64:新しい住民。
「レイアのおじいちゃんが、英雄!?」
「ま、周りの人がそう言うだけよ」
リオール。それがレイアの祖父の名前なのだという。
「何を言っておる。リオールは英雄じゃ!」
「そうだぜレイア。俺たち冒険者の間でも、リオールさんは英雄も英雄。あの人の右に出る者は、未だいないって言われてんだぜ」
「リオール? 迷宮探検の英雄リオールか! レイア殿はあのリオールの孫だったのか!?」
えぇぇ。バサラたち獣人族まで、リオールの名を知っているのか。
こりゃ凄い人物をおじいさんに持ったもんだな。
当のレイアは少し恥ずかしそうに、だけど嬉しそうな表情を浮かべている。
身内を良く言われれば、普通は嬉しいんだろうな。
俺には経験のないことだけど。
「リオールは魔王を倒した異界の勇者たちに、剣術を教えたほどの腕前だ。魔王討伐戦にも参加し、生きて戻って来た御仁だからの」
「それを言うなら、デュノおじさんだってそうじゃない!」
うわっ。ま、魔王を倒したメンバーのひとりだったのか!?
異世界から召喚された人たちだけで構成されていたのかと思ったけど、そうじゃないのか。
「それで、リオール殿はどうしておる?」
「あ……。おじいちゃんは、一年半前に病で……」
「そ、そうだったか……いや、すまぬ」
おじいさんのことは時々耳にしていたし、亡くなったというような話も聞いた。
でもそうか、一年半前だったのか。わりと最近だったんだな。
「い、いいの。あの、デュノさんの方は……」
「兄は恐らく生きておるよ。さっきも言ったように、わしらは土地神様のおる土地を、みんなで手分けして探しておるのでな」
「でも、手分けしていたらどこかのグループが見つけても、合流できないのでは?」
「心配はいらん。わしらドワーフは大地の妖精族じゃ。大地に祈り、呼べば届くのじゃ」
ドワーフ専門ネットワークみたいなものだろうか。
「そこでじゃ。折り入って頼みがある!」
そう言ってディノさんは頭を下げた。いや、土下座だ。
彼が言おうとしていることは、もうわかっている。
ここに集まった獣人族の人たちに視線を向けると、全員が穏やかに笑って頷いた。
「どうぞ。ドワーフ族のみなさんを、ここに連れてきてください」
「な、なんと!? わしはまだ何を言っておらんのに」
「いやぁ、だって話の流れがそうでしょう。土地神様のいる土地を探していたっていうんだし」
ここには二人の土地神がいる。そして魔導装置が動いているから、空気は浄化されている。
そうだ!
「ディノさん、実はですね」
古代魔法都市を守る五つの町。その町の魔導装置を修繕して起動させる計画を彼にも話した。
そして他の町で力を失い――正確には微かに残ってはいるみたいな――土地神様を蘇らせる計画も。そのためには、土地神様を信仰してくれる人の力が必要になる。
「わしらドワーフ族に、その町の住人になれ、というわけじゃな」
「魔導装置が動きさえすれば、数日で町の空気は浄化されます。食料は、当分の間こっちから送りますし、いろんな設備のクラフトも俺がやりますんで」
「クラフト?」
「あ、俺のスキルです。モノづくりスキルなんですよ」
と言って、インベントリから木材を取りだして見せる。それを再びインベントリに入れ、木のお皿をクラフトした。
ドワーフ族は、何も今すぐ新しい町に移ってもらうわけじゃない。
他のドワーフ族が合流するまで、そして他の町の魔導装置を修理するまではこっちで暮らしてう。
だから彼らの食器は必要だし、まとめて人数分クラフトしておいた。
「なるほど。そのスキルで魔導装置を修理するのじゃな。しかしスキルとなると、どこをどう修理するかは、わしらにはわからぬか」
「いえ、たぶん教えられますよ。え、知りたいんですか?」
「教えてもらえるのか!? いや、知っておいた方がよいであろう。今はもう、失われた技術であるのだし」
確かに……。
今は俺がスキルでどうにかできるけど、何十年後かして俺が寿命で死んだあとはどうする?
ドワーフは手先が器用な種族っていうのは、ファンタジーあるあるだけど。
「ディノさんは、職人、ですか?」
「うむ。神殿の奴らから、魔道具の修理をやらされておった。他にも鉄を打つのも得意じゃ」
「魔道具の。だったら、魔導装置もいじれそうですね。わかりました。教えられることは全部お教えしますよ。その技術を、ぜひ、代々受け継がせてください」
「うむ。この世界の再生のために、仲間たちにも伝えよう」
でも、来てもらうにしても問題があるな。
ディノさんたちは実際、アリューケまであと少しの距離で、力尽きかけていた。
アルトたちが見つけていなかったら、本当にヤバかっただろう。
「シュットランから各方面に散らばったのなら、基本的にドワーフ族は東からくるよね?」
「まぁそうじゃね? 北よりから来る連中もいるかもしれないけど、西は絶対ないと思う」
「うむ。あまり遠くに行って、まぁわしらのようになってはいかんからの。最悪、元の集落に戻ることも視野に入れて動いておったんじゃ」
だえどディノさんたちのグループは、もしかして古代魔法王朝の外周にある街なら……という希望を胸に西へ向かって歩いていたらしい。
「その集落はまだ無事なんですか?」
「無事とは言えぬ。汚染は始まっておるからな。まぁ道中の汚染よりはまだマシという程度じゃ」
「そうですか……。そのシュットランですが、浄化範囲内にドワーフ族を避難させようという動きはなかったのですか?」
ディノさんは俯き「ない」と短く答えた。
「むしろ頼んでみたが、断られたのじゃ。同じように浄化範囲ギリギリの土地に暮らす人間たちを、内側に移住させねばならぬからと言ってな」
「他の種族はどうなってもいいってことか……どこも同じだな」
歯痒そうにアルトが言う。
ゼザーレも似たようなもんだって。
そうだな。バサラたちを見れば、他種族が迫害されているのはわかる。
せめてここでは、種族なんて関係なくみんなが暮らせる場所になるといいな。




