるほどねぇ。釘も何も使ってねぇのに、ガラスと木がくっついてんのは、そういうことか」
畑に出てはガラスハウスを観察し、土を耕し、水やり草むしりとなんでもやってくれる。
第二の町の魔導装置を修繕すれば、彼らにはそちらの町へ移住してもらうことにしているから、なるべく沢山の野菜を今から栽培しないとな。
雪解けまであと一ヵ月ほどだと、アッパーおじさんは言っていた。
雪が解けたら、北東にある町へいくつもりだ。
ガラスハウスを量産したいけど……。
「さすがにあの貝をまたってなると、絶滅しそうだよな」
「そうね……ちょっと捕りすぎてるとは思う」
「なんじゃ。石灰石か? だったら北の山へ行けばいいじゃろ」
まぁそりゃそうなんだけど。あの山に必ずしも石灰石があるとは限らない。
アッパーおじさんも知らないっていうしさ。もちろんユラも見たことない、と。
「何を言っておる。あるぞ」
「え? 本当なんですか、ディノさん?」
「あぁ。ニオイがするでな」
ニオイ?
石灰石のニオイって……何?
ディノさんがあるある言うから、じゃあってことでまたアッパーおじさんに前を歩いてもらって山へと向かう。登るのかと思ったら、岩山の麓をうろうろ。
「この辺から匂うぜ。下の層に石灰石が、真っ直ぐの層にゃ珪砂もあるぞ」
「本当ですか!?」
「ではこの辺りの岩を掘ってさしあげればいいのですね」
土属性が得意なアルパカディアのルナが、前足で山肌をどしどしと突く。それだけで岩が崩れてコロコロと転がり落ちてきた。
それを俺がインベントリに入れていく。建材に使えるかもしれないし。
ある程度掘ったら、今度は下に掘り進めるコースと真っ直ぐコースに分かれる。
真っ直ぐはルナが。
下の方へはドワーフたちが掘っていく。
途中で昼休憩をして、昼過ぎにはルナが珪砂を、夕方にはドワーフ族が石灰石の層を見つけた。
こ、こんなに早く見つかるとは。
いや、もちろん堀った距離は結構ある。
それでも、町から近い場所で見つかるとは思わなかった。
これでガラスをクラフト氏砲台だぞ!
が、それはまた後日。
明日は休憩小屋の扉に、レイアが浄化付与に行く日だ。
今回堀った穴の中に少しでも汚染空気が入り込まないよう、なんとかクラフトで扉を設置。
ニーナとニルスから貰って浄化石を穴の入り口近くの壁に埋め込んで、汚染空気が奥へ入らないようにしておく。
ドワーフ族は一日二日、魔素が漂う中にいても平気だとはいう。
一日採掘するぐらい、なんともないと。
でも、どうせなら汚染されていない方がいいに決まっている。
健康が一番だからな。
「じゃ、掘削作業は明後日からってことで」
「了解じゃ」
「また岩堀ができるのか。嬉しいのぉ」
「鉱石のニオイも上の方からしておるな。いつか掘りに行こうではないか」
こ、鉱石のニオイ!?
ド、ドワーフ族の嗅覚はどうなっているんだ。
いやそれよりも。
鉱石かぁ。鉄鉱石があれば、真新しい鉄も手に入るよな。
それはぜひとも欲しい!
そんな話をしながらわいわいと町へ向かっていると――。
「む? ニオウぞ」
「アッパーおじさんまで、何がニオウっていうんだ。まさかニンジンじゃないだろうな」
「バッカ野郎。ニンジンは町の方からニオウんだよ。わしが言ってんのは、あっちの方角からだ」
おじさんが言うあっちとは、東の方!?
積雪一メートル弱。
そんな辺り一面真っ白な世界を、首が……生首だけが動いている!?
「う、うわあぁぁぁぁっ」
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!」
俺が叫ぶと、生首も叫んだ。
ん? この生首……もしかして。
「おぉ! ザックではないか!」
「お? ディノか。やはりアレはお前からの合図であったか!」
生首じゃなくって、首から下が雪に埋もれた状態で歩いていたドワーフ族だった。




