45:獣人族→家族→訪問者。
「じゃ、教会を中心にして家を建てることにするから。えっと、一軒の家に何人暮らすのかっていうの、まとめてくれるかな?」
獣人族もこの町で暮らすことになったのだから、いつまでも教会で雑魚寝するわけにもいかない。
家の方は単純な造りであれば、十分もあれば建てることができる。
たぶん建築クラフトより、瓦礫の撤去や更地にするほうが時間かかると思う。
でもやらないわけにもいかないので、やるしかない!
「志導殿……その……実は……」
「ん? どうしたんだよ、バサラ」
「実は、家族のいない子供たちもいてだな……」
あ、そうか……。バサラやパティのような兄妹ばかりじゃないんだな。
子供たちはもう眠ってしまったが、大人たちは明日からのことを相談するために起きてもらっている。
中には里が襲われたときに、家族と離れ離れになったという人までいた。
「ごめん……嫌なことを聞くようだけど、何故君らは鈴木の、その……奴隷に?」
この世界で何が起きているのか、俺は知る必要がある。俺ももう、この世界の一員だからだ。
バサラたちは特に躊躇う様子もなく、話をしてくれた。
「俺たちはみんな、同じ里で暮らしていた同郷の者だ。三年前、里に奴隷狩りがやってきて、多くの仲間が捕まった」
「奴隷狩りっていうのはその、見境なく里を襲うものなのかい?」
「いや。獣人族の里だからだ」
「なんで獣人だと襲われるんだ。種族差別だろうっ――と」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて自分の手で口を塞いだ。
子供たちは……。眠っている子供たちのそばにはユヤがいる。子供たちは強くて優しいユラを気に入ったようで、自然と彼女の周りで子供たちは寝るようになった。もちろん、その中にはユタもいる。
そのユラが頷き「大丈夫」と言っているようだった。
「ごめん、大きな声を出して……ん? どうしたんだ、みんな」
何故か彼らはきょとんとした表情を浮かべていた。
「い、いや。まさにその種族差別故なのだが、まさか志導殿が声を荒げるとは思わず」
「あぁ、ごめんごめん。でも種族が違うからって、襲っていい理由になんかならないだろう」
どうなっているんだ、この世界の人間は。
そう思ったけど、前世でだっていくらべもあったな。
肌の色の違い、宗教の違い。その程度のことで、人間は他者を差別する。そういう生き物なんだ。
「に、人間である志導殿がそのようにおっしゃってくださるとは」
「志導殿は他の人間とは違うんだな。それにレイア殿も、獣人族と普通に接してくれる」
「いや、レイアは優しい人だけど、俺は……その、無知なだけ、かな」
「そんなことはないわっ。志導くんだって優しいもの」
と、さっきまで部屋にこもっていたレイアがやってきて声を上げた。
で、俺たちは全員一斉に「「しーっ」」と、口元で指を立てる。
レイアはハっとなって口を閉じ、後ろを見渡した。
子供たちは……大丈夫、寝ているな。
「わかっているとも。志導殿はお優しい方だ。だからこそ、ユタドラゴンやアルパディカ、それに」
バサラは礼拝堂の右奥を見る。そこにはニーナの部屋があって、夜になるとニーナはベッドの上に転がしてある木製のニーナ像に入る様になっていた。寝ている――つもりなんだろう。
「それに、と、いや、ニーナも懐いているのだろう。特にニーナだ。土地神は決して、悪党には懐かないものだ」
「そ、そうなのかな。そうだといいけど」
「そうよ。そうに決まってるじゃない。ところで、明日の作業はどうするか決めたの?」
「うん。まぁ家を建てることに変わりはないんだけど、家族のいない子供たちもいるからなぁ」
託児所、みたいなのが必要になるのかな。
みんなでいろいろ話しているときに、ひとりがポツリと漏らした。
「家族を迎えに行きたい」
――と。
「土地神様のいない場所は、人も獣人族も暮らしていけないの。でも土地神様の力が及ぶ範囲もそう広くはないから、ある意味、土地神様は争奪戦になってて」
夜、眠るときにレイアがそんな話をしてくれた。
彼女とは同室ではあるが、そこはちゃんと間仕切りでしっかり部屋を分割してある。
「でも争奪戦って言ってった、土地神様は動けないんじゃ? ニーナがこの町から出ていけないのと同じで」
「えぇ。だから土地そのものを奪いあってるの。と言っても、人間が獣人族の里を一方的に、だけどね」
「誰がそんなことを……」
「国よ。大沢くんの話だと、ゼザーレ聖国も聖法国シュットランも、年々浄化範囲が狭まっているそうよ」
だからって異種族を追い出して、その土地を人間が奪い取るなんて……。
「他にもね、鈴木くんたちみたいな盗賊団が、自分たちのアジトとして使うために異種族の里を奪ったりするの」
「なんて奴だ」
「あ、鈴木くんがそうとは決まってないのよ」
「いや、鈴木はやってるだろう」
「う、うん……だよね」
土地神様の力を維持するために、襲った里の住民をわざと何割かを残すそうだ。祈らせるために。
土地神様は悪党のために神力を使いたくはないが、残された人のためには使わざるを得ない。
それでも、祈る人が減れば土地神様の神力は減っていく。そして――。
「何年かすると、その里の土地神様は消滅してしまうの」
「なっ。自分たちだって生きるために浄化された土地が必要なのに、どうして土地神様を大事にしないんだっ」
「しーっ。志導くん落ち着いて。ううん、落ち着いていられないのはわかるわ。あいつらは、自分たちさえ生きていられればそれでいいのよ。未来のことなんて考えてない。だから土地神様がいなくなったら、その里を捨てて次の里を襲うのよ」
バサラたちの里は、そうやって襲われた土地の一つなのか。
里にはバサラたちの仲間がいるのだろう。なんとか助け出せればいいんだが。
でも俺にはその力がない。
力が……。
なんとかできないかとあれこれ考えていると、気づけば朝に。
そして――。
『大変ですの、志導お兄ちゃん。レイアお姉ちゃんっ』
「ニーナ?」
「ん……たい、へ……大変だって!? レイア、起きてっ。レイア!」
「ん、どうしたのこんな朝早くから」
『大変なのっ。人間が……人間が町の中に入ってきたのっ』
人間!?
まさか鈴木が戻って来たのか!




